更に1週間が経過(多少の性的内容あり)
そして一週間が過ぎた。この一週間を費やして拓郎が水の上を走れたのは──最大で3歩までに留まった。拓郎自身はこんなんじゃだめだと肩を落としていたのだが。
「たっくんはやっぱりセンスあるね。たった一週間で水の上を走ったよ」「そうですね、魔人や魔女と言った科学魔法の事を感覚的に理解できている訳でもないのに、水の上を3歩も走れるとは素晴らしい成長速度です」
魔女であるクレアとジェシカからの評価は非常に高かった。クレアからしてみれば、夏休みの残り全てを使って数歩走れれば上出来だと予定を立てていた。ところが一週間で拓郎は3歩だけとはいえ水の上を走った。このペースは非常に上達が早い事を意味していた。
「3歩だけだったんだが……それで褒められるのか?」「たっくん的にはたったの3歩なんだろうけど、私達から見ればたった一週間で3歩も水の上を走れるようになるとはすごい成長率だって驚いてるの。正直、夏休みすべて使って2歩ぐらいかなーって思ってたし……」
と、拓郎の問いかけに対してのクレアからの返答で、拓郎は自分が良いペースで成長できている事を知る。半分はまだ疑心暗鬼な所もあるが……クレアやジェシカは訓練に関しては嘘もごまかしもした事が無い為、嘘をついている訳ではないと言う事だけは間違いない。
「この調子なら、もしかすると夏休みだけで水の上を十分に走り回れるようになるかも。そうなれば、レベル6はもう目と鼻の先よね」「そうですね、そうなればレベル6到達は間違いないでしょう。ですが拓郎さん、焦ってはダメです。今日の訓練はここまで、後はゆっくりと休みますよ」
レベル6はそう遠いところにある訳じゃない、と知れただけでも拓郎のやる気が上がる事に繋がる。だが、今日の訓練はここまでにしておきなさい、というジェシカの言葉に拓郎は従った。本音を言えばもうちょっとやりたいという所であったが、訓練に関してはクレアとジェシカの言葉に従う事が絶対だ。
「じゃあ、お昼を食べたらしばらく横になるか……」「そうね、それぐらいゆっくりしてもらわないと明日の訓練に差し障りが出るからね」
拓郎は発言通り、お昼を食べてからビーチチェアの上で楽な態勢を取って休んだ。流石に食後すぐに横になるのはよろしくないのでビーチチェアを使ったのだ。そんな拓郎の姿を、少し離れた所から眺めつつ、小声で喋るクレアとジェシカ。
(ねえ、本格的にたっくんとの子供が欲しくなってきちゃったんだけど……)(姉さん、流石に学生が女性を妊娠させたとなると流石にまずいですよ……大学生ならまだしも、流石に高校生では。下手すれば拓郎さんが退学させられてしまいます)
と、拓郎が聞いていない所で拓郎の貞操の危機が迫りつつあったのだ。もしこの場にジェシカがいなければ──クレアがそう言う事をこの夏休み中と言わす数日中に行動に出ている可能性は十分にあった。しかし、そこにジェシカのストップが入る。ジェシカとしても拓郎との子供は欲しくなっているが、流石に高校生で女性を妊娠させたとなれば、色々とマズイ事になりかねない。
経済的な面は問題ない、クレアもジェシカもそれなりの金銭は所持しており、拓郎ひとり養う事など余裕でできる。カジノなんかに通い詰めて散在するような馬鹿な真似でもし無い限り、一生食うに困らない、住む場所にも困らないだけのお金はある。しかし、社会的な問題は流石に無視できない。
それに、拓郎の心情的にも色々と問題がある。高校生活の後半が、ひたすら周囲から後ろ指を指されて過ごすのはあまりにも辛すぎる。例えクレアから強引に迫った、誘惑したという形であったとしてもそこは我慢するべきだろうという周囲の声を黙らせる事は決してできない。本人が一切悪くないのに社会的な意味で死ぬのは、あまりにも不憫すぎる。
(じゃあ避妊すれば……)(姉さん、それを拓郎さんが望んでいるならわざわざ性欲を抑える魔法なんて学びませんよ……彼は、そう言う事を少なくとも学生の内は控えるべきだと判断したからこそ覚えたのでしょうから)
ジェシカの予想通り、拓郎にとってそう言った行為は高校生時代は止めておくべきだという考えがあった。興味が無いわけがない、ましてや飛び切りの美人2人に脇を固められた生活を送っているのだ。これで全く興味が無いというのは枯れていると言われても致し方ないだろう。
しかし、じゃあ本能のままにむさぼるのか? この問いかけに対する拓郎の答えはノー、だ。無論長い付き合いの先にそう言う事があるのは良い。だが、今はそう言う事をするべき時じゃない。人であるからこそ、ちゃんとした理性をもって学生時代には行わないようにする。それが拓郎の答えであった。
もちろん、この答えが正しいというつもりはない。人それぞれの生き方があり、人それぞれの答えがある。あくまでこの考え方は拓郎個人が正解だと思う考えに過ぎない事を念押しさせていただく。
(んー、そうかもね。今まで見てきた男達は、性欲に忠実な連中ばっかりだったからねえ……知らないうちにたっくんもそうなんじゃないかって見てたかも。これは私が反省しなきゃダメな所ね)
クレアが思いとどまった事を理解して、ジェシカはほっとした。流石にクレアが本気で行動に移れば、ジェシカが全力を出しても止める事は難しくなってしまう。そうならずに済んで、ほっとしているのが本音である。
(姉さんの意見も分かりますけどね。私にとっても、そう言う見方をしてしまう時がある、というのも事実ですから。でも、拓郎さんはそうではない。彼の方から私達と肌を合わせたいと言ってくるときはそんなに遠い未来じゃないはずです。その時までは、私達も良い姉で居ればよいのではないでしょうか?)
