表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/125

31話

 そして夜。風呂などを済ませて後は寝るだけになったタイミングで、自室でクレアとジェシカから今日の訓練を周囲が見学する事に集中していた事と明日からは訓練内容がまた変わるかもしれない事を拓郎は告げられた。


「そんな事になっていたのか」「食い入るように見ていたからねー……特にたっくんが六つの属性の魔法弾を生み出した後に砕いてばらまく攻撃をジェシカに行ったでしょ? あの辺りからますます注目を浴びてたわ。ま、むりもないけど。夏休み、レベルが上がらなくてもただひたすらに努力してきたことによって貯金が大量にあった事が良い方向に動いたわ。たっくんはレベル6の中では十分強い方にいると言えるもの」


 クレアからの言葉に、己の成長をかみしめる拓郎。夏休み、がんばってきた甲斐があったとの実感がここでようやく噛み締めることが出来たのだ。自分はここ止まりなのか? と自問自答しながらも必死で訓練を受けてきたことは、今こうして実を結んでいるのだと。


「ですが、それに舞い上がってはいけません。今の拓郎さんならレベル7はもちろん8も射程内にあると言えます。残された時間はそう長い訳ではありませんが、それでも努力を積み重ねればまだまだ先がありますから気を抜かないようにしましょう」


 ジェシカから念押しが入るが、拓郎はそれにしっかりと頷いた。18歳までは魔力レベルを上げることが出来る以上、ここはまだ通過点。レベルが上がれば上がるほどに使いこなせる科学魔法は増えていく。特にレベル8ともなれば、よっぽどの大けがでないかぎり集団回復で一気に治癒できるだけの力を得られる。そこが、拓郎にとっての目標としているラインだ。


「ジェシカさん、分かってるよ。ここはまだ通過点。レベル8が自分にとってのゴールライン、そして本当のスタートラインだって事は自分でも理解している。そして何より、あの日……回復魔法を使う人間になるとはどういうことなのかと言う事を学んだんだ。心が痛む事だったけど、あの痛みは必要なものだったんだろう……それを知ったから、成長に喜ぶことはあっても舞い上がったりはしないよ」


 バスが事故を起こして、大勢の怪我人を治したあの日の経験は拓郎にとって辛いだけの物ではなく、覚悟を決める切っ掛けとなった日でもあった。そんな覚悟を本当の意味で決めたからこそ、拓郎はこのぐらいの通過点では、決して舞い上がるような事はない。まだまだ先は長いと、心身両方で深く理解したのだから。


 拓郎の表情を見て、その言葉が内心から出た物であるとクレアとジェシカは理解し、静かに頷いた。このまま慢心なく成長していけば一角の人物になってくれるのは間違いない。そして慢心を起こさないように指導していくのが自分達の役割であると再認識する事にもなった。


「そうね、どんな立派な人であっても慢心すれば、そこから腐って崩れていくものよ。残念ながら、そんなものを私はいっぱい見てきたからね、もちろんジェシカもだけれど──だから、どうしても釘を刺したくなっちゃうのよ。たっくんがそうなると疑っている訳じゃないんだけど、どうしても、ね?」


 クレアの申し訳なさそうな言葉に、拓郎は分かっているの意思を込めて頷いた。彼女たち二人が、悪意を持って接する事などありえないと拓郎もすでに信頼を置いている。だが、信頼している事と警告する事はまた別問題。間違った方向に行かない為に忠告をしたいのだというクレアやジェシカの心境を、拓郎も正しく理解していた。


「その話は一旦ここまでにして……拓郎さんに明日からの訓練について教えておきたい事があります。宜しいですか?」


 ジェシカの言葉に、拓郎は「わかった、話してほしい」と告げた。ジェシカは頷き、訓練内容を説明する……その内容に、拓郎の表情がやや曇った。


「本当に、それをやるのか?」「そうです、これもまた拓郎さんにとっての訓練にもなります。常に全力では息切れするもの……魔法の力を状況に応じて強弱を変える訓練は今までもやってきましたが、明日からは複数の生徒と戦いながらそれをより実践的に磨いてもらいます。過剰に傷つけるような事はもちろんダメですし、防御しきれず自分の体にかすり傷を負うのも当然ダメです。いかににぎりぎり必要な分の魔力調整が出来るか……それを磨くのは魔人、魔女であっても大事な訓練です」


 ジェシカが告げた内容は、明日からは拓郎が複数の学校の生徒と戦う事。複数人を相手に、今まで拓郎がクレアやジェシカにやってもらった訓練と同じことを複数人の生徒相手にする事。もちろん一定レベルに達している生徒のみに限定するが……それでも今の拓郎が力を強く振るえば大けがさせてしまう。そんな彼らを相手に軽傷レベルのダメージに抑えつつ、一方で自分は無傷で居続けなければならない。


