クラスメイトの未来を救う治療
時間取れたから更新したよぅ!
クレアとジェシカのバックアップを受けた拓郎は、なんとなくの感覚で立候補した男子生徒の顔の前に右手をかざした。すると──拓郎の脳内にはいくつもの無理やり引きちぎられたかのような感じでバラバラになった幾つもの管が浮かんできた。更にその管には全てにひびが入っており、さらにはあっちこっちにバラバラに飛び散ってしまっている。それに、数か所ここに繋がっていないといけないと直感でわかる場所が複数ある。
(たぶん、この繋がっていないといけない場所に、ひびの入った筒を繋ぎなおした上で修復を行えばいい。そう感じる。筒は……なるほど、感覚で動かせるのか。そうすると……筒を一つづつこう引っ張ってきて──なるほど、くっつけるのは回復魔法で溶接するような感じで……)
一つづつ筒を集め、溶接し、一つの筒に治していく。筒もこれを繋ぐべき、これは繋いではいけないというのも感覚でわかる為、作業自体は難しくない。だが──精神の消耗が激しい。クレアとジェシカの二人からのバックアップがあってなお苦しい。だが、根を上げればその瞬間、自分に全てをかけると言ってくれたクラスメイトの運命が悪い形で決まる事になる。
(そうは、させるかよ! 俺は、俺は、助けるために回復魔法を学んできたんだ。鍛えてきたんだ! そして今目の前にすがるように助けを求めている人がいる……ここで逃げたら、きついからって投げ出したら、俺はこの先誰も救えない!)
消耗した精神を、気合と根性と意地で無理やり回復(した気分)して、治療を続ける。管を繋ぎ、あるべき形に整え……何とかつなぎ終えた。つながりが間違っていないことを確認し、回復魔法をかける事でひびの入った管を修復していく。この管は金属ではない……故に回復魔法が通じる。
──かなり修復に魔力を持っていかれたが……それでも、出来るだけの事はした。ひびの入った管は全て、本来繋がっているべき場所へと配置した上で修繕を行った事により、きれいな状態へと戻った。これ以上、できる事は何もない。そう結論を出した拓郎は、この世界から離れた。そして現実世界の校長室に戻ってきたと感じた直後──崩れ落ちた。
「たっくん!?」「拓郎さん!?」「「「拓郎(君)!?」」」
そんな拓郎に、クレアとジェシカ、そして3人のクラスメイトが声をかける。拓郎はゆっくりと立ち上がり……軽く手を振った。
「大丈夫だ……魔力の消耗による立ち眩みを感じただけだ……そして、治療の方だが──結論から言う。やれることはすべて行った。治すべき所はすべてやれたと思う。だから後は、科学魔法が正常に発動するかどうかだけ……」
誰かが、つばを飲み込んだ。まさにここが彼の運命の分岐点。発動するか否か……それですべてが決まる。
「一番弱い、指先に小さな火を出す魔法を使うんだ。それが出来るか否かで、全てが分かる。残酷な事だとは思う、だが、確かめなければならないってのは分かってくれ……」
辛そうに言葉を紡ぐ拓郎に、治療を受けたクラスメイトは頷いた。そして、震えながらも右手の人差し指を眺めながら魔法を発動させる……すると、その指先には小さな灯が灯った。
「つ、付いた。火がついた!」「すぐに消すんだ! まだ治りたてなんだ、長時間の魔法の行使は危険だ!」
何度やってももう輝かなかった魔法の炎が再び灯った事に喜んだクラスメイトに、拓郎はそう叫ぶ。拓郎の言葉に驚きつつも、クラスメイトは拓郎の言葉に従って火を消した。火がついたこと、そしてきちんと消せたことを確認した拓郎は大きく息を吐いた。
「はあ、はあ、はあ……大きな声を出して悪かった。だが……治りたてなんだ。あくまで確認が取れたら、すぐに使用を止めてもらわないと……取り返しがつかなくなる可能性があった。今のお前の中にある魔法を発動させる機能の様な物は、傷だらけなんだ。もちろん魔法による治療は行った。でも、肉体の治療とは感覚的にだが全く違うものだと感じている。治ったように見えても、ダメージは大きく残ったままだろう」
