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120話

 さて、時間は日曜日の夜。拓郎はクレアとジェシカに昼間の様子を伝えていた。


「という感じで、ちょくちょく合宿前に料理をある程度教えていこうと思う。食事の用意に手間取りすぎて訓練が出来ないんじゃ意味が無いだろうし」


 拓郎からの藩士を聞き終えたクレアは数回頷いてから口を開く。


「なるほどねー……まあ料理が出来ないならできないで考えていたことがあったけど、たっくんがそっち方面を受け持ってくれるなら私達はとりあえず最低限の用意だけすればいいかな? 一か月親御さんから子供を預かるわけだから、最低限のセーフティは用意しておかなきゃいけないけど、料理ができるようになるならかなり小規模に抑えれるかも」


 クレアの言葉の後に、ジェシカも口を開く。


「料理の方は具体的にどれぐらいまで教えるつもりなのでしょうか?」


 ジェシカからの問いかけに拓郎はそうだなあ、と前置きをしてから──


「とりあえずご飯、それから比較的簡単なおかず。スープ系もみそ汁を含めて数点出来れば問題はないかなと思っている。変な凝ったものを覚える必要はないからなぁ、とにかく一か月極端に飽きずに回せるレパートリーがあればいい。そのうえで野菜を取る事を重視したメニューを組みたい。野菜不足はいろいろと問題が出てくる」


 と拓郎の言葉を聞いて、クレアとジェシカは問題なしと判断して頷いた。肉ばかり、パンばかりと言った偏った食事になると健康面での問題もそうだが魔法の訓練にも影響してくる。魔法も結局は健全な肉体と精神が必要なのは変わる事が無い。故に、バランスのとれた食事をとり健康を維持する事は必須である。


 しかし、一か月もの間特定の場所に留まり勝利を手作りするとなれば面倒に感じていい加減なもの、偏った物を作りやすくなる。簡単にできるから肉を焼いて適当にソースをかけてそれでいい、と言ったような。せめてサラダ形を一品加えるだけでもかなりマシになるのだが、面倒に感じる人はそんな手間すら省きたがる。


 そして栄養バランスが悪化して、体調を崩すのである。食事とは、ただ腹いっぱいになればいいというものではないことは現代における誰もが理解しているだろう。しかし、面倒だと感じる心はそれすらも忘れさせてしまうのだ。


「とにかくちょくちょく料理をさせて、料理はそう面倒な事じゃないって事をクラスメイトに叩き込む。まあ向こうはそんな認識は持たないだろうし、持たないように誘導するけど。で、うちらのクラスだけでも料理をできればもう半分が料理が全くダメでも一か月なら持つだろう。むろん向こうにも料理が出来ないならできない形の労働はしてもらうけど」


 拓郎の言うもう半分とは、言うまでもなく上位成績優秀者で合宿に希望をする事で同行して来る30人枠の人達の事だ。


「ええ、それならば不満もほぼ出ないでしょう。ほとんど料理が出来ないことを見越した対策は進めていましたが、拓郎さんのおかげでそっちの方はずいぶんと楽をさせていただけそうです」


 ジェシカは拓郎の話を聞いて笑みを浮かべる。ある程度厳しくするとはいえ、人から預かった子供を壊すわけにはいかない。だからこそ食事関連はかなり気を使っていたのだが──拓郎の行動によって、かなりの負担軽減につながる事は間違いない。


「ほんとたっくんは頼りになるわー。伴侶としてあの日一目ぼれした私の感覚に狂いはなかったようね」


 そしてなぜかクレアがどや顔を浮かべるが、拓郎もジェシカもそこには突っ込まなかった。これぐらいでいちいち突っ込みを入れるのもあれだな、と自然に思えるだけの3人が親密さが上がっていることの証明と言えるだろう。


「もう6月に入ってしまっているが、ちょくちょくやるだけでも多少の料理の腕は身につくだろう。それに料理をすることで受験勉強などにおける気分転換にもつながる筈だ。それに料理も頭を使って順番を考えながらやらなければいけない計算的なところ、パズル的な所もある。そういう意味でも無意識に頭を刺激する機会につながる筈だから、皆の将来にも役立つはずだしな」


