その20
今回からタイトルが戻ります。
そうして帰ってきた拓郎たち。後数日後には学校の2学期が始まると言ったタイミングで……一本の電話がクレアの元に入ってくる。その呼び出し音は……いつもと同じ音の筈なのに妙に胸騒ぎを拓郎の胸中に生じさせた。
「はい、こちらクレアです。あ、校長先生。どうしました?」
最初はクレアも明るい声で対応していた。だが──どんどんと表情が曇っていく。そして、更に怒り心頭といった表情に変化していく。
「話は分かりました。今すぐ向かいます……とんでもない事をしてくれたものですね」
そんな言葉と共に電話を切るクレア。そしてクレアの様子をうかがっていた拓郎とジェシカに声をかけてきた。今すぐ学校に行くわ、と。そのただならぬ雰囲気に、拓郎とジェシカは迷うことなく頷いた。三人は学校に急行する。目的地は校長室。科学魔法を使った空中移動により、あっという間に到着する(蛇足だが、拓郎はクレアに引っ張ってもらう形を取っていた)。
クレアが荒々しく校長室の扉を開けると……中には校長と殺気立った保護者が数人、そして拓郎のクラスメイトが3人いた。3人とも、夏休み前に見せていた元気な様子が一切ないどころか、この世の終わりでも見たような感じで、目に一切の力が感じられない。これだけで、十分な異常事態である事を知ることが出来る。
さて、そんな中──保護者の一人である男性がクレアに荒々しく声をかけてきた。
「あんたが指導していた先生か。うちの子供が、突然科学魔法を使うことが出来なくなった。どうしてくれるんだ! あんたのやり方がおかしいからこうなったんだろうが!」
全ての責任がクレアにある。そんな一方的な言葉に、クレアの顔に青筋が浮かんだ。だが、クレアは比較的落ち着いた言葉でこう反論した。
「お言葉ですが。その様な状況を避けるためにこの夏休み中は科学魔法を使わず休むように通達しましたが? ──この様子ですと、お子さんに科学魔法の訓練を強要しましたね? 隠したって分かりますよ、3人の体の中がかなり滅茶苦茶になっていますから。こうならないようにする為の通達だったのですが?」
このクレアの言葉に、他の保護者である女性が口を開く。
「何言ってるんですか! 夏は受験と同じで学び訓練する者が先に行くのが常識です! なのに、その貴重な時間を丸々棒に振れとおっしゃる。そんなこと聞けるわけないじゃないですか!」
ヒステリックな言葉に、クレアは頭を押さえつつも静かに反論する。
「その結果、大事なお子さんをあなたは壊してしまった。こちらが壊さないようにする為の通達を軽視し、素人判断で無茶を強要した。ハッキリ申し上げましょう、お子さんの未来を奪ったのは貴女方です。貴女方の思い込みからくる愚かな行動が、3人の未来を永遠に奪ったのですよ」
クレアの言葉は、間違いなく真実である。だが、その真実を人という物はそうそう簡単に受け入れられるものではない。そのため、保護者達は次から次へとクレア、そしてジェシカに対して責任を取れ、何とかしろと騒ぐ一方だ。自分達の責任を、クレアとジェシカに押し付けているのである。そしてとうとう、クレアが切れた。
「寝言言ってんじゃないわよ! あんたたちの愚かな行動が3人の未来を奪ったという現実を見れないクズが!」
そんな言葉と共に、クレアの鉄拳が保護者達に飛ぶ。その鉄拳を喰らった保護者達は、まさに漫画のようにぶっ飛び、壁に叩きつけられる。だが、その傷は一瞬で治る。ジェシカが治したのだ。だが、慈悲で治したのではない──自分が殴る為に、子供達の痛みを味わってもらうために治したのだ。
「貴方達の言い分には反吐が出ます。3人が受けた絶望の欠片ぐらいは理解していただきます」
今度はジェシカの鉄拳が飛んだ。再び壁に叩きつけられる保護者達。だがすぐに治癒され、再び殴られる。それが7回ほど繰り返された。
「ひいいい、ひいいいい!?」「た、助けて、助けて……」「殺される、殺されるううううう!?」
もはや最初の勢いなどどこへやら……保護者達はクレアとジェシカから後ずさる様になっていた。
「一応言っておくわ。警察、国に訴え出ても無駄よ。私達は魔女、それなりのつてがあるからね」「ましてや今回の一件、罪をこちらに擦り付けようしたのはそちらですからね。こちらが罰されることはありません」
──国がクレアたちを敵に回すような事をするわけがないので、クレアたちが罰されることは絶対にない。それに今回は責任転嫁も甚だしいので、なおさらクレアたちが罰される可能性は無くなる。
「しかし、困ったわね……こんな屑共はどうでもいいけど、受け持った子供がこんな表情で苦しんでるのは何とかしてあげたいのだけれど……」
