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36話

「おい、その制服は……ちょっとツラ貸せや」


 あまりにも全時代的な言葉で呼び止められたのは拓郎だった。この日の拓郎は買いたいものがあったため、下校時のルートを普段とは異なる形で取っていた。買い物も終わって、後は帰るだけとなったところで男性の複数人に囲まれたのだ。彼らは皆私服なため、どこの学校の人間かは分からない。


「お前たちの学校だけ、特別扱いを受けているそうじゃないか。そう言う不平等、よくないと俺は思うんだよなあ?」


 最初の男とは違い人物が、ややねっとりとした感じでそんな事を拓郎に向かって口にする。しかし、世の中は不平等な物だ。生まれてくる時間、国、そして家庭。そのどれもを選ぶことはできないのだ。だが、それらを考慮した上で……この時代、日本に生まれてきた人間は世界全体的に観れば十分恵まれた方なのだが……


「だからさ、お前達は学校に自ら言うべきだ。こんな不平等はいけない、他の学校にも同じ様に魔法を教える人間を派遣するようにしなければいけないって。それが人の道という物だろう?」


 また別の男性が拓郎に向けてそんな言葉を吐いた。もっともらしいような事を言っている様にも感じるかもしれないが、一人を複数人数で囲んで脅すような状況にしている人間の一人であり……人の道を説く資格などないだろう。


「これを持ってな、今すぐ学校に戻って……あとはどんな話を校長に対してすればいいかわかるよな? なあ?」


 と、拓郎に向かって録音するための小型機器を押し付けようとしてくるこれまた別の男性。が、拓郎にとってはどれも受け入れる理由のない話である。拓郎はため息を小さくついてから科学魔法による肉体の強化を素早く実行。囲みを跳躍する事で軽々と抜け出した。囲みを抜けられた男性たちは一瞬あっけにとられるが──すぐさま怒りを顔に滲ませて拓郎に詰め寄ってきた。


「てめえ! 逃げる気かよ! 逃がす訳ねえだろうが!」


 男性の一人はそんな事を言いながら右手で拳を作り、拓郎の顔面に向かって何の躊躇もなく殴りかかってきた。拓郎はこれに対して魔術による壁を作る事で対処。拓郎の顔面数センチと言った所で拳は止まる。


「こいつ……! おい、お前らもやっちまえ! こういうすかした奴は痛い目を見ないと分からねえ! 殺さなきゃいいんだ、多少燃やしたり痺れさせたりさせて反省させろ──」「つまりそれは、暴行を振るうという宣言に他ならないと判断して良いんだな?」


 殴りかかって、拓郎の魔術で止められた男性の言葉に対し──流石に拓郎もこれ以上は黙っていられないと判断。戦闘態勢に入る。この場合、先制攻撃してきたのは相手側であり、さらには燃やしたり痺れさせたりと言った言葉で魔法による攻撃も加えるとぞ、という脅しを行ったという事になる。言うまでもなく、犯罪行為に該当する。


 実際に使う、使われないに関係なくこういう脅しを受けた場合は……脅された側が戦闘行為を行っても罰されない。そうでなければ仕掛けられた側が危険すぎるし、自己防衛が出来ないからだ。これによって相手に重大な損傷を与えたとしても過剰防衛ともならない。こう判断されるようになったのにはもちろん理由がある。


 過去の事例として、今回の拓郎のような状態となり、脅し、並びに暴行を仕掛けてきた側に対して仕掛けられた側が返り討ちにした結果……やり過ぎだと言う事で過剰防衛の罪に問われた事がある。それが広まると、同じように脅しをかけられた側が過剰防衛になることを恐れた結果、防御行為すらままならず(特に炎の壁などは、防御手段として用いても相手を焼く事になる)凄惨な事に繋がる事件が多発したのだ。


 この状況を鑑み、意図的に相手を挑発して先制攻撃を仕掛けさせたなどの理由がない正当な自己防衛の場合には、攻撃を仕掛けてきた側に対して大怪我を負わせても罪に問われないことが決まった。これにより、先の過剰防衛に問われた人も無罪となっている。


 なので、ここで拓郎が仕掛けてきた側の男性連中に対して半死半生の大怪我を負わせたとしても罪にならない。更に拓郎は、絡まれた時から記録媒体を起動しており証拠も押さえている。なので、すでに絡んできた連中に逃げ場はない。一番いいのはここでやめておくことだ。そうすれば拓郎も仏心の一つも出して訴えるような真似はしなかった。だが、そんな事を察せる人間であるのであれば、このような愚かな行為には出ないのだが。


