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32話

 翌日。通常の授業は普段と変わりなく進み、四時限目の科学魔法の訓練時間がやってきた。そしてここで、クレアから拓郎が今日からは生徒達との組手を兼ねた訓練を行う事が伝えられた。


「おい、拓!? クレア先生の言っている事は本当なのか!?」「ちゃんと前を向いておけよ……それと本当だ。これ以上喋ってると怒られるぞ」


 驚いた雄一に拓郎は淡々と答えを返して雄一を静かにさせた。あちこちからざわめきが起こるがクレアはお構いなしに話を続ける。


『はいはい、色々心配になるかもしれないけど私達がしっかり仕込んでいるから問題はないわよ。そもそもたっくんは回復魔法だって使えるからね。それに、貴方達にとってもいい経験になるでしょう? 魔人や魔女じゃなくったって、貴方達はまだまだ科学魔法のレベルを上げることが出来る。その切っ掛けを掴む機会だって考えなさい』


 拓郎の回復魔法の腕は、例のバス事件によって証明されている。事実今の拓郎の腕ならば、複雑骨折だとか難病だとかの難易度が非常に高いものでない限り問題なく治療できる。すでに実践に出てもいいレベルの腕を備えているのだ。なので当然、耳ざとい連中からスカウトの話もちらほらと飛んできていたりする。腕のいい回復魔法使いはどこも欲しがっているのが実情だからだ。


『それじゃ、この後たっくんと組手をする人を選抜するから、名前を呼ばれた人はたっくんの近くに集合してね。たっくんは今から所定の位置に移動して頂戴。じゃ、名前を呼ぶわよ──』


 クレアによって名前を呼ばれた21人は、拓郎の前に集まった。全員が集合したことを点呼を取って確認した拓郎は一回大きくうなずいてから口を開いた。


「ということで、今日からは俺も教師の真似事っぽい事をすることになりました。実際教師の手が足りてないって事は誰もが分かっていると思うので、こういう訓練がある事も了承して欲しい」


 拓郎の言葉に、異を唱える人はいなかった。そう長い時間ではないにせよ、毎日拓郎のやっている訓練を見てきたので反論なので出ようはずもなかった。


「拓郎さん、一体どういった訓練をするんですか?」


 集まった生徒のうち、一人の女性生徒が声をあげた。それに対して拓郎は事前に教えてもらっていた通りの返答を返した。


「今から7人のグループを3つ作ってもらう事になるかな。なおメンバーはすでに決まっていて、バランスを重視した編成になっているってのが先生たちから聞いている話だ。組み訳が書かれたプリントを今から配るから、それを見て各自集まって欲しい」


 と、事前に実らっていたプリントを手渡し、7人3チームに分かれてもらった。組み分けが行われた事を確認した拓郎は、この状況でやる事を発表する。


「これから7人を1チームとして、俺との科学魔法を用いた組手を行ってもらう。1チーム5分で、とにかく科学魔法を用いた攻撃、防御、回復、補助などすべてを駆使して俺が行う行動に対処して欲しい。勿論、いきなり全力を出して襲い掛かる事は無いから安心して欲しい。でも、徐々にペースを上げていくので、油断だけはしないようにして欲しい」


 拓郎の言葉に21人の生徒はみな真剣な表情を浮かべながらうなずいた。そして早速最初の7人が拓郎の前に立つ。


「じゃ、そちらから攻撃を仕掛けてくれ。それから五分間組手を休みなく続ける事になるから、いきなり全力を出すとばててしまう。ペース配分も考えてな。じゃ、開始だ。なお、30秒たっても何もしてこなかったら此方から仕掛けるので念の為」


 拓郎の最後の言葉に、!? と驚きの表情を浮かべる21人だが……これは訓練だ。5分間見合っているだけじゃ何にもならない。だから30秒が過ぎても何もしない様なら拓郎から仕掛けて良いと許可が下りているのである。


「どうする?」「どうするもこうするも、仕掛けるしかないだろ。訓練だし、殺しには来ない、筈」「とにかく、最初は全員が得意な魔法を全力で、そこから先はペース配分を考えて。これしかないでしょ」「うん、その意見に賛成。もう時間がないよ」「ああもう、やってやるわよ!」


 そんな会話を経て、7人の生徒達は拓郎に向かって今自分が使える最高の魔法を拓郎に向かって発射した。炎が、氷が、風が拓郎へと向かって飛ぶ。が、拓郎はそれらすべてを軽く手を振るだけでかき消してしまった。実力差があり過ぎるため、軽く魔力を纏った手を振る事で、全てをかき消せてしまったのである。


