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103話

 さて、拓郎を始めとした学園側の生徒達だが──最初の2週間ぐらいまでは向けられる視線に居心地の悪さなどを感じたりもしていたが、徐々に慣れていった。そういう視線が飛んでくるのも訓練の一環と考えるようになり、気にしないようになっていく。そして今は、五月の連休を前にして、授業終了後にあれこれ話が盛り上がっていた。


「連休がもう少しで来るんだが、お前はどうするんだよ」「科学魔法の訓練にしようか、休みに充てようか悩んでる。親は訓練しろの一言だけだが、クレア先生の判断を仰ぎたいよ」「あ、分かる。クレア先生やジェシカ先生が訓練した方が良いって言うなら素直に訓練するよ。でも、休んだ方が良いって言われる可能性もあるんだよね」


 と、受験を控えている事もあって遊ぶという話は上がらず、科学魔法の訓練や勉強に充てようという意見が多く飛び交う。そんな中教室に入ってきた担任と共にクレアとジェシカが姿を見せる。とたんに話がやみ、教室が静かになる。


「あー、もうすぐゴールデンウィークだ。今年は5連休か。そのゴールデンウィークについて、クレア先生とジェシカ先生から話があるという事で来ていただいた。静かに聞くようにってもう十分静かだな。では、クレア先生、ジェシカ先生お願いいたします」


 担任の言葉にうなずいた後、クレアが話を始めた。


「さて、皆が多分気になっていると思ったので先に言いに来ました。3日後のゴールデンウィーク中、科学魔法の訓練は休んで頂戴ね。5日休んでもらった方が、その先の訓練での伸びがよくなると判断したが故の指導となるわ」


 クレアの言葉に、クラスメイトのだれもがうなずいた。クレアが休めと言うのであればそれに従う、魔女の言う事なのだから間違いないという信頼が反論を生み出さない。クレアの話はまだづつく。


「そして、ちょっと先の話になるけど。ゴールデンウィークが終わってから夏休みを迎えるまでの間、訓練はちょっと強めになるって事も頭に入れておいてね。科学魔法のレベルアップに使える時間は残りわずかだけど、きちんとみんなのレベルが上がるように訓練を指導していくから焦らないように! 良いわね?」


 と、ここで一人のクラスメイトが手を上げる。彼は以前、親による科学魔法の強要によってレベルをゼロにされた3人のうちの一人だ。そこから何とか拓郎の治療を受けて、ジェシカの指導の下レベル2まで盛り返してきている。発言を許可するとクレアが告げたので、彼は立ち上がって口を開いた。


「先生にお尋ねします、先生の予想では最終的にどれぐらいみんなのレベルが上がると予想なさっているのでしょうか? 特に俺を含む3人は親のせいでレベルダウンを受けてしまっており、今のクラスの中では俺達が唯一のレベル2です。そんな俺達でも、レベル3まで行けるのでしょうか?」


 この発言に、クレアは「そうねー、大体だけど」と前振りを入れた後に返答を口にした。


「最低でもレベル4かな? レベル6に届きそうな子も数人いるわね。ただし、このレベルはこれから話す夏合宿に参加してくれたら、のお話だけどね」


 夏合宿。この言葉にはさすがのクラスメイト達もざわめいた。今年がレベル上げができる最後のチャンス、そのチャンスに夏合宿と来れば、やる気に満ちているクラスメイト達が盛り上がらない訳がない。


「夏合宿は、8月の1日から30日までを予定しているわ。合宿中は別の魔女を数人引っ張ってきて指導に当たってもらう予定よ。ジャック先生やメリー先生は学校に残さないといけないからね。なお、引っ張ってくる予定の魔女は美人さんよ。これだけでやる気が上がるでしょう?」


 男子生徒達は皆頷いていた。拓郎は除くが……女子生徒も美人と聞いて、どういう美人が来るのはというところは興味津々である。


「た、だ、し! 条件があるわ。親の許可を出してもらうのはもちろんだけど、夏休みの宿題を7月中に終わらせてもらう必要があるわ。訓練する場所に行ったら、宿題をやる時間なんてないからね? なお、宿題は7月の最終日に提出してもらいます。終わってない人は合宿に連れて行ってあげる事はできません」