「お前をボコった後、記録媒体はしっかり破壊させてもらうに決まってるだろーが。安心しろ、命まではとらねえからよ……その代わり、すげえ痛いぜ? 俺の雷魔法による拷問は、一級品だからよ」「それに、周囲をよく見てみな? 人気がほとんどえねえだろう? 叫んだところで助けなんか来ねえぜ。素直に俺達の言う事を聞いてれば、痛い目に合わずに済んだのによ」


 そして馬鹿笑いをする拓郎に絡んできた連中。自分達の方が強者であり、拓郎は獲物。そう認識しているからの行為である。またこういった行為で相手を追い詰め、やってくるであろう暴行に怯える顔を見る事もまた、彼らの楽しみの一つであった。だが。だが。彼らは欠けていた。手を出していい人間かどうかを見極める目が欠けていた。今までは、ただ偶然上手く行っていただけに過ぎなかったというのに。


 そして、拓郎の腹の内も決まった。こういう魔法を悪用している連中はしっかりと痛い目を見せなければならないと。そして後は警察に引っ張っていき、相応の報いを受けさせることも決めた。やり口、言動、どれをとっても初犯ではない。粗を探せばぼろぼろと出てくるものがあるだろう。


(ちょっと暴れるぐらいは……多めに見てもらえるよな?)


 証拠もあるし、やり過ぎなければいいだろう。すでに戦闘態勢に入り、拓郎は何時でも動けるようにしているのだが……馬鹿笑いをしている連中はまだそのことに気が付かない。やり過ぎないようにしなければいけないとは思ったが、この様子だと手加減がすごく難しそうだななんて事を思ってしまう。


「さて、それじゃ始めるか」「勉強の疲れを、ストレスをはっさーんってね」「さて、何秒で泣き入れてくるかな? もっとも許したりしねえけどな」


 そんな事を云いつつ、拓郎にゆっくりと近づいてくる連中。隙だらけだなと拓郎は思ったが最初の手出しは向こうからやらせようと決めていたため、先制攻撃はしない。そのまま待っていること10数秒……ようやく最初の攻撃が飛んできた。雷魔法で拷問をやっていると口走っていた男の雷による射撃攻撃だ。


 が、拓郎が即座に展開した魔法の障壁に当たってあっさり霧散。弱々しい音を立てて雷の魔法は消え去った。想定外の事が起きたため、拓郎に絡んできた連中の動きが止まる。流石にもう攻撃を、しかも魔法による悪意の攻撃を受けた拓郎は待たない。雷魔法を撃ってきた男に近寄って電撃を纏わせた拳を腹に打ち込む。


「ぎゃあああああああ!?」


 大きな悲鳴を上げて、あっさり倒れる男。もちろん最大限に手加減しているので命に別状はない。ただ暫くは痺れて動けないだろうが……それぐらいで済んでいるのだから軽いものであると言った所か。そんな男から視線を外し、残っている連中に拓郎は目を向ける。


「お前たちは今、こちらに向かって明確な魔法攻撃を行った。これは立派な違法行為であり、犯罪だ。よってこの後警察に連行させてもらう。覚悟はいいな?」



 この手の人間は、反省という物をしない。これは拓郎の言葉ではなくクレアの言葉である。指名手配されている彼女ではあるが──むしろ魔法を悪用していた警察が手を焼く人間をひそかにを始末(始末内容はご想像にお任せする)してきた彼女曰く、魔法を遊び半分で他者に向ける者。脅しに使う者。徒党を組んで少数を囲み、様々な物を巻き上げる連中は決して改心しないという持論を持っていた。


「たっくん、この手の連中を私は絶対に許さない。大勢の人を不幸にして、自分達だけは大笑いしているような下種よ。たっくんはそうならないでね……私の手でたっくんを始末するような真似はしたくないから」



 なんてことを言われた事がある。そして今、拓郎はそのクレアの言葉を身をもって理解した。ああ、目の前にいるこいつらは確かに改心なんてしそうにない。暴行を振るい、犯罪に手を染め、その自覚すらない。ゆくゆくはまっとうに生きている人の人生を破壊し、命を奪い、それでも下品な笑い声をたて続けるのだろう。