ジェシカは性的虐待を受けていた時期がある。だからなおさらなのだが……だからこそ拓郎が安易に性欲に走らず、自らを律した上で添い寝などには応じてくれることをありがたく思っていた。ぬくもりは欲しい、けど男性は怖いという感情が常に心の奥でくすぶっているジェシカだが、拓郎にだけはその心の奥底からくる嫌悪感が無い。
だからこそ、拓郎が社会的に苦しむような事にはなって欲しくないし、その為には姉と慕うクレア相手であったとしてもぎりぎりまで制止するのである。無論、拓郎以外の存在関連であるならクレア姉さんの好きにすればよいとなってしまうが。
(そうね、たっくんにとって自慢の姉、そして妻となりたいなら焦っちゃダメよね。ジェシカがいてくれてよかったわ、ちょっと焦って暴走気味になっていたかも)
日々拓郎と過ごす事によって、クレアの感情は確実に大きくなってきていた。だからこそ、拓郎の心身をガッチリキャッチして離れるような事が無い様にしたいという感情が生まれていた。その感情が焦りを産み、そして繋がりとして分かりやすい子供という物を欲する事に繋がっていったのである。そのことに、クレアは気が付いた。
(私達だけが幸せになるのではだめですからね。ちゃんと拓郎さんと3人で幸せにならないといけませんから)
そして、ジェシカも改めてじっくりと距離を詰めていこうと再認識する。ワインを熟成させるように、ゆっくりじっくり──だがしっかりと傍に居続ける。そんなクレアとジェシカの事など全くお構いなしで、拓郎は幸せそうに眠りについていた。
そして日が暮れて夜。この日の晩御飯作成も拓郎は手伝った。鳥のお腹に香草などを詰めて焼く肉料理がメインだったが、拓郎は四苦八苦する事になった。それでも何とか出来上がり、口に運んだそれはとてもおいしかった。手間がかかるため毎回はとてもできないが、たまになら作ってもいいかな、と思わせるだけの味がそこにはあった。
食事を終えて片付けもして、そこからは寝るまでの間3人で遊ぶ。この日はポーカー勝負となったのだが……
「スリーカード」「ワンペア……」「ツーペアですね」「またたっくんの勝ち~? たっくんなんかイカサマしてない?」「流石にこうも負けが続くとちょっと納得できませんね……」
拓郎が馬鹿みたいに勝ちまくっていた。別段何かをかけている訳ではないのだが、流石に負け続ければ悔しさも募るという物。なのでクレアとジェシカから不満の声が上がる。
「じゃあ、次の勝負のカードシャッフルをクレアに、カットをジェシカさんにやってもらおう。カードに一切触らないなら、イカサマなんて仕込みようが無いだろ?」
実際拓郎は一切イカサマをしていない。たまたま勝ちのツキを引き寄せているだけなのだが──そんな言葉で納得してもらえるわけもないと、拓郎はカードのシャッフル、カット、そして配布全てを2人に任せる事にしたのだ。それなら疑われることは無いだろうと。
「じゃあ、私がこうやってシャッフルして」「そして私がこう数回カットさせてもらいますね」
そうして拓郎が1回もカードに触れず、手札が配られたのだが。拓郎が2枚チェンジ、クレアが1枚チェンジ、ジェシカが3枚チェンジ。そして出来上がったそれぞれの役は。
「ストレート」「スリーカード……」「スペードのキングハイ(訳が無い場合、一番強いカードを挙げる)です」
またしても拓郎の勝利となった。クレアは「納得いかなーい!」と駄々をこね、ジェシカも「もう1回勝負です、もう1回!」とこちらも子供のように再戦を申し込む始末。しかし、この日は拓郎の勝ちが妙に続き……3人そろって夜更かししてしまったのであった。