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37話

 拓郎が帰った後。警察署では今回連行されて来た連中を一人一人確認していた。その結果……


「データ、完全に出そろいました。彼らはここ最近犯罪行為に手を染めていた者達で間違いないようです。更に、2人ほどナイフまで隠し持っていました……しかも殺傷力が高いダガーナイフです。こんなものをどこから入手したのでしょうか……追求する必要がありますね。更に残念ながら、ナイフから人間の血液が検出されました。凶器として使われた可能性がこれで高くなりました」


 調べが進むほどに、積みあがっていく罪状。彼らに課される刑はますます重くなっていく一方だ。その一方で……


「しかし、こいつらを拘束したあの男子生徒は……あの制服を着ていたので学校は分かるが、あの学校の科学魔法の訓練レベルが大幅に上がったというのは疑いようがないな。たった一人で、これだけの集団を相手に大けがを負わせることなく拘束するというのは相当難しいはずなのだが」


 拓郎の拘束術に、目をつける警官もいた。全員麻痺させられてはいたのだが、それ以外の大きな外傷はなく……それに加えて。


「手や足のみを麻痺させている。心臓を始めとした臓器には全く異常を与えておらず……学生がここまでやれるものなのか? 手練れの魔法使いがやったと言われても、違和感がないぞ。我々の中でも、ここまでやれる人間はそう多くはない」


 拓郎の行った麻痺について、そう評する警官も現れた。そしてまだ麻痺が続いており、手足を動かせない彼らの元に集まる警察官たち。


「──確かに、これは大した腕前だ。これを学生がやったのか……」「こいつらは、そんな男に対して突っかかったのか……彼にはあとで、感謝の礼状を出すべきだろうな。もちろん大掛かりにはせず秘かにだが」「なんにせよ、ここ最近起きていた恐喝、傷害事件の犯人はこいつらだろう。余罪をしっかりと吐いてもらわなければな」


 18歳に満たないなど、魔法を悪用した挙句凶器まで持っていた者達と言う事実の前には何の意味も持たない。彼等はこの後、余罪をすべてきっちりと吐かせられた挙句(暴行や投薬は行われていない、自白させる魔法も存在する)、相応の償い方をする事になった。



 一方で拓郎は帰った後……晩御飯を終えた後クレアの部屋に呼び出されていた。


「来たけど……何か問題が?」「たっくん、今日ちょっと戦ったでしょ?」


 クレアは拓郎を一目見ただけで、拓郎が自分の見ていない所で魔法を使って戦闘をしてきたと見破った。拓郎も別段隠す事ではない為、下校時に複数人数に絡まれた事、先に手を出されたので応戦した事、相手への外傷は最小限に抑え、警察に連行したことを報告した。


「なるほどね。そう言う事なら問題はないわ。相手の実力もきちんと見切ったうえでの交戦だったようだし……凶器も使わせずに終わらせた、と。威力も最小限で手足を麻痺させるだけに留めた、か。合格よ、襲われたからと言ってこちらが平然と殺していいなんて考えは、普段は持つべきじゃないわ。もちろん殺さなければならないという状況は存在するけれど、今回はそれに当てはまらない物ね」


 クレアからの言葉に、拓郎はほっと息を吐いた。自分の行動は正しかったのか、もっとうまいたち回りはあったかもしれないという考えはどうしてもちらついていたため、クレアからの肯定を貰えただけでも安心できるものだ。


「しかし、ちょっと警察の対応がお粗末よねぇ……そんな連中を野放しにしていたなんて。それに複数人数でからまれた人間に対し、お店の人が何もしなかったというのも気になる点ね。そいつらに脅されてたとか、魔法でひどい目にあわされてトラウマになったとかは考えられるけど、それにしたって、何かできる事はあるでしょうに。ちょっと、そこがひっかかるわ」


 クレアの指摘した点は、拓郎も妙に持ったところだった。店員にしたって、警察を隠しボタンで呼んでもいい位だと思うのだが……が、これ以上この件に首を突っ込んでも仕方がないかと拓郎は割り切った。とにかくもう終わった事だし……もし、あいつらが何らかの面倒な連中との繋がりがあった場合、動いてくれる人たちがいる。だから、後はそちらに任せるべきだと考えた。


「まあ、警察も証拠が無いと強引な手段はとれないからなぁ。でも今回の記録媒体の証拠付きでの犯行はごまかしようが無いだろう。彼等には相応の刑が執行されるはずだから、後はもう警察に任せていいんじゃないか?」


