101話
それから一週間が過ぎ、現在拓郎の学園に来ている他校の生徒の交換が明日行われると拓郎達はこの日の早朝ホームルームにて知らされた。どうやら他校の生徒は一週間のサイクルで交代していく様であるという事をここで拓郎達は知った。
「で、拓郎。すまないんだが彼らの相手を本日の訓練中にしてやってくれないか? 手間をかけてしまうが……」
そして担任から、申し訳なさそうにそんな話を振られた。拓郎は少々考えた後に口を開く。
「クレア先生、ジェシカ先生の許可は出ているんですか? 相手をするにしても最低限の基本ができていないと怪我をするだけで得るものは何もないですよ?」
この最低ラインをクリアしていないと、とてもじゃないが許可は出せない。魔法の打ち合いをするわけだし、どんなに手加減しても基礎的な防御魔法が出来ている、とクレアとジェシカが認めていない相手に魔法を放つのは恐ろしい。今の拓郎の実力で放つ魔法は、手加減を目いっぱいしても、普通の人相手なら怪我どころか殺してしまいかねない威力があるからだ。
「もちろんそこは例外なしだ。相手をしてほしいのはクレア先生とジェシカ先生が認めた8人だけだ、全員じゃない。そして5分間、彼らだけを相手にやってもらいたいんだ」
クレアとジェシカが認めているのならば、拓郎的には問題ない。更に彼らだけを相手にするのなら最大限の手加減と調整ができる。
「そういった条件が整っているのであれば問題ないです。彼らの相手をさせてもらいます」「そうか、すまないな。今後もこういった機会は増えてしまうだろうが、どうにかできる範囲での協力を頼みたい。今の我々ではとてもできない方法なんでな……実際にクレア先生、ジェシカ先生監修のもとで教師陣同士で同じことをやってみたのだが……出来るようになるにはかなりの時間がかかりそうでな」
拓郎の言葉の後に続いた担任の言葉に、クラスメイトがざわめいた。拓郎がやっているあれを、教師が取り組み始めた?
「先生、すみませんが質問です。先生が先ほど口にした方法って、拓郎がやっている四方八方からの魔法攻撃を無力化しながら反撃するってやつですよね? あれって、拓郎以外でもできるんですか!?」
この質問に、担任はゆっくりとうなずいた。
「不可能ではないぞ。ただ、凄まじく難しい。片手でラーメンを食いながらもう片手でプログラムを打ち込み、さらに足でボールを操り、更に目で間違い探しをするようなものだった。とにかくただ守るだけ、攻めるだけならばこんな事にはならないんだが、拓郎の様に適切に魔法を無力化しながら相手の力量に合わせた適切な魔法の反撃となるからな、最初挑戦したときは1分持たずに頭が痛くなったぞ」
担任の言葉を聞いて顔をしかめるクラスメイト達。想像しただけで軽く発狂しそうになる者もいた。
「正直、自分でやってみて拓郎の訓練のすさまじさを再確認したな。だが同時に、これが出来れば確かに強くなるというのも実感した。あれだけ細やかに魔法が使えれば無駄が省かれ威力も磨かれ守りも難くなる。レベル10を目指すのであれば、こういった荒行は必要になるんだと理解した。正直、俺がもっと若いときにこれを知っていれば、とつくづく思ったさ」
しんみりとした雰囲気で話す担任に、クラスメイト達はあたらめて今の環境を理解させられることになった。そして時間は過ぎ、本日の科学魔法訓練時間がやってくる。
「では拓郎、朝伝えた通りに頼む」「了解です」
拓郎は話しかけてきた担任に短く了承の意を伝えた後に、いつもの場所へと向かう。その直後、他校の生徒8名がすぐに配置についた。
「話は行っていますか?」「ええ、大丈夫です。5分間、貴方達の訓練の相手をしてほしいとの話は伝わっています」「ありがとうございます、では早速始めさせてもらいます。こちらの先生曰く、殺すつもりで魔法を放てと言われていますが──本当にいいんですか?」「はい、お願いします」
