表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/125

102話

 拓郎が通っている学園から帰ってきた生徒が持ち込んだ情報はあっという間に拡散された。が、拡散されたとは言ってもそれは表面的な部分のみであって、肝心な訓練方法までは広まらなかった。当たり前だ、厳しい抽選を勝ち抜いて、さらに自分の体で知った情報を簡単に他の学校へと漏らすわけがない。自分の学校のみで広め、教わる生徒や教師側も当然自分の学校のみの話に留める。


 一歩でも他を出し抜くために。そして自分達が更なる良い未来を迎えるためにはどういった訓練が血となり肉となるのか、希少な情報は時として金より重い。そんな情報を無料でバラ撒くのは愚かの極み。流石に同じ学校内では共有しなければならないが、それ以上の広める理由はどこにもありはしない。


 たった一週間と言えど、必死になって様々な事を学んできた生徒が筆記してきたノートはすぐに清書の後にコピーされて保存される。その記録を基に、今後の科学魔法の訓練方法に変更が加えられてゆく。それと同時に、帰ってきた生徒が質問攻めにあうのもまた必然だった。


「そんなに凄かったのか」「すごいという言葉で表現していいのかわからねえ……レベル3の魔法がレベル1の防御魔法にあっさり防がれた時の衝撃は半端じゃなかったぞ。自分の常識が根幹から砕け散ったんだからな」


 訓練方法の話に始まり、今までの常識がすべて砕け散ったことを特に熱心に話す帰ってきた生徒。その話に当然他の生徒も興味を大いに惹かれる。


「本当にレベル1の魔法だったのか?」「流石にそこを見間違えるほどトロくねえよ……偽装もなかったし、そもそも展開する所はゆっくりと見せてくれたからな。間違ってねえ」


 今までは同じレベルかそれ以上の防御魔法を使わなければ魔法は防げないと教わってきた。なのにその常識をあっさりと否定されたのだから、生徒達が話を疑うのも無理はない。だが、帰ってきた生徒は間違いなくレベル1の防御魔法でレベル3の魔法が防がれたことを繰り返す。


「嘘だとは思わねえけどよ、信じられねえってのも本音なんだよな」「気持ちは分かる。俺だって直接見ていなかったら同じ感想を持つだろうしな……だが事実だ。今日の訓練の時間で、その片鱗って奴を見せてやれると思う」


 こんなやり取りを聞けば、当然気になるのが人の性だろう。そして、その日の訓練時間を迎える。


『あー、今日は少し訓練の内容を変える。まずは少し見学をしてもらい、彼が例の学園で学んだ事を実際に見せてもらう。まずはしっかりとみる事に集中してもらいたい』


 拡声器越しにそんな声が響き渡り、生徒達の前でいくつかの魔法の行使が行われた。今までとは違い、魔力を練り上げた上での魔法発動が公開されることとなった。同レベルでも雑に放たれた魔法と多少なりでも寝られた魔力を用いて放たれた魔法の差は歴然。威力の方もだが、特に驚きの声が上がったのは防御魔法の方だった。


「うわ、レベル1の魔法でレベル2を防いだぞ!?」「言ってたことはマジだったのか」「一週間でここまで変わるのか、今までの訓練は何だったんだって話だ」「どうやれば、あんな魔法が使えるようになるんだ? 明らかに威力も性能も高まっている」


 百聞は一見に如かず。実際に学んできた魔法を見せられれば、疑いの視線はあっという間に消え失せた。それぐらいわかりやすいインパクトがあったという事である。


「と、これがあの学園で学んだ魔法です。正直、これでもあの学園が学んでいる魔法のごく一部だと思いますが……それでも、今までの魔法とは違う事は分かってもらえると思います」


