112話
書いたことないジャンルも練習してみよう。
そう思って書き始めただけなのになんでこう長くなってしまうのだろう。
自分の悪癖ですね……
それからしばし後、現場に到着した3人。そこは愛知県のある場所にて多くの警察官と自衛隊がある存在を中心とした包囲網を形成して戦闘を行っているのが簡易的な望遠鏡を用いれば見える場所。中央に存在するその存在は、ファンタジー的に言うならキマイラが一番近いだろう。ライオンの顔を持ち、ヤギの頭が胴体から生え、そしてしっぽがヘビというあれである。
警察と自衛隊はその存在が大きく動くことがない様に前後左右をしっかりとはさみ、魔法を浴びせて弱らせようとしている。周囲はいくつもの建物、民家が破壊されていたが──
「なるほど、なかなか優秀ね。あのサイズの魔法生物が暴走したときに引き起こす災害の規模をかなり小さく抑えているわ」「そうですね、あと3回りほど被害を受けた規模が大きいと予想していましたが──おそらく初動がうまくいったのでしょう。しっかりと訓練されている優秀な人たちであることは間違いないでしょう」
愛知県警と書かれた盾を持つ警察官たちが、キマイラの突進を複数人で受けて押しかえす。キマイラが放つ魔法を自衛隊員が魔法で相殺する。生まれた隙に何人もの自衛隊員や警察官がクロスボウの矢を放ってキマイラにて傷を負わせている様子が伺える。
「クロスボウ?」
何故銃ではなくクロスボウなのか? 疑問を抱いた拓郎に、クレアはすぐに理由を教える。
「銃だと、魔法の通りがあまり良くないのよねぇ。だから魔造生命体には効きがわるくなるのよ。一方でクロスボウの矢なら、矢の中に魔法をたっぷり詰め込めるから魔造生命体の構造を崩す事が出来る。そして、その構造を崩す力が魔造生命体の力を上回ればその時点で魔造生命体はチリとなって消えるわ。爆発したりして二次被害を出すようなこともない。覚えておくといいかもしれないわ」
なるほど、と拓郎は理解した。確かにあれだけの魔法を使う存在が最後の手段として自分の魔力全てを炸裂させた場合、どれほどの被害が出るか想像もつかない。そうさせないようにする手段が、あのクロスボウの矢。出来るだけ周囲に被害を出さないことを第一に考えた場合の最適解なのだろうと。
「周囲の自衛隊の方々にも注目してください。彼らの実力ならばもっとレベルの高い魔法を放つ事が出来ます。しかし、意図的に彼らは抑えていて、魔造生命体に不利になったと思わせないようにしています。明確に不利になったら、自爆を試みる魔造生命体は決して珍しくありません。こういう暴走のさせ方を前提としているなら、なおさら自爆を最後にしようとする可能性は高いです」
と、ジェシカからも説明が入る。暴れまわっている魔造生命体を見つめながら、拓郎の心の内には怒りと、爆弾にされるためだけに生み出されて苦しそうにしている魔造生命体として生み出されてしまったキマイラに対する悲しみの気持ちが生まれていた。
「あんなことをさせて、そして最後に自爆させて被害を出させるためだけに作らた存在か……ふざけているにも程がある」
拓郎の呟きに、クレアが反応する。
「そうよ、たっくん。その怒りと悲しみはずっと覚えておきなさい。あの子だって、ちゃんと許可を取って穏やかでいられるように生まれてくることができればあんな目にあうことは無かったのよ。もちろん、周囲の被害だってなかったしああやって命を懸けて戦う人たちの苦しみもなかった。不法な魔造生命体はこんな苦しみと悲しみを振りまくの。そして作った本人だけは高笑いね……もっとも、明日の朝日を迎える事はさせないけど」
クレアは喋りながらも、殺気を放ち始めていた。それはジェシカも同じだが……一方的に生み出された挙句、散々苦しんで死ぬしかない魔造生命体の姿が、己の今までの境遇に重なる所があるからこそ、彼女達は明確な苛立ちと殺意を覚えていた。
それからしばらくして。確実に弱らせつつもキマイラに不利になったと思わせない慎重な戦いを続けた愛知県警と自衛隊の連合部隊は、無事討伐を成功させた。魔造生命体はその身を横たえたと同時にチリとなって霧散し、静かにその姿を消していった。その後しばし周囲の状態を確認した愛知県警は包囲網を解除。戦闘が終わったことを確認できた。
「無事に終わってくれたか」「優秀ね、不意に起こった魔造生命体の被害をここまで抑えるのは相当難しいけど彼らはやり遂げた。大した腕よ」「そうですね、称賛すべき腕前と行動です」
一連の流れを見終わった3人がそれぞれの感想を口にすると、突如後ろから「お褒めに預かり光栄です」という男性の声が。もっとも、拓郎達3人はすでにその存在に少し前から気が付いていたが。
「先に言っておくけど、今回の件を言いふらすつもりはないわよ? 私達はこの子にこういう現実もあるんだって教えるために来ただけだから」
クレアは振り返らずに、後ろにいる人物へとそう声をかけた。しかし、後ろから感じられる圧は減らない。
「教育熱心なのは素晴らしい事です。しかし、あの存在はまだ一般的ではない。それをこうして見に来ているという行動をとった事実がある以上、こちらとしてもはいそうですか、でお返しするわけにはいかないのです」