「よし、その調子てどんどんやってくれ。こちらからも時々反撃を入れるからそれに対しては防御するなり回避するなりの対処をいつでもできるように身構えていてくれ」


 あっさりと自分達の全力の魔法を消させて、一瞬あっけにとられてしまった7人。だが、これならこちらがガンガン魔法を使っても拓郎を怪我させる心配はない、と言う事は理解できた。そこからは、7人がおのおのの形で拓郎に対して攻撃魔法を用いて攻撃し、補助魔法で仲間の能力を上げ、妨害魔法で拓郎の動きを制限しようと動いてくる。


 それらに対し拓郎は回避、相殺をメインにした立ち回りで防いでいく。シールド系の魔法もあるのだが、それらには極力頼らずに飛んでくる魔法を、適量の魔力で相殺する。飛んでくる魔法の量は流石にクレアやジェシカと比べると少ない──魔女と比べること自体がナンセンスだが──数が少ないので魔法をよく見て適切な魔法量による魔法行使で、消耗を抑えての立ち回りを行う動きの良い訓練になっていた。


「そろそろテンポを上げても大丈夫か? 少しずつ反撃の量を増やしていくぞ!」


 拓郎の言葉に、対峙している7人は表情をより引き締めた。心の準備は出来た事を確認してから、拓郎は威力を最小限に抑えた魔法を反撃として増やし始めた。ただ、真正面から飛ばすと簡単に迎撃されるので、軌道や速度はバラバラにした上で7人に向かって放つ。威力も最低限なので、万が一命中してもちょっと熱い、冷たいと言った感じしかしない。


 だが、それを感じると言う事は直撃していると言う事であり、もしそれが一定レベルの魔力が込められたらどうなっているか分かるな? という警告でもある。もちろん大多数の人が魔法が使えるから、と言って戦いの場に出る事はない。だが、それでも常に万が一は付きまとうのだ。戦いだけではなく、機械の故障だとか拓郎のように事故に巻き込まれるとか……危険という奴はいつやってくるか分からない。


 その危険に万が一出くわした時に、応急的にでも対処できるか否かでその後の生存率、もしくは怪我の度合いが変わってくる事は想像に難くないだろう。そういう時に備えて、反射的に防御できるようにする事もまた、この訓練の狙いである。なので、拓郎もクレアやジェシカから、意地悪な軌道で攻撃を行うようにと指示が飛んでいる。


「つめてっ!?」「あっつ!?」「痛い!」「ちゃんと見切って避けるなり防御なりしなよ! それがもしちゃんとした魔法攻撃だったら死んでるよ!」


 拓郎の手数が増えた事で被弾する生徒が出るが、そんな生徒を叱咤する生徒もまたいた。これなら俺があれこれ言わなくていいなと拓郎は判断し、各自がぎりぎり対処できるか否かのラインを見極めて反撃を行う。散々拓郎がクレアやジェシカにやられてきたことだ、その効果は実体験として理解している。最も──


「避けらんねー!?」「避けられないなら防御しなさい!」「ちょ、防御を張った側面から飛んできたんですけど!?」「真っ向双面からしか飛んでこないなんて言われてねーぞ!」


 今必死で対処しようとして大騒ぎな7名にとってはてんやわんやの大騒ぎで、そんな事を気に掛ける時間は全くないだろうが。残り30秒の間、そんな大騒ぎを7人はし続けたのであった。


「5分経った、終了。後ろに下がって休憩してくれ」「お、終わったのか」「な、長い5分だった……」「もう動きたくない……」


 拓郎の5分経過の言葉に、対峙していた7人の生徒は全員がその場に崩れ落ちた。そのまま荒い息を吐いて動き出さないので、拓郎が魔法で持ち上げて後ろに用意してあった休憩のためのスペースまで移動させた。


「さらっと7人を涼しい顔で運んだぞ……」「同じ学年の人間が出来る事なのかよ……」「あそこまでは行けなくても、少しでも追いつきたいって欲は出てきたけどな」「ああ、それは言えてる。到達したという前例が居るのなら、俺達だって少しぐらいは迫れるはずだ」


 そんな会話が聞こえてきたことに、拓郎は安心していた。目の前の物ごとに対し、意気消沈されてしまっては訓練にならない。だが、こうしてやる気を見せてくれるのであればその心配はない。まあ、クレアたちが選抜した生徒達だから、そう言う上昇志向の強いメンバーを集めたんだろうと予想もついた。


「じゃ、2つ目のグループの7人上がってくれ。やる事は1つ目のグループと同じだ。俺に向かってじゃんじゃん魔法を撃ち、俺が行う反撃には防御でも回避でもいいから対処してくれ。じゃ、始めようか」


 拓郎の言葉に7人も頷き、すぐに魔法の準備を始めた。そうして、2回目の拓郎が生徒に行う訓練は始まった。

以前から運動はしてきたんですが、下半身の運動ばかりで上半身がなまっている事を考慮し、

ジム通いを始めました。2回ほど行ったらあっさり筋肉痛に……

でもだらしない体でいるよりはましなので、今後も通って体を鍛えようと思います。

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