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その10

 それから一週間後。いつものようにクレアの授業でしごかれた拓郎&クラスメイト。それでも授業終了時にクレアによって回復させてもらっている為、動けない状態になっている生徒はいない。科学魔法を使いまくった影響で男女問わず空腹になったため、誰もがお昼を口に運ぶ事に夢中になった。ある程度誰もがお昼を腹に運んで落ち着きが見えたタイミングで、拓郎の所に八雲 珠美がやってきた。


「ねえタク君。ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」「よっぽどの事じゃないなら答えるが……タマが質問してくるなんて珍しいな」


 普段、珠美はこういう質問をするという行動をとらない。だからこそ拓郎をはじめとしてクラスメイト達もタマの方を振り向いていた。それを知ってか知らずか、珠美は拓郎に質問を投げかける。


「さっきの授業を見てて思ったんだけどさ、本気で科学魔法のレベルを上げる組の中でもクレア先生は拓郎にすごく厳しい課題を出したり攻撃をあてたりしてるよね? もちろんそれは拓郎が望んでるって事は分かってるんだけど……どれぐらいレベルを上げるつもりなの? すでに5まで上がってるって話だよね? 拓郎は将来警察の中でも魔法が優秀な人たちが集まる特殊部隊に参加するつもりなの?」


 珠美の質問は、もっともな話だろう。クレアは確かに魔法のレベルを上げたいと希望してきた生徒には、学校内でやるレベルなどをはるかに超える内容を生徒達に行っている。だが、拓郎に対する内容はそれの数段上の厳しさであり、明らかに更なる上を目指すものに対する指導であり、訓練内容なのである。


 一般人から見れば、科学魔法のレベル3は十分に強いとされる話であり、拓郎はそのさらに上の5まで行っている以上、珠美からしてみれば何故そこまでやるのかというのが当然の疑問となるのも無理のない話である。


「タマには言った事なかったっけか? 俺は治療系の科学魔法を習得したいんだって話」


 この拓郎の一言で、珠美はなぜレベル5にまで達した拓郎がランクをさらに上げようとしているのかを理解した。治療系の科学魔法の話は使えなくても学校で教わる内容の一つであり、実戦的な治療系科学魔法ははンク5からという情報は頭に入っているからだ。


「ああ、そっかぁ。治療系の科学魔法を使いたいなら5は最低ラインだもんねぇ……さらに上げようとしているのは、複数人同時回復も欲しいからなのね?」「正解、まさにその通りだよ」


 治療系魔法は、ランク6以降から集団治癒が可能となっていく。そしてランク8まで行くと、集団玉突き事故などで複数人がほぼ死んでいる状態であっても、一人で健康な状態まで回復させてしまう事が可能となる。そしてランク10ともなれば……24時間以内、かつ寿命ではなく、体の8割以上が残っているという条件は付くが蘇生させることすら可能とさせる。


 事実、暗殺されてしまった国の重要人物を蘇生したという事実は何回もある。回復系の科学魔法に長けた人物、特に魔人や魔女はそれだけで貴重であり、国が全力を挙げて保護に回る。回復魔法を得意とする人物は、皆極端な破壊衝動や暴力を行わない傾向が強いというのも保護するに値する理由を後押ししている。


「最低でも6、欲を言えば7まで行きたい。7まで行けばかなりの治癒系の科学魔法が使える。そうすれば、いざという時に大勢の命を救える」


 拓郎が自分の明確な目標を口にする。するとあちこちで「7まで行きたいなら、あの訓練内容は納得だわ」「クレア先生もそりゃ厳しくやらなきゃダメって事になるわね」「18歳ってタイムリミットがあるもんな」などと口にする。


「タクにはかなわんが、俺も3、か4まで入ってみたいって欲が出てきた。クレア先生に出会わなきゃ、そんな事は思わなかっただろーけどな」


 ここで、雄一が自分の考えを口にする。すると、クラスメイトも次々と「確かに、3までは行けるって感じがするよな」「きついけどさ、3まで行ければ一般的にはすごい事じゃん? 今後を考えればここで頑張るのはすげー意味があるよな」「雄一君じゃないけど、クレア先生が来なかったら絶対無理だったけどね」と自分の意見を口に出した。


「確かにみんなの言う通り、クレア先生の指導が無かったらここまでやる気になんなかったよね。以前の先生を馬鹿にするわけじゃないけどさ、お腹があんなに空いて大変なのにレベルが全然上がらない方やる気でないってのが私の正直な意見だったし」


 珠美の言葉に、クラスメイト達は皆頷いた。前の先生のやり方が悪いわけではないのだが……クレアの様に割り切った極端な厳しい訓練をやらせるだけの知識と経験が無かった。それ故に時間をかけても成長が上手く行かない状態を生徒達にもたらしてしまっていた。


「ただ最近、他のクラスからの反発が強くなってきてるぜ? 俺達もクレア先生の訓練を受けたいって嘆願がますます大きくなってるって話だ。気持ちはわかるけどよ……」


 雄一の言葉通り、他のクラスからは明らかに不公平だという声がこの1週間でかなり大きくなっていた。何せこの拓郎のいるクラスだけ、急激に科学魔法のレベルが上昇したのだ。科学魔法のレベルが上がれば就職において有利というだけでなく、仕事の種類まで増やせる以上、上げられるなら上げたいという考えの生徒は多い。


 だが、科学魔法のレベルは才能にも左右されるからなかなか上がらないのも仕方がない──という考えが、クレアが教師として潜り込んできてから一変したのだ。事実、教師からもクレアに何とか他の連中の事も見てやってくれませんか? と打診している。


