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113話

 翌日。学校に登校した拓郎はクラスメイト達がある一つの話に対する噂をしている事に気が付いた。むろんそれは昨日愛知県で発生した例の一件である。


「よう、拓郎。おはよう。なあ、ニュースは見たか? 昨日愛知で発生したテロのニュースだ」「ああ、ニュースは見たよ。テロ行為は許されない事だよな。愛知県警が素早く動いたおかげで死者はゼロ、軽症者数名に抑え込めたのは良かったけどな」


 雄一の挨拶に拓郎も当たり障りのない返答を返す。拓郎は真相を知ってはいるが、当然喋るわけにはいかない。


「愛知県警が優秀でよかったぜ。もしテロが完全な形で成功していたらと思うとぞっとするぜ」「それに関しては同意しかないな。本当に警察の皆さんは頑張ってくれた。感謝しないといけないな」


 と、拓郎は雄一の話に合わせる。警察に対しての感謝の意志は紛れもない本心なので、合わせるのに苦労はしなかった。


「しっかし、テロってのは何時になったら無くなるんだろうな?」「自分の主張を認めない世界は悪だ、なんて極端に偏った思考に走る人間が消えると思うか? 難しいと思うぞ。もちろんテロを肯定は絶対にしないけどな。関係のない人の命を平気で消そうとするテロ行為はただの悪だ」


 などの話をしていると、担任の先生が教室に姿を見せる。即座にクラスメイト達は噂話を止めて静かに席に着いた。


「よし、皆今日もそろっているな。話が聞こえてきたが、お前たちも知っている通り昨日愛知県でテロ行為が発生した。これを受けて全国の警察はパトロールを強化すると宣言している。街中で警察官を見る事がしばらく増えると思うが、邪魔だけはしないように念押しさせてくれ」


 担任の言葉に、クラスメイト達は素直に頷いた。警察の対応は当然の事であり、妨害する理由は全くないのだから。


「分かっていると思うが、明確に怪しい物には触れない、近寄らないだ。それをお前たちは分かっていないなんて思ってはいないが、それでも言いたくなるのが大人って奴だ。すまないが、そこだけは理解してほしい」


 この担任の言葉にもクラスメイト達は頷くことで返答とした。教師である以上、先日のような非常事態が起きた以上言っておかなければならないことを理解しない程、彼らは子供ではない。


「じゃ、朝のホームルームはこれまでだ。一時限目の準備をしておいてくれ」


 そう言い残して担任は教室の外へと出ていった。それから授業は普段通りに進み、科学魔法の訓練の時間となった。いつも通り集合した生徒達だが、開始前にクレアが話したいことがあるので聞いてちょうだいという何時もとは違う始まり方となった。


「ニュースで知っていると思うけど、テロ行為が発生したわ。何時になってもああいう事をする人間という物はいなくならないわねえ。しかし、ならば私はみんなに魔法を教える教師として対策を練る必要があるわ。なのでこれから一週間、防御魔法の向上を主にした訓練を行う事にします」


 クレアの言葉に、少々ざわめきが発生したが──分からない話ではないという事ですぐに収まる。ざわめきが収まったことを確認したクレアは再び口を開く。


「具体的には、かなり危険な爆弾が至近距離で爆発したとしても軽症で済むレベルまで行くことを3年生は目標としてもらうわね。それを見た上で、2年生と1年生も防御魔法の向上を図ってもらいます。他の学校からきている子にも申し訳ないけど、従ってもらうわ」


 クレアの有無を言わせぬ圧に、反論など起きようもなく──この日から一週間は防御に関する魔法を鍛える事となった。もっとも──


「ジェシカ先生、どうでしょうか?」「うーん、ちょっと練りが甘いですね。ほら、こうやるとあっさり壊れてしまったでしょう? ここは──」


 魔人、魔女の先生による直接指導が貰える事で自分の科学魔法の技術が伸ばせる機会であることに変わりはない。指導を受けて修正し、再び防御魔法を展開して見てもらう。これを繰り返すことでどんどん己の科学魔法に関する技術が伸びる。理解が深まる。それがいかに自分の将来にとってプラスとなるか、理解しない生徒はいなかった。


