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110話

 それからやや時は流れて、5月の終わりが見えてきたころ。拓郎とソフィアの組手はひとまずの仕上げと言っていいレベルへと近づいてきていた。


「はい、そこまで。うん、かなりマシになったわね。たっくんもありがとうね、適切な加減が出来ていたから、彼女も一点ばかり見ずに全体を見るって事が理解できた様だし」


 ひとまずは形になったという事で、拓郎との組み手を終える事がソフィアに告げられた。そしてクレアは剣を持つ、そう、ここからが本来の訓練なのだから。


「じゃ、再び剣を交えてみましょうか。無様を晒さないようにね」「はい、クレア先生!」


 クレアの言葉に元気よく返答したソフィアも剣を構える。お互いが向かい合ってしばし、クレアがソフィアに向かって剣を振る──その剣は、ソフィアの剣によって防がれた。それを見たクレアが笑みを浮かべる。


「どう? この一回だけのぶつかり合いだけで自分が変わったって事が分かったんじゃないかしら?」


 クレアの言葉にソフィアは何度も頷いていた。今まで全く見えなかった剣の動きが見えたのだから当然だろう。以前のソフィアと今のソフィアは視野の差が大きく異なる。それ故にクレアの剣を防ぐことが可能となった。クレアの全体の動きが見えるようになったことで、剣が振り下ろされる場所やタイミングが分かるようになったからこそ、適切な防御を行えたのだ。


「はい、以前の私は如何に相手を見ていなかったのかを痛感しています。あれでは、どうやっても来年の決闘に勝てるわけがない……その事をはっきりと認識できました」


 ソフィアに気が付いてほしかったことが正しく伝わっている事を理解したクレアはよろしい、と満足げに口を開いた。


「じゃ、次は一回で止めるようなことはしないわ。しっかりと防御し、そして機を見て反撃を仕掛けてきなさい。貴女は今ようやくスタートラインに立ったところ、ここからがやっと本番よ?」


 そうしてクレアによるソフィアの剣術訓練が始まる。だが、それは少し前までの光景とは全く異なるしっかりとしたものに見える。その理由は、やはりソフィアがクレアの剣を防御できるようになったからこそだ。以前は数回斬り合いをするだけでソフィアの腕やら足やらが斬り飛ばされていた。


 しかし、今はどうだ。しっかりとクレアの剣をソフィアは受け止めて時々反撃までするようになった。ようやく、訓練らしい光景が繰り広げられるようになったと言っていいだろう。その様子をうかがう拓郎はホッと一息を吐いた。


「ようやく、まともな訓練の開始って感じですね」「そうですね、以前はすぐにソフィアの四肢のどこかが切り落とされていて訓練になっていませんでしたから。でも、今の動きはまともな訓練と言っていいでしょう。後は徐々に厳しくなるクレア姉さんの動きについていければ、彼女はもっと強くなりますよ、いやでも」


 なんて会話が拓郎とジェシカの間で交わされる。そうしてこの日は、ソフィアが四肢を一度も切り落とされることなく終わった。訓練を終えた直後のソフィアの息は乱れきっていたが、手ごたえはあったのだろう。その表情は実に明るい物であった。


「お疲れ様、明日以降は徐々に厳しくしていくけど、手ごたえは感じれたようで何よりよ。後はしっかり休息を取りなさい。夏の合宿では体術と魔法の訓練がメインになる予定だから、剣技は今のうちに叩き込むからね?」


 クレアの言葉に分かりました、では失礼しますと告げてソフィアは帰宅していった。ソフィアの姿が見えなくなってから、ジェシカがクレアへと問いかける。


「姉さん、あの子の剣技は伸びしろがありますか」


 この問いかけに、クレアしばし考えてから口を開いた。


「そうね、流石に基礎は叩き込まれているから──あとは訓練次第な所もあるわね。フェイントのやり方だとか対処だとか、後は読み合いなんかも教えないとダメね。ただ伸びしろはあるけど、どこまで伸びるかはちょっとわからないわ。夏休み前までの訓練で、そのあたりは把握するつもり。伸びしろがないなら、何かしら他の訓練を取り入れないといけないでしょうし」


