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126話

 なんてことを経験しつつ、時間は流れて7月。いよいよ期末試験、そして合宿に参加できる30名が決まるときがやってくるとあって、より学園は成績を上げるべく勉強に取り組む熱気が上がっていた。むろん魔法の訓練も同じかそれ以上の熱気をもって取り組まれているのだが──その一方でテンションがやや低い所があった。外部からの受け入れ生徒である。


 事前通達にある通り、一学期の終了をもって外部受け入れを停止する事になっていることが原因である。そしてテスト期間は当然魔法の訓練は行われない。その為、外部の受け入れ生徒がこの学園における魔法訓練に参加できる期間は二週間を切っている。学べば学ぶほど、自分達の学校、学園とは異なるカリキュラムをもう体験する事も学ぶこともできなくなってしまう。


「俺達はあと2日で交代、そして来週の生徒で終わりか……」


 放課後に集まっている外部からの受け入れ男子生徒の一人がそうぼやいた。彼はこの学園に来てから数日で魔法のレベルが1から2に上がっており、出来る事なら今後もこの学園で魔法を鍛えていきたいと願っていた。叶わぬ願いではあるが。


「私達、たった数日で全員の魔法レベルが1上がってるものね。もっともっとここで訓練したいと思うのはみんな同じよ。将来が明るくなるんだもの……」


 別の女子生徒の嘆きに誰もが頷いて同意した。ここで学ぶことで上がるのは魔法のレベルだけではない──技術に対する理解も進み、そして基礎を叩き直す事でより己の魔法の質を上げられる。魔法レベルが高いだけでは、実用的とは言えない。その意味を本当の意味で理解できる環境にあるのだ。


「魔人、魔女の先生からの指導はもちろんだけど、この学園の生徒と交流しながら共に訓練する事も大事だと思ったぞ。共に高め合うとはこういう事かと……学んですぐそれを実技で経験出来て、間違っていればすぐさまそれを正せる環境……俺の学校では、全て叶わない。この教え方を学校に持ち帰っても、それが完全に伝わる前に俺達は卒業を迎えるだろうな」


 また別の男子生徒の言葉に、誰もが重苦しい空気を出している。事実以外の何物でもないからである。この学園で経験したことを全て伝えたところで、ハイじゃあすぐさま真似しましょうとはならない。現実的に考えてそんな急激な変化をもたらすことは不可能である。今まで良しとされてきた指導方法を完全否定するからだ。


 むろん学園で学んだ事を持ち帰れば変化は起きる。しかしそれは急激な変化とはならない。教える人が足りないからだ。教師ですら学んでいる最中であるため、生徒に教えるまでにはなかなか至らない。更には魔人、魔女の指導を受けてこそという内容も多岐にわたるため、受け入れてもらえた生徒はその感覚が理解できるが、他の人にその感覚を伝えるのは難しい。言語化できる部分ばかりではないのが理由に上がる。


「魔力の練り込みの初期段階ってさ、やっぱりサポートがないと感覚が掴みにくいじゃん? 俺達はそれを魔人や魔女の先生、後あの学園のトンデモ生徒の拓郎君にやってもらえたから理解できたけどさ、それをどう伝える? ってのは一番難しい所じゃないか? 正直あの自分の中にある魔力をどう動かすことが大事なのかの第一歩は言葉じゃ伝わらないよ」


 この言葉に反対意見など上がろうはずもない。他者の魔力に干渉し、動かし方を教えるなど一般の教師に覚えてもらおうなんてのは無理難題もいい所だ。繊細な魔力干渉を行って魔力を練る最初の第一歩を教えるには高い魔法に関する知識と能力が要求される。魔人、魔女ならば難しくはないが……


 と、このように持ち帰れる情報はあるが自分の学校ででは実際にやってみましょうと言った所で、できるか! という反論が返ってくる内容ばかりが増えていっている事に外部受け入れの生徒達は頭を抱えていた。せめて今度も受け入れが続けば、そういった事が出来るようになるための訓練内容などの情報も入ってくる可能性があったのだが。


「ああ、言わないようにしたいが無理だわ。本当に外部受け入れのストップがかかる原因を作ったあいつにはどうしても伊良皆と怒りが湧いてくる。あいつが馬鹿な真似をしなければ、俺達が今こうやってな役時間なんかなく、魔法に対する訓練に打ち込むことに集中できたのに」


 そしてついに出てきてしまったこの言葉。実際彼らは一つでも多く、些細な事でも情報を持ち帰って欲しいと出身の学校から頼まれており、どうやれば個々の訓練内容が間違いなく伝わるのか? という事に頭を悩ませている。帰る日にちが近づいてきているからなおさらその悩みは大きくなる一方だ。


 彼らと、そして最後となる受け入れ生徒に掛かるプレッシャーは半端なものではなく、明確なストレスをためる原因にもなってしまっている。それもまた、例の動画を流した生徒に対する怒りと憎しみを高める燃料になってしまっているのが現状だ。多くの生徒の未来を潰した悪党、という感じだ。