 クレアが出してきた条件に、だれもがええっ!? となった、学園の夏休み中の宿題は極端に量が多いわけではないがそれなりに難しい。それを7月中に全て終わらせなければならないとなると、結構大変なスケジュールとなる。


「もちろん合宿への参加は強制しないわ。ただ、普段とは違う魔法の訓練ができる大チャンスだから、レベルアップにも魔法に対する熟練を磨く意味でも参加して損はないと言っておくわね。それに、ガッチガチの訓練じゃなくって遊びながら自然と魔法を磨くって方向になるから、青春を謳歌する事にもなるわ」


 このクレアの言葉を聞いて、クラスメイトからはおおおおお、というような声が無数に上がった。興味深い話を聞けば、ぜひ参加したいという意識が高まるのは無理もないだろう。更に新しい美人な魔女先生が来るとなれば、それはもう楽しみで仕方がなくなる。


「すでにそういうスケジュールがあるから、ゴールデンウィークはしっかり休んでほしいのよ。これなら、親御さんを納得させることも難しくないでしょう?」


 夏休みに合宿でレベルアップを図る予定がすでにあるとなれば、ごく一部の例外を除いて親は子供のゴールデンウィーク中の科学魔法の訓練を休むという言葉に理解を示すだろう。このクラスに限っての話ではあるが、そのごく一部の話を聞かなかったレベルゼロ事件の被害者である3人の生徒の親も、クレアからの通達と知れば反対はできない。


「今年の夏は暑く燃えるわよ? だからしっかりと準備をしてね?」


 クレアの言葉にクラスメイト達は大きい声で返事を返す。よろしいと笑みを浮かべたクレアは、ジェシカと共に教室を出ようとした──が、突如教室の入り口が大きく開け放たれた!


「クレア先生! 合宿を行うって本当ですか!? それに私達は参加できるんですか!?」


 一番最初に入ってきた隣のクラスの女子生徒が、若干血走った目で開口一番そう言い放ったのだ。無理もない、魔女が直接指導する夏合宿なんてものは金をいくら積んでもなかなか叶うものではない。そんな話を外で聞いてしまった以上、彼女だけでなく周囲にいた生徒達が教室への乱入をしてしまうのも無理はない話であった。


「うーん、予定としてはたっくんのクラスメイトだけ、の予定だったのよね。でも、それじゃほかの子たちは納得しないでしょうし……ジャック先生やメリー先生は夏休みでも相談に乗ってくれるけど、それじゃ足りないんでしょ?」


 教室に乱入してきた生徒達は頷いた。私も、俺も参加したいという思いは非常に強く、説得は受け付けないという意思を顔にこれでもかというほどに出していた。


「なので、チャンスをあげましょう。定員は30人、1学期の期末テストの総合展上位30名に合宿参加資格を与えましょう。ただし、全学年で30位以内です。3年生限定ではありません! この条件でもいいのであれば、参加できる椅子を用意しましょう」


 この情報はその後数分で全校生徒と教師に伝わることになった。魔女が直接指導の合宿、参加の切符は30枚。これを奪い合う壮絶なテストに向けての猛勉強がこの日の夜から始まる事となったのである。


「絶対勝ちとってやる!」「譲らないわよ! こんな機会一生に一回あるかどうかなんだから!」「俺はやるぜ、俺はやるぜ!」


 そんな会話を交わしながら、生徒達は教室から出ていった。そして担任がクレアに問いかける。


「どんな訓練をするのか、非常に興味がありますね。見学だけでもさせていただきたいのですが?」


 そんな担任に、クレアはこう返した


「教師の皆様の枠は5つ、競い合っていただきますよ」


 こうして、教師陣でも魔女の夏合宿の枠を取り合う戦いが生徒の見たいない所で始まってしまうのであった……教師陣もレベルこそ上がらないが扱いは間違いなく向上する訓練に夢中になっていて、この5枠をめぐる争いは熾烈を極める事となる。

4月の気温じゃない~

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