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その1

新装開店もどきです。

「高度に発展した科学は魔法に限りなく近い」


 なんて事を過去に誰かが言ったらしい。 だが、しかしだ。その過去にその言葉を言った人もまさか文字通りの意味で発展した科学が魔法になるとは予想していなかっただろう。 時は西暦2994年。進んだ科学は変な方向にドカンと突き抜けた……特に日本の科学者が……。



 魔法使いのウェハース



 とある科学者団体が発表をした見た目はただのウェハース(味はバニラ)、だがこれを食べると、体の遺伝子情報の一部が書き換わり、火を出せるようになったり、水を出せるようになったり、風を操れるようになったり、土を動かせるようになる。 当然発表当時は失笑物だった、だってそうだろう? 『コレを食べれば貴方も魔法使いの仲間入りです!』なんて製作した科学者の団体代表の女性化学者が発表をしたのだから。


「30歳までアレですかw」


「科学者ってほら、孤独な人も独特な人も多いから」


 などなど、偏見も多分に含まれてはいたがとにかくみんなが失笑した。信じるわけが無い。 しかしまた、いつの時代にもチャレンジャーというものはいる物で……。


「コレを食えば本当に火が出せるようになるのか?」


「はい! 個人差はありますが最低でもライターの火ぐらい、運がよければ炎の渦だって出せちゃいます!」


 というやり取りがあったらしく、研究機関と全く関係ない人数名がその魔法使いウェハースを食ったらしい。 食ったらしいというのは当時俺は生まれてない。歴史の本に載っていること、そして今見ているムーンディスクと呼ばれる記録媒体から流れている映像から見た情報をそのまんま引用しただけ。


「味は悪くないな」 「お菓子だねえ」 「こんなんで魔法が使えるのかよ?」


 などと映像に映し出されている人達は話し合いつつ、小さい一枚のウェハースを各自がしっかりと食べきってから5分後。


「そろそろいいですよ~!」


 どこか間延びしている研究者代表の女性がそう宣言し、一番最初にウェハースを口にした男性が立ち上がる。


「じゃあ俺から行くか。 これ、何も出なかったらお笑いだよなあ?」


 などと周りの人に言うと、周りの人たちも苦笑を浮かべる。


「それじゃ、『ファイアーボール!』だっ……どがあ!?」


 男の『宣言』が行なわれた直後に、まさしく炎の塊が右手の手のひらの上に発生していたのだ。


「後はそれをこっちの的に向かって、『いっけえ~♪』と念じれば飛んで行きますよ~!」


 と研究者代表の女性が炎の塊を出した男に説明している。 男はその説明を受けて何とかイメージを成功させると、手のひらに出ていた炎の塊、ファイアーボールは的に飛んで行き、爆発を起こした……。



 ────────────────────────


「コレが今では常識となっている技術の始まり、『科学魔法』の初期の姿だ、テストに出るから今のムーンディスクの映像をしっかりとノートに纏めておけよー? 当然手持ちのノーパソにデータを置いておくのもいいが、万が一データが吹っ飛んだときのために個別にバックアップをとっておけよ~? 今日の授業はここまでだ!」


 そして現代西暦3255年。ようやく高校での本日最後となる授業カリキュラムが終わった。


「タク、今日はどうするんだ?」


 タク、とは俺の愛称で本名は鈴木 拓朗という俺のあだ名である。


「今日はまっすぐ帰らないとならないからなぁ」


 この返答に友人のユウこと、向島 雄一はがっかりするような声を上げる。


「なんだよ、お前はまじめちゃんにでも目覚めちゃったのかよ?」


 不真面目になった記憶は無い。もちろん極端なまじめでもないが。


「違う、ちょっと客が家に来てるんだよ。だから帰らないとならないんだっての」


 そう、今日は家に……正確には昨日の深夜から客が来ている。 ただし頭に『国際指名手配犯』と付くがな!


