114話
4日後。一つのニュースが学園を駆け巡った。それは、学園の3年生の1人が出先で事故に巻き込まれたこと。そして、その事故を最小限に抑え込んだことの2つである。
「聞いたか、あのニュース?」「そりゃ聞かない方が無理だろ。TVのニュースで派手に取り上げられて驚いたってレベルじゃなかった」「犯罪者の魔法乱射を、防御魔法で無力化したうえに拘束して警察顔負けの活躍って話だろ? 拓郎のバスの事件に続いて2件目の活躍って事で学校な名前がでかでかと出てたからな」
拓郎のクラスメイトが話している通り、TVでも新聞でもでかでかと取り上げられた『犯罪者の魔法を学生がすべて無力化! 更に犯罪者を拘束し被害を最小限に抑えた大手柄!』という1件のニュースは学園で話題にならないのが無理というレベルであった。当事者は警察から感謝状を受け取っており──
『もし彼がそこにいてくれなかったら、今回の一件においてどれほどの被害が出たのか想像したくもありません』
という警察側の言葉もあって、あの学園の生徒が使う防御魔法のレベルは凄まじいと全国に広まってしまったのだ。元から魔人、魔女が魔法を教えている事で注目を浴びているというのに、そこに実践して見せたことが重なってまさに倍率がドン! な状態である。なお、その場にたまたま居合わせただけの当3年生は──
『ただの人命救助を行うつもりだっただけで、犯人の攻撃魔法を防ぎ、拘束したのはどっちかというとおまけというか──』
という本音を周囲の友人に語っていたりする。その一方で防御魔法の訓練がすごく役に立ったのは事実で、また一点集中の授業を機会を見てやってほしいという発言もまた行っていたが。なんにせよ、また学園が嫌でも目立つ結果となってしまっていた。当然校長先生は朝から鳴り響き続ける電話の影響で、本来の業務に支障が出てしまっている。
その日の夜。拓郎の家で拓郎、クレア、ジェシカが話し合いを行っていた。クレアが拓郎を後ろから抱きしめた状態であるが、拓郎もある程度慣れてきたためあまり動揺はしていないが。
「ますます学園の周囲が騒がしくなってしまったなぁ……」「とはいえ、人命救助を行ったこと自体は素晴らしいものねぇ。褒める事はあっても責めるのは筋違いよ?」「実際防御魔法をしっかりと張って周囲を守り、その後攻撃魔法の中でも拘束に向いたものを使って被害を押さえた判断力も優秀。彼を欲しいという所は多くあるでしょうね」
と、今回の一件についてそれぞれの意見を口にした。
「実際、魔人、魔女側の反応はどうなの?」「うーん、これは狙っていたわけじゃないってはっきりと言っておくんだけど。ジェシカの知り合いの魔女が現場近くにいたらしいのよ。最悪自分が出て場を収めようって思っていたらしいんだけど、目の前で学生が収めちゃった事でかなりびっくりしていたようだったわ。ジェシカに連絡がきたんでしょ?」
拓郎の言葉にクレアが答え、そしてジェシカが話を続ける。
「ええ、かなり興奮した感じで『今の学生ってあそこまでレベルが高いの!?』と聞いてきましたよ。私達が教えたという事を伝えると『なるほどね、貴女の指導があって本人が真面目に訓練していれば──分からなくもないか。ちょっと興味が出て来たわ』と言ってました」
興味が出てきた、の部分に拓郎が反応した。まさかその同級生──今の自分と同じように伴侶にするという意味でのロックオンをされたんじゃあ……という不安が心の内を駆け巡ったからである。それを呼んだクレアが口を開く。
「多分たっくんの予想とは違うと思うなー。彼女の興味は弟子を取ってみようかな? という方向だと思うのよ。まあ私もそうだったけど、人にものを教えるって事にあんまり興味がなくてねー。でも私はたっくんを鍛えて、学校の生徒達も教えているうちにこれはこれで悪くないって思えるようになったのよね。もちろん生徒が真面目に取り組んでくれたってのもあるけど」
そりゃ、真面目にやらない連中がいたらクレアは見限ってただろうなと拓郎も内心で考える。真面目にやってできない、ならまだいいのだ。真面目にやらすにできないと文句をこぼす連中がいたら、教える側としてやる気が失せるだろうと。