「こいつ……一斉に攻撃を仕掛けるぞ! 数で押しつぶしてしまえ!」


 そんな声の後に、複数の魔法が飛んでくる──だが悲しいかな、学校の訓練に比べるとまるで児戯としか言いようがない魔法しか飛んでこない。何の工夫もなく、ただ拓郎に向かって一直線に飛ばすだけ。だが、魔法のレベルが低い人が受ければただでは済まない威力である事もまた事実だった。そんな魔法を一人に向けて複数放つ──普通に相手を殺しかねない行為だ。


(ふざけるな)


 怒りの感情を何とか抑えつつ、飛んできた魔法を全て相殺する拓郎。拓郎にとって魔法とは救いである。大勢の人の命を救うことが出来る物。もちろん、その考えを他者に押し付けるつもりはない。だが、こうして悪用するためだけに魔法を振るう連中を相手にすれば、腹の一つも立つ。が、その感情に流されて相手を殺す魔法を使うのは……この手の連中と大差ない。


 故に、威力は控えめに抑えつつ動きを止められるように電撃の魔法を全員にぶつけた。彼らは守りの技術があまりにもお粗末で、拓郎の魔法を防ごうとしたが一瞬で防御の壁が消失してほぼ直撃を受けていた。汚い悲鳴が周囲にこだまする。決着は、実にあっけない物だった。痺れて動けなくなった連中を拓郎は浮かせ、運び出す。


「最寄りの警察は……ここか」


 警察に到着した拓郎は、証拠として記録媒体を提出し、まだしびれが抜けていない絡んできた男達を警察に預けた。数分後、警官の男性一人が書内で待機していた拓郎の前にやってきた。


「全ての確認が取れました。彼等には相応の罰則が加えられることとなるでしょう。しかし、それにしても素晴らしい腕前ですね。命に別条が出ないようにしながらも痺れさせて動けないようにしている……失礼ですが学生さんですよね? とてもじゃないですが、学生さんが使う魔法のレベルではないですよ」


 警官は、そう言って拓郎の科学魔法の腕前を褒めたたえた。これにお世辞は一切含まれていない。この警官は科学魔法にかなり関わってきた経験があり、その彼から見ても学生レベルでは決してない事が分かったからだ。


「お褒め頂き恐縮です。ですがそれは積み重ねた訓練のたまものであり、その訓練を行ってくれた先生のお陰ですからね。私がすごい訳ではありません」


 目上の人との話なので、拓郎は俺ではなく私と自分の事を表現している。


「その制服は……なるほど、最近めきめきと魔法の腕を伸ばしている学校があるとは聞いていましたがまさかここまでの腕を持つ生徒がいるとは。これはぜひ、我々も視察に伺わねばならないかもしれませんな」


 はっはっはと笑いながらもその目は決して笑っていない事に、拓郎は気が付いた。恐らくこれほどの腕を持つ人間が悪事に走ればどれほど危険かと言う事を感じ、その芽が生まれていないかを確認したいのだろうなと拓郎は予想した。警官からしてみれば、無理もないだろう。


「校長先生に申し込めば、たぶん大丈夫だと思いますよ。それに──」


 拓郎はしっかりと、警官の目を見ながら言葉を続ける。


「教えている先生は、もし悪い事に使った場合……地獄を見せると生徒全体に宣言していますからね。あの言葉と圧を受けてなお悪事に魔法を使う奴は、よほどの馬鹿しかいないと思います。まあ、もちろん残念な事のその馬鹿がいない保証はどこにもないので……そう言う意味でも引き締めのために、警察官の皆様が視察に来るのはありかもしれません」


 拓郎の言葉に、警官はニッと笑った。面白い、と言う事を顔に表していた。


「なるほど、そう言う事であれば申し込む様にさせていただきましょう。なんにせよ今回はお手柄と言っていいです。だが無理はしないでくださいよ? 今回は上手く行ったからもっとやってやるなんて考えて、一人で犯罪者を捕まえてやるなんて考えに走らないように。そう言うのは、警察の役目だからね」


 警官の言葉に拓郎は素直に頷き、「はい、今回はやむなくやっただけですので」と返答を返した。その後拓郎は警察署を出て家に無事帰宅。だが、一方で警察署は少し騒ぎになっていた──

ジム通いは続いています……が、体があちこち痛い。筋肉痛なんでしょうねぇ。


ただ、腕も足も通う前と比べて多少ですが太く頑丈になった気がします。今後も続けないと。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] むしろ魔法を悪用していた警察が手を焼く人間をひそかにを始末 →むしろ魔法を悪用しており警察が手を焼く人間をひそかに始末 ※警察が魔法を悪用した、とも読み違えるのを防ぐ修正案です。ご検討…
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