息を切らしながらも喋る拓郎の言葉に、この場にいる誰もが黙ったまま耳を傾けている。何せ、拓郎は治らないとされていたレベルゼロを今目の前で治療行為を成功させたのだ。その意見は重要であり、無視する事などありえないのだが。
「──たっくんの言葉を補足させてもらうね。治療は成功してるってこっちでも魔法を使ってもらった事で感じ取れるようになった。だけどまだまだ君の体の中は治りたてで不安定な状態にあるわ。まずは2週間、一切の魔法を使っちゃダメよ。そこから先は、たっくんに見てもらいながら様子を見ていく他ないわ。それでも、君がレベルゼロで一生を送るという最悪の事態は回避された事は間違いないわね」
拓郎と、そしてクレアからの言葉を聞いて治療を受けた男子生徒の目からは大粒の涙が何度も零れ落ちた。そして拓郎の手を取り、感謝の言葉を述べている。絶望から救い出されたのだ、そんな行動にクラスメイトが出るのはおかしい事でも何でもないだろう。
「私は、信じられない物を見た。レベルゼロが治る瞬間を見れるとは……」「分かっていると思いますが、他言無用ですよ。万が一言いふらそうものなら、貴方の命を奪わねばならなくなるかもしれません」
校長は驚愕の表情でその様な言葉を漏らし、ジェシカがくぎを刺す。ジェシカの言葉に校長も「拓郎君の事を護る為に、この日の出来事は墓まで持っていく事を誓おう」と返答した。だが、一方で保護者達の方は目の色が変わっていた。助けられた男子生徒の保護者は安堵しており、残り二人の保護者は今すぐ拓郎に治療を行えと飛び掛かりそうであった。
「おい、早く──」「黙ってなさい、クズ共」
保護者の口を、クレアが魔法で塞ぐ。クレアからしてみれば、まだ苦しそうにしている拓郎に対してすぐさま治療を行えと責め立てる保護者は虫以下である。そもそも、レベルゼロになった原因はお前達だというのにその自覚ももうないのかと睨む視線はどこまでも冷たかった。
「拓郎、大丈夫か!?」「私達の治療は後回しでもいいのよ!」
その一方で、クラスメイトは拓郎の方を思いやった。確かに治るのならば治してもらいたい。だが、その代わりに拓郎が潰れるような事になってしまうのは嫌だ。彼がどれだけ真面目に、自分達よりも厳しい訓練を受けている事は知っている。将来を多くの人を救うであろう人物を、自分達の為に潰すような事はあってはいけないとクラスメイトは考えることが出来たのである。
「大丈夫だ、かなり精神力を消費したから辛いだけだ……しばらく休めば落ち着くからさ……悪いが、水を飲ませてもらうよ」
この部屋にいる人間は全て、拓郎の行動から目を離すことが出来なくなっていた。いや、この表現は間違いだろう。部屋の外……拓郎をひそかに護衛している魔人、魔女達もそうだ。レベルゼロに陥った人間を、20歳にもなっていない学生が治療行為を行って成功させた。それは、一種の革命とも言うべき衝撃の大きさだ。
(信じられん……まだ相手がレベルの高くない学生相手だったとはいえ、レベルゼロ状態を治して見せた、だと!?)(──彼を護らなくてはいけない理由がまた一つ増えてしまったな)(ええ、これを知れば彼を誘拐してでもと考える者は必ず出てくる。そんな事になったら……取り返しがつかなくなりますよ)
護衛をしている魔人、魔女たちは全員が戦慄していた。まだまだ未熟なはずの子供とは思えないその治癒能力。そして未熟であるがゆえに、これからまだ成長する伸びしろがあるという事実。もし、このまま彼が成長し、レベルが8まで到達すれば……治癒能力に限定すれば限りなく魔人に近いレベルに到達するのではないか? そしてもし9に到達すれば……
(多くの者が救われる未来が来る可能性がある)(それ故に、彼は護りぬかねばなりません)(ああ、欲望に塗れた連中の手に渡す訳にはいかない。今後はより一層護衛の数を増やすべきだろう)
そんな事を遠くから護衛している魔人、魔女達が話し合っているとは知る由もない拓郎は、2人目のクラスメイトに対する治療行為を始めようとしていた。