今度は一転して、死んだ表情を浮かべたままほとんど動かない拓郎のクラスメイト3人に悲痛な表情を浮かべるクレア。そこに、しばし考えていたジェシカが口を開く。
「──姉さん。もしかしたら、もしかしたらですが何とかなるかもしれません。彼や彼女達は、まだレベルゼロになってから日が浅い。なので、つい最近本国が見つけた治療法が……通じるかもしれません」
治療法が、ある。その言葉を聞いて、再起動したかのように3人が動き出す。
「先生、失敗してもいい! やってくれ!」「失敗しても先生を恨むような事はしない! お願い、チャンスをください!」「お願いします、可能性をください!」
縋りつくようにジェシカの前に集まる3人。ジェシカは目を閉じてしばし考えた後、最近見つかった治療法を試す事を決意した。そのため、3人に最終確認を迫る。
「この治療法は確実に治ると言う事は保証されていません。ですが、治った例があるのも事実です……成功は保証できません、それでも良いのですね?」
3人とも、迷わず頷いた。可能性があるのなら、そこに賭けるしかないのだ。無論科学魔法が使えなくたって生きていく事は出来る。だが、使えないのは大きく不利であることもまた事実である。だから、3人は即決したのである。
「分かりました……では、手順を説明します。この治療法には、魔人か魔女が2人、治癒魔法を学んでいる魔人、魔女ではない人間が一人必要となります。2人の魔人、もしくは魔女が魔力を供給し、治癒を行う人間の補助に回ります。そして治癒魔法が使える人間が、レベルゼロ症候群の原因となった部分を修復するという物です」
この場にいる人間の視線が、拓郎に集まった。無論、拓郎も驚いた。
「一番肝心な部分を、俺がやるのか!?」「そうです、拓郎さん。あなたが全てのカギを握る事になります。この場にいる人間で条件を満たせるのは、拓郎さんだけなんです」
拓郎の両肩が急激に重くなった。クラスメイトの未来が、自分にかかっていると突如言われることになったのだ。ここで何のプレッシャーを感じる事が無い方が不気味すぎるだろう。でも。目の前には縋り付くように助けを求めるクラスメイトがいる。それを見捨てられるような性格を、拓郎はしていない。
「わかった、やる。ここで逃げたら、今までの努力を否定する事と同じだ。詳しい手順を教えて欲しい」
覚悟を決めた拓郎がそう口にすると、クレアは満足そうにうなずき、クラスメイト達も頭を下げた。しかしジェシカは、浮かない顔をしている。
「それなのですが……誰一人としてその手順をマニュアル化できないんです」
ジェシカが言うには、どうも個人の感性に治療方法が左右されるらしい。2人の魔人や魔女のバックアップで魔力を高め、患者に触れるとその人の科学魔法を使うための流れが見えるらしい。ただ、その見え方が十人十色であり、治し方がこれまたバラバラであるらしいのだ。パイプをつなぐようにする、一か所に集める、などなど……
「ただ、共通してどうすればいいかは直感的に分かるそうなんです。ですので、やればわかるそうです……そうとしか言いようがない、というのが事実らしくて。ですがこの方法で、本国のレベルゼロが治療された事があるのも事実です。レベルゼロが治療されたのはこの件が初めてで、この情報もまだ広まってません」
ジェシカは口にしなかったが──この治療は一発勝負。成功率は25%前後。だが、それを伝えれば拓郎に過剰なプレッシャーをかけるために口にしなかった。ここで余計なプレッシャーをかけてしまったら、成功率がさらに下がる事は言うまでもない事だから。
だが、逆に言えば治らないとされたレベルゼロが25%の確率で治るのだ。可能性がある、というだけで今は御の字とも言えるだろう。
「それでも、回復した例はある。そこは間違いないんだな?」「はい、それは間違いないです」
拓郎は手にびっしょり書いている手汗をハンカチでふき取り、目を閉じてから深呼吸を一つ。そしてゆっくりと目を見開いた。
「では、これからレベルゼロ症候群の治療を始める! 誰から行く?」「俺が行く。失敗しても恨まないぜ……頼む、拓郎。お前に全部賭ける」
拓郎の言葉に、クラスメイトの男性がすぐに反応する。拓郎はクレアとジェシカを順番に見る──二人とも、深くうなずいた。こうして、校長室にて3人の生徒の人生がかかった治療行為が行われることになったのである。成功するか、失敗するかは運と拓郎の度胸にかかっている。
年末が迫ってきましたので、毎週日曜日更新が今日で止まります。
来年の1月10日前後までは時間が取れれば更新する、という形になります。
楽しみにしてくださっている皆さまには申し訳ないのですが、ご理解を頂ければ幸いです。