「クレア先生、こうですか?」「良いわよ、ぐっと良くなった。後はここを──」


 悪い所はしっかりと指摘し、良くなったら素直にほめる指導で授業が進む。科学魔法のトップである魔人や魔女に褒められて、悪い気分になる生徒などいる筈がない。そして技術が伸びれば、己を守れる可能性が増える。何より成長するという物は楽しいものだ。ゆえに普段とは違った授業と言えど誰もが熱心に訓練に取り組む。


「なるほど、こうすれば良かったのか」「明確に展開できる防御魔法の質が上がっている、これはきちんと記録しないと」「脆弱だった防御魔法が、ここまでよくなるなんて……指導一つでこうも変わる物なのね」


 他校からきている生徒にとっても、実に有意義な時間となっている。テロが起きた以上、やはり誰もが己の身を守れる技術を欲するようになったのは自然な事。その心情をくみ取ったこの日の授業は誰もが熱心に取り組んだ。それは生徒だけに留まらない。


「なるほど、ここが悪かったのか」「まだまだ学ぶことは豊富ですね。レベル1のは私が張ったシールドがここまで強固になるなんて」「生徒を守るためにも、この技術は必須でしょう。教育委員会にも提出するべきかもしれません」


 そう、教師達も必死で防御魔法の向上に励んでいた。学校はテロの標的にされる場所の一つである以上、対策を練らない、もしくは警察任せにするという選択肢はない。自分の身だけでなく生徒の命を守るためにも、少しでも強力な防御魔法を短時間で発動できるように訓練する必要性を強く感じていた。


 その為か、この日の訓練時間は誰もが体感で10分ぐらいにしか感じなかった。あっという間にもう終わりの時間? と驚いていた。


「では今日はここまで。みんな格段に良くなったわ、この調子なら自分の身を守るだけでなく周囲の人を守れるかもしれないわね。明日もしっかりと訓練して、より質を高めていきましょう!」


 クレアの言葉に、誰もが元気よく「「「はい!」」」と返答を返していた。無理もない、この訓練時間だけで自分自身の防御魔法に関する技量が確実に伸びたという手ごたえをここに居る誰もが感じ取っていたのだから。そこに生徒や教師と言った区別はない。当然その後の昼食はこの訓練でもちきりだった。


「すげーよな、クレア先生達。たった一時限で俺達の防御魔法のレベルをここまで上げるんだからよ」「でも今までの積み重ねがあったからって念押しもあったけどね」「まあ、俺達もちゃんと指導に従って頑張ってきた甲斐があったてことだよな」「そして、この技術が向上すれば他の魔法に関する技術も上がってるはずだろ? やっぱり先生たちの始動はすごいぜ」


 と言った感じの会話がメインとなっている。一方で拓郎だが──


「拓郎は教える側に回ってたよな。それがすげえと言うか」「クレア先生、ジェシカ先生直々に訓練を叩き込まれて来ただけはあるって感じだったね」


 雄一、珠美の発言通り、拓郎はサポートとして教える側に回っていた。拓郎に教わった側も文句を口にする人はいなかった。何せ毎日拓郎を囲んで攻撃魔法を放つという、知らない人からしてみたら殺すつもり満々の訓練をしている事を分かっているのだから。


「人手が足らないから、どうしてもそうなるのは仕方がない。それに、防御魔法はしっかりと鍛えておいて損はないからな。展開の速さ、強度、防いだ後の処理、などは毎日皆との訓練で磨く機会を貰っているから、こういう時に返しておかないと」


 拓郎の防御魔法の技術は、無数の魔法を撃たれる事で半ば強制的に磨かれている。ゆえに昨日の不意打ちで繰り出された魔法にも対応できた。その恩は返せるときに返しておきたいというのは、拓郎の本心である。


「なんにせよ、みっちり鍛えて置けば命を守れるのは違いないからな。明日からも頑張らないと」「雄一の言うとおりね。私も頑張らなきゃ」


 こうしてこの日の時間が流れていく。それから一週間みっちりと防御魔法を鍛えた生徒と教師陣は明確なレベルアップを果たしていた。最低でも2ランクの防御力を手に入れるに至っていたのだから、十二分な成果を上げたと言っていいだろう。この訓練が、のちに生徒の命を救う事になったのは、一週間の訓練期間を終えた日から数えて4日後の事であった。

今年はお盆の時期から外れているので、来週も更新します。

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