言葉を発すると同時に、殺気も混じり始めたなと拓郎は感じ取った。なのでいつでも防御できるように魔法の構築を行っていく。
「その言い分は理解できます。しかし、そちらがそう言う手段に訴えるのであれば相応の対応をさせていただきますよ──いえ、それはとりあえず横に置いておきましょうか。先ほどの魔道生命体が散った時に僅かに感じ取った制作者の残留魔力の一部が、貴方から感じられる魔力に非常に似ている。これについての説明をぜひ求めたいですね?」
ジェシカの問いかけに対する答えは、魔法による攻撃。だが、その攻撃は爆発も何も起きず、拓郎、クレア、ジェシカの魔法障壁によって奇麗に消失。その事実に、魔法を放った男性は「な、に!?」と狼狽してしまう。その狼狽が、彼にとって致命的な失策となった。一瞬で彼の体を魔法の鎖が絡め捕る。
「犯人は現場に戻って来るもの、なんて言葉があるそうだけど。貴方もまさにその一人だったようね? 自分の作った魔造生命体が『仕事』をきちんとこなすのかが気になってしょうがなかったのでしょう。ま、こちらとしては探しに行く手間が省けて助かったと言った所だけど」
そしてクレアは振り向いた、犯人の方へと。その顔は実に醜いものであった。この場合の『醜い』とは顔そのものの醜悪さではなく、己の心の醜さからにじみ出てくる表情の方である。
「なんで、ここにこんな場所にクレア・フラッティがいる……っ!?」
魔法の鎖で動きを封じられている犯人は、憎たらしくてしょうがないといった表情をクレアに向かって見せた。その質問に対するクレアの答えだが。
「あんな違法に生み出された魔造生命体の仇を取ってあげたかったからよ。あの子だって、あんな暴れまわった後に爆弾にされるだけの生を押し付けられたことに対する憤りがある筈。それを私が変わって実行してあげようっと思ってね?」
が、ここで犯人はクレアに対し、嘲笑するかのような表情を浮かべる。
「はっ、クレア・フラッティともあろうものがお優しい事だ! が、あいつにそんな感情なんかある筈がないだろう。そんな感情など、爆弾には不要だ。暴れて爆発するだけの存在に、わざわざ感情など載せる必要性がない。もっとも、爆発すらできずにくたばった失敗作だがな」
その言葉が、クレアとジェシカ、拓郎の心の火にガソリンをぶっかけた。その事に犯人だけが気が付かない。次に口を開いたのは拓郎だった。
「あれだけの凄い存在を生み出すだけの力と技術がありながら、やることはただのテロ行為か。随分とご立派だな」
この拓郎からの言葉に、更に嘲笑するかのような表情を浮かべて犯人は口を開く。
「そうさ、俺は力がある、技術もある、だから立派なのさ。その立派な人間の実験の礎になれる事は、凡人にとって光栄な事だろう? 私はテロリストではなく研究者さ、すごい研究者なのさ。君の様な魔女が近くにいるからイキがれるお坊ちゃんとは根本的な所から違うのさ」
その後に下品な声で笑う犯人。が、今度はジェシカがそんな犯人に対して嘲笑した。
「本当に面白いですね。目の前にいる子が、お坊ちゃんだなんて判断するその見る目のなさ。確かに魔造生命体と作れるだけの力はお持ちのようですが、人を見る目は下の下ですね。ふふ、お可愛い事」
ジェシカの言葉に対する犯人の反の反応は実に分かりやすく変わった。一転して沸騰したのだから。顔も真っ赤になり、拓郎を睨みつけながら怒鳴る。
「こんな餓鬼、魔女がいなければ最初の攻撃で死んでいるさ! 魔女の庇護をどうやって受けたのかは知らないが、それが無くなってこいつ一人になったら何もできずにくたばるだけだ! 違うか!?」
が、この犯人の主張をクレアが鼻で笑う。
「違うわね。さっきの魔法だってたっくんは自分できちんと防いでいたわよ。私達は自分の事しか守っていなかったわ。いい事を教えてあげましょう、たっくんはレベル8よ。嘘かどうかは、たっくん?」
クレアに話を振られたことで拓郎は頷き、犯人の顔すれすれに魔法のレーザーを放った。そのレーザーは犯人の髪の一部を消し飛ばし、頬にうっすらと一筋の傷をつけた。これで犯人も理解した。目の前の餓鬼がなぜ魔女と一緒にいるのかを。居られるだけの力を持っているからなのだと。
実際のところは違うのだが、犯人的にはそう理解した。そう理解してしまった事で十分だった。犯人が強気に出られていた理由は、魔女の加護を受けている餓鬼を人質に取れればこの場を抜け出せるという計算が合ったからこそ。しかし、力も技術もあるからこそ犯人は理解した。目の前の餓鬼は間違いなくレベル8であるという事に。
さらに、ただのレベル8ではなく訓練を積み重ねて技術が伴っているレベル8であるという事も理解してしまっていた。つまり、目の前には最悪の魔女が2人いて──その魔女ほどではないが、自分より明確に強い餓鬼が一人いる。この事実は、犯人の心を折るのに充分であった。おとなしくなった犯人を見て、クレアが一言。
「たっくんはジェシカと一緒に帰ってね。私は──このクズに相応の結末を与えてから帰るから」
クレアの言葉にうなずき、拓郎はジェシカと共に帰宅した。それから30分後にクレアも帰宅。犯人に何をしたのかなんてことを拓郎は聞かない。クレアがやると言ったら必ず実行する事など、これまでの付き合いで十分に分かっているのだから。こうして、一人の愚か者が地球から姿を永遠に消した。