 拓郎の言葉に、クレアも「まあ、そうね。こっちが動いてもしょうがないし……この件はこれでお終いって事で良いでしょう」と話を終わりにした。これで用事は無くなっただろうから、拓郎が自分の部屋に戻ると告げると、クレアが待ったをかけた。


「たっくん、戻る前にちょっとだけ。そいつらにやった魔法を私にも撃ってみてくれない? たっくんの腕を確認したから」


 なんてことを言われたため、拓郎はじゃあと前置きしてできる限り同じような威力と軌跡でクレアに向かって魔法を放つ。クレアは当然それらを難なく迎撃したわけだが。


「ふーん、良いわね。麻痺以上の破壊を起こさない適切な威力、そして回避しにくい軌跡と弾速の速さ。これを実戦で放てたというのなら上出来よ、日々の訓練はちゃんと血と肉になっているようで何より。今後ももうしばらくは、今の訓練を行ってより魔法を精密に練り上げられるようになりなさい」


 クレアからの評価を貰った拓郎は頷いて、今度こそクレアの部屋を後にした。それから数秒後、クレアは笑みをこらえきれなかった。


(うん、良いわ、実にいいわ。たっくんはまだレベル6だけど実質的にはレベル7の域に入ってきている。たっくんの科学魔法成長が止まるまで、まだ1年以上──行けるかもしれないわ、たっくんレベル10計画! そしてたっくんのレベルが10になったらその時点で、ならなかったとしても高校を卒業したら正式にジェシカと一緒に私と結婚してもらいましょう。うんうん、ますますこれからが楽しみになってきたわ!)


 クレアは静かに、ふふふふと小さく笑う。だが、その笑みは可愛らしいものではなく肉食獣が獲物を取りに行くような笑みであった。そして、それを拓郎の気配は敏感に感じ取っていた。



(なんか寒気がするぞ。クレアの部屋の方角から……何か変な事を考えたんじゃないだろうな? 悪い予感はしないけれど、寒気が止まらない)


 人生の将来決定をすでにガッチリとつかまれていて逃げられない状況にされるための準備が着々と行われている事を感じ取った──訳ではないが、それでも何かしらを拓郎の心は感じ取っていた。なので拓郎は、クレアの部屋の方向を向きながら不安になる。


(まあ、クレアが警察署に今回の一件で警察署に殴り込みを掛けるとかはしないだろうけど……しないよな? しないよ、な?)


 信用していないわけではないのだが……それと同時に吹っ飛んだところがある事を知っている為、その辺りの恐怖があるのだ。これは付き合いが長くなり、信頼できるからこそ逆に恐怖を感じると言った所だだ。そんな恐怖心を抱えつつ、拓郎は部屋に戻る。


(それはまあ一旦置いておくとして……思いがけない実戦だったが、それでも体は動いたな……これは間違いなく、今までの経験が生きている。クレアと出会う前の自分だったら、間違いなく何もできないままあの連中にひどい目にあわされていた)


 部屋に戻った拓郎は、目を閉じて今日の一件を思い出す。一方的に絡んできて、魔法まで放ってきたあの連中……それらをできる限り必要最小限に抑えた魔法で相殺し、そして反撃を叩き込んだ。確かに、初めての実践としては及第点、かも知れない。


(もちろん、だからと言ってこの手の問題に積極的に首を突っ込むつもりはないけどな。俺はゲームに出てくる正義の味方でもなければ、さすらいのヒーローでもない。ただの人間なんだ……コンティニューなんてない、殺されたら死ぬ人間なんだ。そこを、忘れないようにしないと)


 今回は上手く行った。訓練の成果も出た。でも、次も同じようにいくなんて保証はどこにもないのだ。そして保証があったとしても、調子に乗ればその先にあるのは今日絡んできた連中と大差ない未来しか待っていないだろうと拓郎は考える。


(とにかく、今回はたまたま上手く行っただけ。そう、たまたまなんだ。調子に乗るな、ちょっとでも手練れの相手が現れたらどうなるかなんてわからない。慢心できるような力は、自分にはないんだ。それを忘れてはダメだ)


 そう考えて頭を十分に冷やしてから風呂を済ませ、魔法による何の保証も安全もない戦いをした事による疲労も相まって拓郎は早々に眠りについた。もっと訓練をしなければならないと、内心で思いながら。

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