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123話

 何てこともありつつ、6月の時間が過ぎていく。そしてあと数日で中間テストがやってくるわけだが──今年の生徒達が勉強に対する姿勢を見て、平均点はかなり高くなるだろうと教師陣は考えている。事実、そうなる。が、生徒達からしてみれば人生を左右する夏合宿に参加できるか否かがかかっているのだ。


 故に、血走った目で勉学と訓練に取り組む生徒が圧倒的多数である。この夏に乗り遅れてしまうのは人生を棒に振る事、という認識まで生まれている。魔女が指導する夏合宿という一生に一度あるかないかレベルの希少な景品を掴むために学年関係なく火花を散らしている状況だ。その中で例外なのが拓郎のクラスである。


「最近、友達の目が怖い」「分かる。他のクラスの友人の目が据わってる。ガチで怖い」「期末で絶対30位内に入るって殺気だって来てる」「俺達はまあ、普通の成績を収めていれば行けるからそこまで殺気立たないけどさぁ」


 そんな会話が拓郎のクラス内で行われるのも、もはや日常茶飯事。故にクラスメイト達はもはや別クラスに声をかける様な事はしない。声をかけただけで、血走った目を向けられるためだ。なのでどうしても同じクラスの中で固まる外なくなってしまう。


「まあ、だからって俺達も勉強は相応にしてるけどさ。夏休みに入ったら即座に夏休みの宿題を片付ける事は必須だから、その前にやるべきことは全部やっておかないと」「まあ、さぼりたいわけではないからそこは良いんだけどな。ただ6月に入ってから他のクラスからの視線がますます怖い事になってきてるんだよ」


 他のクラスからしてみれば、足切りなどされずに全員が参加できるというだけで羨望と羨ましさからどうしても向ける視線に怒りや殺気、嫉妬などの感情が乗ってしまう。仕方がない事なのだが、やはり向けられる側としては勘弁してくれとも言いたくなってしまうのも無理のない話だろう。


「気持ちは分かるんだが、それをぶつけられても困るわ」「まったくだ、去年の4月にはこんなことになるなんて予想もできなかった」「クラスメイト内の団結力はものすごく高まったけどね」「高校3年だと基本的に自分の事で手いっぱいになる筈なんだが……状況が団結を求める形になってしまっている気もする」「悪い事じゃないんだけどね、流石にちょっと」


 などと聞こえてくれば、原因を作った拓郎としては何とも言い難い感情が生まれてきてしまう。狙ったわけでもないし悪意があったわけでもないが、自分が切っ掛けでクレアが学園に姿を見せる事になったのだから、俺の責任じゃないなどとはいえる訳もなかった。


「その、皆。色々と済まない……」


 と拓郎が口にすると慌てたのはクラスメイト側だ。クラスメイト達はあくまで周囲の行動や四川などに困っていただけであって拓郎を責める意識などなかった。なので拓郎に謝られるのは非常に困るのだ。むしろ拓郎は魔女を学園に連れてきてくれた福の神のような存在であり、感謝こそすれ恨むような感情を持つクラスメイトは一切いない。


「いやいや、まてまて。拓郎は何にも悪くねえって」「そうそう、むしろクレア先生、ジェシカ先生を連れてきてくれて感謝感激って話なのに」「魔女の直接指導なんて、世界中でもまず受けられない贅沢な話だからな。それを受けられる環境を作ってくれた拓郎には感謝しかないって!」「拓郎君が気に病む事じゃないよ」


 と、慌ててクラスメイト達がフォローに入った。なので拓郎もみんながそう言うならと謝罪を止めた。その様子を見ていた珠美が今度は口を開く。


「まあ実際、魔人や魔女の指導を受けさせるってのはものすごい金持ちが積極的に子どもにやらせる行為らしいけどね。だからお金持ちの子供が魔法に長ける事が多いって事に繋がっていくんだけど──去年と今年はそれが学園単位で増えたもんねー。他校の生徒まで受け入れる事にもつながったし、ものすごい贅沢な環境に私達はいるんだよね」


 珠美の言葉に何人もがうなずいている。そしてさらにクラスメイトの男性生徒が口を開く。


「金持ちの子供にレベル5以上が多いってのもそこらへんが理由だしな。よっぽど特殊な訓練をしているんだろーって思っていたが……正直に言って、拓郎とクレア先生がやってる魔法を交えた組み手の方が特殊極まる形だよなって今は思ってしまう」