 という返答にジェシカは頷いていた。拓郎は剣技に関しての知識などないため、口を一切挟まずにいた。


「じゃ、私達も帰りましょうか。おいしいご飯を食べてしっかり休んで、明日また頑張りましょー」


 と、先ほどまでの空気などどこ吹く風の調子になったクレアに、拓郎とジェシカも続く。この日からまともな剣技の訓練ができるようになったことで、ソフィアの剣の技量は確実に伸びていく事となる。また、その事に刺激を受けた拓郎が体術に関してジェシカによるより濃密な指導を受ける事にもなっていく。



 その日の夜、食事を終え、風呂も済ませた拓郎、クレア、ジェシカが一つの部屋に集まっていた。理由は、拓郎の魔法の基礎訓練のため。魔法をしっかりと練り、より効果が高い物へと上げるこの基礎は常に行っていかなければならない。その為、時々拓郎はクレアとジェシカに厳しくチェックしてもらう事があった。


「うん、いい感じだと思うわ。その調子でもう少し練り上げてみよう」「こういう、感じかな?」


 クレアの言葉に従い、より濃密に魔法を練る事に集中する拓郎。練り上げれば練り上げるほど、その扱いは難しくなっていく。鍋の中をかき混ぜていたら粘り気が出てきて、かき混ぜるのが徐々に重くなっていく、というイメージを持っていただければいいだろう。しかしその濃密な魔法の練り上げを行えば行うほど、魔法が洗練される。


 拓郎が通っている学園の教師陣もこの基礎訓練は積極的に行っており、生徒も教師も関係なくやる様になっている訓練の一つ。この訓練は周囲に魔法を出さないため周囲に迷惑をかける事もなくできるため、こうやって夜に行える訓練方法の一つでもある。


「いいですね、確実に練りこみ具合が上がっています。大半の人はここまで魔力を練り上げる事はできないでしょう。しかし拓郎さんが求める領域はもっと上……その調子で、ゆっくりでいいので確実に練り上げてください」


 ジェシカからの言葉を受け、拓郎はより集中しながら魔力を練り上げる。そんな訓練を30分ほど行ってこの日の最後の訓練は終了する。


「ふう、このレベルの魔法の練り上げもかなり慣れて来た。後はこの練り込みを素早くできるようになるのが課題かな? ここまでの集中をせずとも使えるようにならなければ実践向きとはとても言えないしな」


 ソフィアの頑張りを見ていたことも刺激となり、拓郎も自分の訓練に力が入るようになった。むろん今までも力を入れていたが、よりその入れ具合が強くなったという意味である。


「そうね、目標としてはそれでいいと思うわ。今のレベルの練り込みを普通に扱えるようになれば、広範囲破壊を引き起こす魔法も、そしてその魔法を防ぐこともできるようになるわ。そうなれば、たっくんが自分自身で自分の体を守るのに十分な実力と言えるでしょ」


 物騒な言葉が出てくるが、回復魔法使いの希少性ゆえに、いざという時は身を守れなければならないというのは今まで申し上げてきたとおりだ。ましてや拓郎のレベルは8、世界でも少数となるレベルであるが故にいざという時の備えはしておいてしすぎるという事はないのである。


「並の人には負ける事がないだけの力を拓郎さんは身に着けましたが──油断は禁物です。常に己を高め続ける事だけが良き自分を保つ方法です。私もクレア姉さんも積極的に協力しますから頑張っていきましょうね」


 ジェシカからの言葉に拓郎はゆっくりとうなずく。こうして拓郎は己をしっかりと高めるための努力を続けている。いつ何時、去年のバスの一件のような力を求められる状況に追い込まれた時に、後悔しない行動が取れるようにと。が、この時は拓郎達は思ってもいなかった。またしても回復魔法使いとしての力を求められる状況が、目の前に迫っていたことを。

急に気温が上がって上手く眠れない日々を過ごしています。

のび太君がうらやましい、彼はすぐにどこでも眠れるんだもの……

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