「正直、私自身自分の変化には驚いているわ。去年までもはや自分の命すらどうでもいいと思っていた自分が、男性に恋愛感情を抱き、人に知識を教え、こうして幸せだって素直に思える自分自身がいる事に。たっくんに出会えてよかった。出会えないまま日本を離れていたら、どうなっていたか分からない」
一気に部屋の湿度が重力を持ったような雰囲気に転じた。人はこれを思いが重いと評する。クレアから拓郎に向けられる感情がいかに重いのかを、拓郎とジェシカは再認識した。いや、周囲の護衛として存在している魔人、魔女の皆さんも嫌でも感じ取っていた。腹痛を感じ始めた人もいる。
「たっくん、ずっとそばにいてね。もちろん、それだけの幸せと楽しい時間を私はたっくんにあげる。絶対損はさせないからね」
言葉はすごい穏やかなのだが、重さがさらに増した。しかし、この重さから逃げ出す拓郎ではない。むしろ、彼は真正面から受け止める。
「分かった、楽しみにしておくよ」
この一言で、場の重さが一気に和らいだ。それに胸をなでおろすのは周囲の護衛をしている魔人、魔女の方々だ。変な方向に行かずに済んでよかったというのが、彼や、彼女らの偽りのない本音だろう。
「私も楽しみですね。所で姉さん、先の一件で間違いなく学園にちょっかいをかけてくる連中が増えると思うのですが、どうします?」
と、ジェシカが普段の調子で怖い事を口にした。それに対するクレアの返答は──
「ま、害が出ない程度に探るなら放置でいいでしょ。害が出るなら、相応の対処をしましょうか。こっちだって他校の生徒を受け入れるっていう妥協をしているのに、それ以上の事を要求するなら、ねえ?」
と、こちらも普段と変わらない雰囲気で返答をしているが言っている事は相当に物騒である。平穏を過剰に乱すのであれば──この世からご退場していただくと暗に言っているのである。
「ではその様に。私としても今の状況は実に得難いものですから。それを壊すというのであれば──相応の結末を迎えてもらわないといけませんから」
2人の言葉に拓郎はいちいち突っ込まない。もはや慣れてしまったがゆえに、こういう時には心を無にして聞き流す行動ができるようになってしまっている。実際クレアもジェシカも、攻撃などを受けなければ特に何もしないと今までの付き合いで拓郎は理解している。逆に言えば、要らぬ攻撃を仕掛ければどうなるかもまた理解しているという事でもある。
「ま、馬鹿が馬鹿をやらなきゃ文句はないものね」「ええ、こちらは穏やかに過ごしたいだけですから」
何気ない会話だが、この会話だけは意図的に外の護衛をしている魔人、魔女に伝わるように細工をしたうえで声を発している。外の護衛をしている魔人、魔女からしてみれば突然強烈な圧を叩きつけられたような物であってたまった話ではない。それでも、穏やかに過ごせればいいという言質が取れたのは喜ばしい事であると、彼らは割り切る外ない。
「まあなんにせよ、2人の指導のおかげで人を守る事が出来る人間が増えた。そこはとてもいい事だよな──馬鹿な連中はどうしても消えないが、それに対抗できる人間がいるというのはやはり大きい」
妙な空気になったので、拓郎が今回の事件の感想を口にする。クレア、ジェシカの指導があったからこそ防御魔法で人を守り、攻撃魔法をどう使えば捕縛できるかが理解できていたからこそ動ける。人は学んだ事、訓練した事しかできない。逆に言えば、実践でそれだけ動けたという事は相応の知識を持ち、訓練を行った照明となる。
「そうね、そうやって他者に迷惑をかけようとする輩が少しでも減ってくれることは実にいい事よね」「危ない事をするな、と普通の教師なら言うのでしょうが。私達は普通じゃないですからね、やれると思ったならしっかりやりなさいと言うだけです」
などの会話をしているうちに夜も更けてくる。明日もあるのだからと拓郎達はベッドに入って眠りにつく。3人が一つのベッドで。もはやこの状態になれてしまい、拓郎は緊張のきの字もない。魔法だけでなく、こういった面も拓郎は普通という物を投げ捨てていた。本人に自覚はほとんどないが。
お盆辺りで夏の疲れが出たのか、調子がちょっと優れない日々を過ごしています。
今年の夏も暑さが厳しいどころか異常ですよね。
皆さんはこうならないようにお過ごしください。
後、学生で夏の宿題が終わっていない皆さま。マジで悪いこと言わないので一刻も早く
片付けた方が良いです。地獄を見る羽目になりますよ?