 と、拓郎は自分の考えを述べた。拓郎達は高校3年生であるため、やはり受験勉強などは必須で免れる事はできない。だが、その合間に行う料理は気分転換かつ時間配分を考える事が必要になるため、そういった経験はテストなどにも応用が効くので役に立つだろうと拓郎は考えていた。


 なお、肝心な拓郎の将来なりたい回復魔法使いにおいては、一定の学力こそある事が望ましいが、最大限の重視される点は回復魔法の質とレベル。故に拓郎にとっての受験勉強とは科学魔法の訓練となる。むろん学力も一定レベルは所持しているのでそっちの問題はほぼない状態である。


「そうね、できる事が一つ増えるってだけでも意外な形で命を繋ぎ明日の日の光を見れる事に繋がる事は珍しい事じゃないわ。それが口に入れる食べ物に関わる料理ならなおさらよ。どんな国に住んでいてもいつどんなことがあるか分からないのが現実。だからこそ平時にできる事を増やすというのはいい選択よ」


 と、クレアが己の人生からの経験から来る意見を口にした。ジェシカは何も言わなかったが、僅かに頷いて同意している。


「幸いみんなのやる気は非常に高いから、どんどん教えていこうと思う。大学生になれば一人暮らしを選択する人も多いだろうしな。そういう時に料理が出来るか出来ないかで体調の維持に差がついてしまう可能性は十分にある。みんな気のいい連中だし、不幸にはなって欲しくないからな」


 拓郎も、正直な胸の内を口にする。正直、拓郎が今まで口にしてきたことは大半の学校などでは出来る訳がないとして否定され、一笑に付されることの方が多い。回復魔法使いへと至る道はそれぐらい高く険しいという事だ。だが拓郎の学園ではそんな拓郎馬鹿にするような声は一切なかった。そのありがたさを、拓郎はきちんと理解している。


「その先、人によっては結婚して子供をもうけて──と言った形の人生が続く可能性がある以上、料理はできた方が間違いなくいいですからね。他にも掃除や洗濯などは分担してやった方が喧嘩や不公平感の噴出が抑えられます。男性でも女性でも一方だけに全てをやらせようとすると必ずと言っていいほどの確率で夫婦間の諍いに繋がりますからね」


 と、これまたジェシカが自分の人生で見て来た事から来る経験と口にする。拓郎はこの言葉に反論を上げることは無かった。


「片方だけがやって、片方がのんびりしていたら腹が立つのは自然な事だからなぁ。うちの両親はそういうことは無いから良かったけど」


 拓郎の家では、料理や日々の洗濯は母親が。家の掃除や大物の洗濯等は父親が担当していた。他の家事も分担して行っており、そういった関連での夫婦喧嘩は行った事が(少なくとも拓郎の記憶の中には)ない。むろん人間だから喧嘩が全く無い訳ではないが、それでもかなり少ない方だろう。


「うんうん、幸せな家庭の未来予想図があるってのは良い事よねー。私達もそういう家庭を築きましょうね、たっくん♪」


 急激にクレアの声色が艶っぽい物に代わってしまった。こうなったクレアはひたすら拓郎にくっついて放さない状態になってしまう。当然クレアの豊満な胸が拓郎に当たるため、健康な男子にはかなり辛い状態になってしまう。むろん、襲われたところでクレアにとっては渡りに船でしかないので猶更質が悪い。


「将来クレア姉さんと拓郎さん、そして私の間に生まれた子供がいっぱいいそうですね」


 ジェシカまでほほえましい笑顔を拓郎に向けてくる。この日はそのまま添い寝コースとなだれ込むことになった。拓郎は冷静さと理性を保つため、弱めの魔法を何度か使う羽目になった……

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― 新着の感想 ―
それにしても、拓郎君、性欲を抑える魔法を使いすぎて、クレアさんがせくしい衣装を着てみせても反応しない未来になったら笑うべきか悲しむべきか…。
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