他校生徒からの問いかけに拓郎が返答を返すと──一気に他校生徒から殺気が拓郎へと飛ばされる。直後、光や雷と言った速度が速い傾向にある科学魔法が拓郎へと押し寄せた。が。すでにこの手の科学魔法の速さに対する対応は拓郎にとって日常茶飯事。更には早いだけで彼らの魔法の練り込みはまだまだまだ甘い。そんな魔法では、拓郎の魔法障壁を抜くことなど不可能である。
飛んできた魔法を全て優しく受け止める形で無力化した後、拓郎は最大限手加減した同じ属性の魔法で反撃を行った。それらの魔法は彼らの網膜を軽く焼き、ちょっと強めの静電気ぐらいの痛みをもたらした。
「まぶしい!? そしていたーい!?」「防御魔法の展開が遅かった!? もろに受けたか!」「とにかく反撃しろ! 相手はあの場所から動かないんだ、防御魔法を整えつつ反撃だ!」
あれこれと声が飛び、そして再び拓郎に向かって放たれる魔法。しかし目がやられたことによってコントロールが甘くなったのか、拓郎に直撃する魔法は4割前後しかなかった。それらを拓郎は適切に受け流した後に今度は火と水で反撃を行った。流石に今回は無防備で魔法を受けた者はいなかったが。
「障壁が、一瞬で破られた!」「避けろ避けろ!?」「避けながら障壁を再展開しなさい! そうしないと消せないわよ!」「くそ、ホーミングしてきやがる!」
阿鼻叫喚しているという事に変わりはなかった。その後に被弾して熱いだの冷たいだのの悲鳴が上がる。そんな彼らを見ている学園の生徒達は自分達もあんな思いをしたなあという過去の自分のを思い出してほほえましく見守っている。そして彼らにとって長い長い5分の訓練時間は終了した。
「時間です、お疲れさまでした。後はゆっくり休んでください」
拓郎の言葉を聞いて、他校の生徒達はまるでゾンビの様にのろのろとその場を後にする。やや離れた場所まで移動してベンチに腰を下ろし、水分補給をして少し落ち着いた後に感情が爆発した。
「なんなのあれは! こっちの魔法は全部奇麗にぱっと消されて向こうの魔法は滅茶苦茶重いの! 必死で展開した障壁がティッシュの様だったわよ!」
そんな女性生徒の声に続くかのように様々な言葉が飛び交う。共通しているのは、あの理不尽極まりない存在は本当に同年代の人間なのか? という疑問だろう。
「見ていて思ったが、滅茶苦茶だったぞ……参加した面子の魔法は間違いなく俺達の中でトップクラスの威力と精度を持っていたことは間違いない。だってのに、向こうの障壁はあんなぺらっぺらな見た目をしているのにも関わらずクソ硬くて、逆にこちら側の障壁は分厚いのにもかかわらず軽々と破られてたからな……見ているだけで心を折られかかったぞ」
と、見学していた他校の生徒の一人である男子がそう口にした。この言葉は見学していた人間の総意であり、本音だった。そんな彼らをよそに、拓郎を中心として取り囲んで魔法の打ち合いを始める学園の生徒達。その姿を見て、他校の生徒達はため息をつく。
「ものすごい差があるって事を、痛感させられるよなぁ」「俺達が防げない魔法をあいつら防いでるからな」「体験した後にこうやって改めてあの光景を眺めると、いかに狂ってるかが分かるな。周囲もそうだが、中央の拓郎? という奴はトップクラスに狂っているようにしか見えねえ」
だが、なんだかんだ言いつつ彼らは真剣にその光景を目に収めている。見る事もまた訓練、少しでも見る事で感じ、そして糧にできる部分を必死で探しているのだ。今日まで学んだ事と組み合わせて、何か一つでも多く成果を持ち帰りたいから。こうして、初めての他校の生徒を受け入れての魔法訓練は終わった。
体調は何度か持ち直してきました。
去年は3月の頭に体調を崩し、今年は3月末……来年の3月を迎えるのが怖いです。