 この発言に分かるー、とかあれは例外が過ぎるといった声が飛び交う。確かに彼が口にした通り、あんな殺し合い同然の訓練を魔女を相手にやる人間など、拓郎しか存在しない。が、拓郎がやっている複数人から魔法を受け、その魔法をいなす訓練は密かに広がり始めている。特に自衛隊の特殊部隊や警察の特殊部隊などが採用し、訓練に励んでいる。


 もっとも拓郎の様には行かないため怪我が絶えないが。威力を落としたと居ても攻撃魔法は攻撃魔法。当たればそれなりのダメージがあり、切り裂く系統の魔法が多い風魔法は被弾で出血を伴う事が非常いに多い。が、その分対応できれば魔法防御に関する感覚が磨かれて成長を実感できるため怪我を負っても辞める者は少ない。


 更に大人になって魔法レベルは上がらなくなっても、魔法の扱いを向上させることは可能であるという情報もまた、魔法に関わる各所の行動や訓練方の変化を生んでいる。拓郎の学園から出てくる情報によって、魔法の常識は今大きく変わっていく変換期の真っただ中にあった。


「でも、そういった訓練があったからこそ、今の拓郎君のレベル8が存在しているわけで。更にそんな訓練に参加したことで私達もレベル3から4に上がっている訳でしょ? 拓郎君とクレア先生、ジェシカ先生には感謝をしてもし足りないわ。親も後はあほな事さえしなければお前の人生は一生安泰だなって言ってるし」


 というクラスメイトの女性生徒の発した言葉にも同意の言葉しか出ない。拓郎の訓練内容をずっと見て来たからこそ、拓郎がたどり着いたレベル8という超高レベルに対して敬意を抱き嫉妬の感情を持たない。むしろあれだけやってやっと行ける領域なんだと理解している。更に、自分達のレベルが引き上げられたのもまた、拓郎の訓練を見て自らも発奮した事による結果であるという事もきちんと理解している。


「他のクラスより何歩も先に俺達は進んでいたからな。俺達の中からレベル5が出てくる可能性も十分にあるってクレア先生も言ってたし……ほんと、拓郎がクレア先生やジェシカ先生を連れてきてくれたおかげで俺達の人生はものすごくいい方向に変わったよな」


 なんて言葉とともに拓郎を拝みだす数名の男子生徒。流石にこの行為に対して、拓郎は流石にそういう行為は勘弁してくれと言う羽目になったが。


「だからこそ、俺達は夏合宿が大事だってわかっている訳なんだが──他のクラスの連中はそれ以上に重く考えているのが分かるよな。まさに人生の分かれ目とでもいう感じで鬼気迫っている。まあ、あながち間違いじゃねーよなぁ。魔女から直接指導を受けられる夏合宿なんて、普通の学生じゃ絶対叶わない夢物語だし」


 このクラスメイトの男性生徒の発言に、他の女子生徒がこんなことを口にした。


「他の学校の生徒だけじゃなく保護者がうちの学校でもそういった合宿が出来ませんか? って打診がすごいらしいよ。もちろん出来る訳ないんだけどさー、そういう事を学校にやってほしいって頼む気持ちは痛いほどわかるのよね。後、どんなことをやったかの情報だけでも欲しいって学校に交渉に来た一団もいるって噂があるっぽい」


 この発言を聞いて、クラスメイト達は次々とそういう噂が立つって時点で十中八九事実だろうなと思ったり……校長先生の心労がひどい事になってそうと心配する声も上がっていた。


「2学期からは外部受け入れを止めるって予定だしな。だからこそそういった情報を少しでも集めたいんだろーな。もっとも、そうなったのは馬鹿があほな事をやったからだけどよ。擁護はできねえ……校長先生には申し訳ねえけど諸々の件は頑張ってもらう他ねえな。俺達じゃ何もできねえ」


 他校との関わり合いなどは、流石に生徒の考えるべきことではない。そこはさすがに大人の仕事である。


「まあ、とりあえず今一番考えるべき事は中間でひどい点を取らないようにすることだろ。あまりに勉学をおろそかにしたら流石にまずい」


 というクラスメイトの一人の言葉に皆がうなずいた。そして数日後、中間試験が始まった。

試験にはいい思い出がない……劣等生でしたから。

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― 新着の感想 ―
誰か一人でいい。 この恩を返すためにレベル5になってくれ。
英語が出来ないので 赤点取らないために選択肢に 全力をかけてたな…(笑)
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