 しかし、肝心のクレアとたまに補助として加わるジェシカ両名共に関心があるのは拓郎のみ。なので当然両名共にノーという返事を返すのみ。拓郎を孤立させない為&ついでと言う事で、拓郎のクラスメイトを見ているだけなのだから……他のクラスの面倒まで見る理由が無いのだ。


 しかし、話は保護者の方にまで広がってきていた。拓郎のクラスメイトの保護者と、それ以外の同じ学校の保護者の間でも話の内容は大半が科学魔法のレベルについてだった。レベル0だった自分の子供が1か月でレベル2まで急成長したという喜びと、急激に科学魔法のレベルが上がったクラスがあるが、そこを教えている先生が他は見てくれないという話。


 保護者の中には、校長に直接直談判した者もいた。だが、校長も「彼女は国の上の方からあれこれ言われて動いているらしく、こちらが出来るのはお願いのみしかない」としか言いようがなかった。校長もなぜあれほどの人物があの一クラスのみ面倒を見ているのかの理由がさっぱりわかなかったから、そう言うしかないのである。


 では国は──彼女達の授業内容を必死で観察していた。内容は厳しいが明確な結果が出ている以上、今後の教育に取り入れたいと考えるのは当然の事だろう。それに彼女の正体も知っている以上、変な事を口にして蛇を出すような真似など出来るはずもない。彼女達がもし本気を出せば……日本を吹き飛ばす事など容易いのだから。


「鈴木拓郎に関しては、観察するに留めよ。あの2人の魔女を刺激してはならない。また、特例で重婚を認めてもいい。あの魔女を大人しくさせておけるのであれば、ある程度の特権を与えるのもやむなし」


 これが、総理大臣が他の大臣達に対して内密に出した結論である。他の大臣達も同意した、あの指名手配されているとはいえ、どうしようもない力を持っている魔女がこうも大人しくしていてくれるのであれば、それだけで鈴木拓郎という人間には価値がある。更に調べた所、治療系統の科学魔法を積極的に学んでいると言う事も、大臣達が総理大臣の言葉に同意した理由となる。


 治療系統の科学魔法の使い手はいくらいてもいい。そしてその使い手が、大国すら持て余す魔女二人を穏やかな形で押さえていてくれる。言い方は悪いが、これは国同士の話し合いにおいてカードとなる。下手にこちらを刺激するような真似をすれば、あの魔女二人がお前たちの国に牙をむいても知らないぞ、と脅せるわけである。


 ──そんな周囲の状況の変化をすべて知る事など、拓郎個人にできるわけがない。彼に出来るのは勉学と科学魔法の訓練。そしてクレアとジェシカという二人の魔女と何とかうまくやっていくように努力する事だけだ。もっとも、その魔女二人と何とかやっていけているという時点で、世界にとっては貴重な人物なのだが。


「ねえたっくん。このペースだと18歳までにランク7は厳しいかもしれない」「了解、じゃあもっと厳しくしてくれて構わない」「即決しますね……聞いてみたいのですが、なぜそこまで治療魔法にこだわるのでしょうか? ランク6でも十分な治療は出来ますよ?」


 その日の夜、食後のクレアからの話に拓郎は即決で訓練内容のレベルを引き上げて欲しいと頼み、そんな拓郎を見たジェシカがそんな質問を拓郎に投げかけた。


「あー……そう言えばクレアやジェシカさんには言ってなかったっけ……ある程度昔の話になるんですけどね……俺が7歳の時の話です」


 拓郎は己の過去を明かした。それは拓郎が7歳の時──ある事故が起きた。公共バスに乗って移動している最中……暴走した自動車が、赤信号で停止していたバスの後ろに突っ込んだのだ。その勢いで、バスは強制的に前に進んでしまい──間が悪い事に、そのタイミングで他のバスに側面からぶつけられてしまい、拓郎が乗っていたバスが横転。


 一瞬で平和なバスの車内は悲鳴がこだまする世界へと変わった。特に、座席から投げ出されてしまった数人は頭部などに大きなダメージを受けてしまい……大半が助からなかった。特に、その犠牲者の中に拓郎とほぼ変わらない年頃の女の子も含まれていた。その現場の記憶は、幼い拓郎の脳みそにこれ以上ないほど深く突き刺さるような感じで焼き付いている


「あの時、小さかった自分は何もできなかった。それは仕方がない。でも、これから先同じような事があった時に同じように何もできなかった、仕方ないとは言いたくなかったんだ。だから、治療系の科学魔法を学びたかった。学んで、身に付ければそう言う状況に陥った時でも、応急手当が出来る。道具が無くても使えるというのは治療魔法の最高の強みだから」


 拓郎の言う通り、手に何らかの道具が無い時でも使える治療魔法は使い手が1人でも現場にいれば、全体の生還者の数を確実に増やすというのが一般的な感覚である。その使い手の一人になって、いざという時に命を救いたい。それが拓郎の治療魔法にかける原動力であったのだ。


「そう言う事でしたか……ならば、今まで以上に協力させて貰いますね」「頼むよ、ジェシカさん。あの時と同じ無力感をもう二度と味わいたくないんだ」


 ジェシカの言葉に、拓郎は頷きながらそう返した。翌日から、拓郎の訓練がより厳しくなったのは言うまでもないが、拓郎はそれに必死で食らいついていく。その拓郎の姿を見て、他のクラスメイトも奮起するという好循環が生まれる。そして、クラスメイトの中から、ぽつりぽつりとレベル3が生まれ始めていた──

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