 帰ってきた生徒の言葉に反論など起きようはずもない。生徒だけでなく教師側も常識を破壊されている真っ最中なのだから。しかし、そこに追い打ちが入る。


「さらに、俺には実演することなど絶対に不可能なのですが──収めてきたある映像があります。すみません、先生。例のUSBに入っている映像を流してもらえませんか?」


 この生徒の言葉に教師の一人がうなずき、USB内に入っていた映像が流されると、生徒達は大騒ぎを始めた。


「なにこれ!? 殺し合い!?」「どれだけの人数で一人を囲んでるんだよ! 嬲り殺しにでもするのかよ!?」「ちょっと、これ、本当にあった事なの!?」


 こんな声が飛び交うのも無理はない。何せ拓郎一人に何十人も同時に魔法を放っている光景なのだから。何も知れない人が見れば、一人を大勢が魔法で嬲り殺しにするようにしか見えないのは当然だろう。しかし、映像が流れ続けると飛び交う言葉の内容はすぐに変わっていった。


「うっそだろ、一人がこんな大勢を相手に対処している!?」「対処どころか、取り囲んでいる側の方が苦戦していない?」「よく見ればわかる、中央にいるやつは一発も被弾していないぞ。防御魔法って、あそこまで滑らかに攻撃魔法を受け流せるのかよ」「う、美しい……美しいとかいいようがないぞ、あの防御魔法は!」


 拓郎が次々と飛んでくる魔法を全て受け流し、反撃の魔法を飛ばす姿を見て感動する、驚愕する、そして美しさを見出すものなど感想は様々。共通点は、こんな光景を生み出している中央にいる生徒、拓郎を半分幻のように感じている事か。映像が終わった後、帰ってきた生徒が口を開く。


「実は、最終日に彼に我々も少しだけ相手をしてもらいました。結果は言うまでもありませんが……あえて言います。手も足も出ませんでした。こちらの魔法はすべて受け流されて一発も届かず、相手の魔法は最大限に手加減されていたのにこちらの全力を出した魔法障壁をあっさりと突き破って来ました。こんな訓練を、あの学園は普通にしています」


 今度は一転して静まり返る生徒達、いや教師側も絶句していた。こんな一歩間違えればあっさり人が死ぬような訓練を、普通の訓練としてやっているだと!? という驚愕に口があんぐりと開いてしまっていた。


「もちろん問題が起きないように魔人や魔女の皆さんはしっかりと見守っていましたが……中央で魔法を受けている生徒は、レベル8だそうです。とてつもない天才か、努力家なのでしょう。それに加えて魔人、魔女からの指導を受けて実力を伸ばした。だからこそこんな訓練を可能としたのだと思われます」


 レベル8。まさに別次元の人間の訓練という物はこういうものなのかと誰もが思った。こんな一歩間違えば命など一瞬で書き消えかねない荒行をしなければ届かぬ世界なのかと。その事実に圧倒されてしまったが──それでも、映像から得るものは多くあった。防御魔法の使い方や攻撃魔法の飛ばし方など、映像を見ているだけでこういう事が可能なのだという事を知る。


 見る事もまた経験。彼らは無意識のうちに拓郎の魔法を見る事で己の魔法の可能性を広げていた。そして、これなら真似できそうだ、これならば俺にでも再現できそうだという感情が確実に心の中に芽生えてくる。そういった気づきと可能性を感じて挑戦する意識こそが、人を成長させるのだ。


「まあ、流石に彼の様には成れないかもしれませんが──真似できそうなところ、訓練方法などはできる限り覚えてきました。今後はその訓練方法を伝えていきますので、我々のレベルを共に上げていきましょう!」


 帰ってきた生徒がそう締めると、生徒の誰もがうなずいた。必ずもっと上を目指して見せるという熱意が誰の胸にも宿っていた。何せ、一週間いなかっただけの同じ学校の生徒の魔法の腕が明確に上がっていた。それは俺達、私達でもあれだけの魔法を身に着けられる可能性があるという事。魔法が重視される今の世界では、習得するために努力を払うという選択肢しかありえない。


 これはもちろん、他の生徒が帰った学校でも同じ事が起きた。驚きからの奮起。こうして日本の科学魔法の実力が全体的に上がっていく土壌が生まれ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