 複数かつそれなりに長く戦う為、何も考えずに相手の魔法を魔力を垂れ流すように使った防御なんて行為をすれば、当然息切れしてしまう。そうならないように、相手が放ってくる魔法の威力を素早く見切り防げる最低限の魔力で防ぎ続けろと言うのがお題の一つとなる。レベルが多少違う魔法が次々と飛んでくる事は言うまでもなく、それを見切って必要最小限の魔力で防御し続けるのはかなり骨な防御行為となる。


 が、これが出来るか出来ないかで戦闘続行能力に雲泥の差が出てくる。いくら魔人、魔女であってもさすがに魔力を垂れ流し続ければ消耗が速いし息切れする。戦いの真っ最中でそんな事になってしまえば狩られるだけだ。それを避けるため、魔人や魔女であってもこの手の訓練は必至である。訓練をしない魔人、魔女はもちろん少数ながら存在するが、彼らが長生きしたという記録は戦いを避ける性格でない限りほとんどない。


「なるほど、魔人や魔女の皆さんでも常に磨き続ける必要がある部分なんだな」「大変だろうけど、間違いなくたっくんの血や肉となる訓練なのよ。それに、たっくんに胸を借りたいって生徒が実は結構いてね……彼等の意思を組む事にもつながるのよ。だからお願いできないかしら? この訓練は回復魔法にも応用できる要素だから、絶対無駄になる事はないわ」


 クレアにそう言われれば……というだけでなく、拓郎も分かっていた。教師の手が足りてない事などとっくに。だがここで自分が訓練を兼ねた生徒との手合わせを行えば、少しは助けになるだろうとの考えに拓郎が至ったのは至極当然と言っていいだろう。自分の訓練も出来る、クレアたちの手伝いも出来る。そうなれば、やらないという選択肢は拓郎の中にはない。


「わかった、その訓練をやる方向で進めて欲しい。いろんな訓練はやっておくべきだし……それに、やっぱり授業中の教師の手が足りないのは嫌でもわからされていたから、自分が多少でも受け持てればそっちをサポートする事にもつながるだろ?」


 拓郎の返答に、クレアとジェシカは感謝を告げた。実際予定以上に授業中は忙しく、そこに加えて拓郎の訓練にクレアかジェシカをつけなければいけなかった事で手がますます足りなくなっていた。だがこれで授業中だけは拓郎が数人でも受け持ってくれて、クレアとジェシカがフリーになれば状況はかなり改善される。


 拓郎がやる、と意思表示を行ったので次々と明日からの授業の予定が決まっていく。とりあえず拓郎には12人をつけて、3人づつ戦ってもらいながら感覚を掴んでもらうという話で決まった。最終的には30人を同時にやれるぐらいになって欲しいというクレアからの言葉に、拓郎は分かったと返答を返した。


「これで明日からはある程度他に手が回りそうね」「そうですね、ですがこの授業内容を他の学校にもやるのは流石にむりですね。ジャックやメリー、そして猛勉強を開始した教師陣の協力があって何とか回るという所ですから。他の学校で、もし拓郎さんが来てくれたとしても……手がやはり足りませんね。他の学校の教師陣は当てにしていいのか分からないので数にカウントできませんから」


 やはりそう言う話はまだまだ来ているのか、と拓郎もクレアとジェシカの会話から察した。気持ちは分からんでもないけど……と拓郎も理解はするが物理的に無理だろと結論付ける。教師たちが科学魔法の勉強を改めて始めた事は、すでに学校の生徒達にも伝わっている。科学魔法レベルはもう上がらないが、それでも科学魔法の使い方の技術は別である。


 そんな努力をしている事もあって、最近の科学魔法の訓練時間の進みがスムーズになってきた事は生徒全員が感じていた。以前は質問されると少し返答に時間がかかっていたが、今なら大抵の事ならすっと返される。実演も以前はあまりされていなかったが今は教師が率先して行うようになった。


 そうなれば当然生徒も変わる──ましてや拓郎の影響で火が付いている以上、明日からの訓練はより激しさを増す可能性は高い。ここに拓郎が直接生徒を受け持てば、また新しい刺激が生まれて生徒全体のやる気を引き出す事に繋がっていく可能性は十分ある。


「じゃ、これで明日の話はお終い! たっくんお疲れ様」「ああ、明日からまた新しい挑戦が始まるみたいな感じで挑むよ」


 全ての話が終わった事を告げるクレアに、拓郎も返答を返した後に背を伸ばした。明日からはまた新しい訓練かつ自分について来ようとする同年代の人間との関わり合いが増える事になる。そのことが少し楽しみで、少し怖いような感じを拓郎は受けていた。こうして、拓郎の新しい訓練が幕を開ける事となった。


「じゃあ、後はしっかり明日に備えて寝ましょうね?」「そうですね、睡眠はとても大切です」


 いうが早いか、クレアに右側、ジェシカに左側を掴まれて拓郎はそのままベッドに運ばれて添い寝モードに入らされてしまった……しかし、慣れとは怖い物。そんな状況下であっても拓郎はぐっるりと寝ることが出来たのであった……

アニメ化作業をいろいろやっているのですが、正直これはやってみないと分からないなって事が

結構あります。こういった経験をさせて貰えただけでも、色々とためになっている事を感じます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