──2人目のクラスメイトの中を見た時も、1人目と同じ感じだなと拓郎は思った。性別が同じだからなのか、自分にとってはこういう見え方で統一されているのか……それはまだ分からない。それに、そんな事に考えを割く余裕もすぐになくなる。この治療に失敗すれば、クラスメイトは一生レベルゼロという地獄の中で生きていく他なくなる……
授業でこそ習わないが、レベルゼロとなった人がその後の人生を全うしたという話はまずないことぐらいは拓郎も知っている。自棄を起こして犯罪に走るか、絶望してただひたすら死んだ目をしながらさ迷い歩くようになるか、自殺するか。とにかく、よっぽど周囲に恵まれるか伴侶に恵まれないと、まともな死に方は叶わない。それがレベルゼロという名の現代にこびりついている呪いだ。
その呪いに、我が子を叩きこんだ親は……クレアでなくてもクズとしか表現しようがない。自分の子供を一生レベルゼロという呪いで苦しめ続けるとか……何を考えているのだろうか? ハッキリ言って、親をその場で殺しても周囲からは同情されることになるだろう。それほど、レベルゼロという物の呪いは重く、つらく、苦しい物なのだ。
(せめて、目の前にいるクラスメイトは救いたい。俺のクラスメイトは皆良い奴らだ。いじめなんかがあちこちである今で貴重なクラスメイトと言っていいだろう。そんなクラスメイトがレベルゼロで苦しみ続けるのは、こちらとしても見たくない)
その一心で、治療を行い続ける拓郎。2回目というだけあって、さっきよりは治療の速度が速い。だが、それでも治療によって精神力を凄まじい速度で消費している事は変わりない。クレアとジェシカというトップクラスの魔女の支援を受けてこれなのだ、自分単体では絶対に出来ない事なのだと改めて感じる。
(それでも、今は……)
意識がとびとびになりながらも、何とか治療を終えた拓郎。椅子に座りこみ、右手で顔を抑えた。
「た、拓郎!?」
治療を受けていた男子生徒だけでなく、他のクラスメイトやクレア、ジェシカ、そして校長が心配そうに拓郎を見る。拓郎は、そんな皆を左手を前に出して押しとどめる。
「大丈夫だ……きついけど」
そのまま10分ほど、拓郎は目を閉じてただひたすらに静かに動かないようにしていた。精神力の回復を最優先したのである。そして何とかある程度回復した後は、ジェシカが用意してくれた水と軽食を口に運んだ。そこで、やっと一息付けた。
「じゃあ、一番弱い魔法を発動して、すぐにやめてくれ。それで成功したかどうかが分かるから……」
拓郎の言葉に応え、治療を受けたクラスメイトが指先に小さな灯を灯す魔法を発動し……すぐに解除した。灯が灯った事が確認できたからだ。そして、クレアの話をきちんと聞いていたので確認が取れたらすぐに消す事も徹底したのである。これで2人目も無事に治療できたことになる。だが。
「悪い、流石に限界だ。今日はもう意識が持ちそうにない……」
拓郎の言葉に、最後の一人である女性のクラスメイトは頷いた。拓郎の顔を見れば、今すぐ休ませた方が良いのは間違いないぐらいに悪い。そんな拓郎に今すぐ治療を行ってくれなどと言えるはずもなかった。一方で彼女の親が言いそうだと先読みしてクレアが先に動いていたので、罵声やふざけた要望が飛んでくる事は無かった。
「明日、明日またここで行おう……1日だけ、我慢して欲しい……」「無茶しないでよ。正直今の拓郎の顔色やばいとかいうレベルじゃないよ!? クレア先生、ジェシカ先生、今すぐ拓郎を休ませてあげてください!」
女性のクラスメイトの言葉にクレアとジェシカは頷き、クレアが拓郎をおぶった。そして校長室を出る前に、クレアが保護者達に念を押した。
「喋ったら、分かってるわよね? 私達だけじゃない……他の魔人や魔女も敵に回すわよ。ま、それでもいいなら喋りなさい……その日が貴方達の命日になるけどね」
クレアの言葉に、保護者達は首をひたすら縦に振った。本気で殺されると言う事をここに来てまで理解できない奴は流石に居なかった……こうして、拓郎は夏休みを使って修練を重ねてきた事がプラスに働き、クラスメイトを救う事に成功した……翌日、無事に最後の一人の治療に成功したことも付け加えておこう。
このことが新しい物事の引き金を引いている事は、言うまでもなかった──
ではまた来年!