「出来る範囲でやるしかないんだけどさぁ。それ以上を求めてくるんだよね、周囲が。こんなことになったのうちらの責任じゃないじゃん! 限度ってものがあるってーの! うちらは一般人よ? 魔人や魔女じゃないし、ましてや殺し合いのような訓練をしておいて訓練が終わったら互いに普段の顔で礼が出来る拓郎とか言う化け物と一緒にするなっつーの!!」


 そして、女子生徒の一人が爆発した。が、それに非難の声は上がらない。誰も彼もが同じ心境なのだから。特に拓郎に関して彼ら、彼女らが向ける目は化け物を見る目その物。魔人でもないのに、魔女であるクレアやジェシカと魔法を多分に交えた殺し合いとしか思えない殴り合い、斬り合いを展開しているのだから。


 拳にも魔法を纏い、剣や槍も魔法で作って壊れたらすぐさま再生成。そして決められた時間内でお互い攻撃しあうのだ。その光景を外部の人が見たら殺し合いにしか見えないのは無理もない。だが拓郎やクレア、ジェシカにとっては拓郎がレベル10になるために必要な道を進んでいるだけに過ぎないのだ。


 故にどうしても拓郎と外部の生徒の認識にはずれが生じる。それは仕方がない事ではあるのだが、やはり拓郎を見る目に恐怖が乗るのはやむを得ないだろう。なお、学園の生徒にとっては日常茶飯事であり、その戦いで感じた疑問をジャックやマリーに問いかけで自分の魔法に関する知識を増やし、模倣できそうなところを模倣して自分自身の魔法の技術向上に当てている。


 殺し合いとみてしまう側と、魔法の訓練として受け止められる側の差はどうしようもないほどに開いてしまう。この差を埋めるには慣れが必要となって来るのだが、その慣れるだけの時間を外部受け入れの生徒は手に入れる事が難しい。本人が一刻も早く慣れて、その訓練から得られるものを己に取り込んでいくほかないのだが、それを誰にでも当てはめてやれ、というのは無茶である。


「そうして、あっという間に終わってしまうのが受け入れの時間と言う訳だ。くそっ、せめてあと一週間は欲しい。一週間でこの環境に慣れて、後の一週間で必死に食らいついて情報をためる。そうできればあの異常な訓練も、ここの生徒みたいに受け入れて己の糧とする考えを持てる可能性も生まれるんだろうが」


 という無いものねだりな声も上がる。だが現実は一週間しか許さないという制限を変えてくれるなどという都合のいい話を持ってきてはくれない。故に生徒達にできるのは必死に勉強し、記録を取り、そしてお互い時々ぼやき合う事で少しでもストレスを消すことぐらいだ。不満は口に出すだけで少しは気が張れるし、同意してくれたり理解してくれる人がいればさらに和らぐものだ。故にこういうぼやき合う時間は大事だったりする。


「無いものねだりって奴だよねー。もっともうちら以外も同じことは思ってたはずだけど」「一週間前の生徒が最後に言ってた言葉なんだけど『後二週間は居たかった、学びたいことが多すぎるし魔法の知識が深まると魔法という物自体が面白くなってきた。地元では絶対に学べない魔法というその物に対しての興味がかきたてられたところで時間切れ。だからお前も集中して学んだ方が良い』って言い残して去って行ったのが常に思い出されるんだよね。その通りだと今は思ってる」


 更に、魔法のレベル上げだけではなく様々な魔法の知識を蓄える事で勉学する意思を引き出すやり方もまたほかの学校では真似する事が難しい。これは完全に魔人、魔女の領分から出てくることなので教科書にそのまま乗せても事実なのかの確認がとりずらい。しかし目の前で教科書に書かれている事を魔人や魔女が実演すればどうか?


 教科書にある事が本当に間違いない事を理解し、そしてなぜそうなるの奈の理由を魔人や魔女が蓄えた知識と経験を交えて説明する事で魔法そのものへの知識が深まり興味を引き出す。人間は興味を持ったことならばやや大変でも楽しいと感じる存在だ。そして楽しくやっていれば、その知識は身に染みる形でついていき、忘れる事は早々ない。だからこそ、この学園の生徒の魔法技術は一気に伸びているのである。


「知れば知るほど、魔人や魔女の先生を呼ぶしかないってなるぞ」「だよなぁ、しかしジャック先生にそれとなしに聞いたんだけど、魔人や魔女で物を教えるってのは相当な変わり者扱いらしい。私はその代わり者なんですよと言いながらジャック先生は笑ってたけど、こっちは笑えなかったよ。それはまさに、学校に魔人や魔女の先生を配置してくれって要望を国にかけても、限りなく絶対に近い確率で無理って事だからな」


 そして誰もの口から出るため息。このままじゃここの学園との差が激しくなるばかりの未来を誰もが見てしまうからだ。そんな彼らをよそに、時間は遠慮することなく流れていく。

スポットライトがもう当たらないであろう外部受け入れ生徒達の嘆き。

リアルでも一人のやらかしでいろんなものが中止になる事ってありますよね。

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― 新着の感想 ―
Vtuverのリアルイベントで、おバカなリスナーが配信でいらんことを言うたびに入場チェックが厳しくなっていくのを見ていたが。 あれ、まっとうなリスナーはキレてただろうなあ。
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