「そういうわけか……ちなみに女?」


「そういう勘は相変わらずいいな」


 そう、女というか女性。髪型は長い金髪をポニーテールに纏めていて、年齢は23~26の範囲(正確な歳は教えてくれない)。 プロポーションも良く、笑顔が可愛い上にちょっとエッチな性格までしているというある意味パーフェクトな……『魔女』だ。


「それはいいなー、ちょっと会ってみたいぞ」


 ユウはそういって期待のまなざしをこちらに向けてくるが……無理に決まってんだろ……国際指名手配犯がわが家に滞在していますよーなんて言える訳が無い。


「無理だ。お前は顔がいいんだからナンパでもしてろ……というより、また振られたのか?」


 ユウは俗に言うイケメンという奴で、非常にモテる……んだが天は二物を与えなかったようで、デリカシーがあんまりにも無い。 イケメン補正でもダメってあたりで察してくれると非常に嬉しい。


「ちょろっと下ネタ言っただけだってのによ~」


 こいつの"ちょろっと"は常人の"山ほど"に相当する。 何を言ったのだか知りたくも無いのでスルーする。


「そんな訳で悪いがさっさと今日は帰らせてもらう、またな」


「おう、またな」


 昔の学校にはホームルームという物が最後にあったようだが、今の時代にはとっくに無くなっている。 学校から配布のノーパソに連絡事項が飛んでくるようになっているためだ。当然配布品ゆえ性能は非常に悪いけれど。


「とにかくさっさと戻らんと」


 押しかけてきたあの指名手配犯バカが馬鹿なことをしていないことを祈りつつ家路を急ぐ。 国際指名手配犯と言ってはいるが、殺人を犯したとかそういうことではない。指名手配される理由は彼女が『魔女』であると言うことに尽きる。


 『魔人』『魔女』とは、先ほど説明してきた"魔法使いウェハース"の影響で生まれるようになってしまったごく一部の"選ばれてしまった存在"である。


 普通は科学魔法を覚えて使えるようになるためには魔法使いウェハースを食べなければならない。だが両親が魔法使いウェハースを食べた上で、ウェハースの影響で遺伝子情報があまりにも変換してしまっているというレアな状況になっていると……非常に低い確率らしいのだが、いきなり高レベルの魔法を使える上に、魔法使いウェハースに存在しない科学魔法を使いこなす子供が生まれてくることがある。それが通称『魔人』『魔女』なのである。


 最初は恐怖の対象となり、神の名を借りた『魔人』『魔女』虐殺まで発生した。『魔人』や『魔女』はそう生まれたくて生まれてきたわけではないと言うのに……。


 各地で起きるその問題のために、ウェハースを口に出来るのは日本では15歳を迎えてから、数多くの魔法使いウェハースを食べないようにすること、ウェハースを1から10にランク分けして、個人の適正を調べてから適切なウェハースを少量だけ食べるようにする事などを各国が総出で取り決めた。


 このときついでに、と言う形でウェハースを食べることにより起こり得る暴行や犯罪対策のために、特定の場所でのみ科学魔法を使えるように色々と対策がみっちりととられた。今では未成年は特に科学魔法を使用できる場所を厳しく制限されている。


 また、適性を調べる際に、当然ながらテロを行なう意思を持つ者や極端な他者に対する悪意を持っている可能性がある人はウェハースを食べさせてはもらえなかった。どうも嘘発見器みたいな装置でわかる様になったんだとか。


 そういった各種取り決めなどを制定して極端なウェハースの乱用が抑えられると、『魔人』や『魔女』の生まれる確立はぐっと抑えられて行った……のだが、0%にはどうしても出来ないという事も分かってしまった。


 とはいえ、ウェハースを食べないと言う選択肢はすでにありえないと言い切れるレベルにまで、世界の流れは来てしまっていた。


 警察などの治安維持行動は当然だが、農業にしろ産業にしろある程度魔法を使うことで作業工程を早めることが可能なシステムが既に組みあがっていたために、魔法が使えないと就職が出来ないといっても過言でない状況になってしまっていた。


 その為に、誕生した直後の検査で『魔人』や『魔女』の疑いがある乳児は国家が預かりその大きすぎる力を一般的なレベルにまで抑えることになった。


 新生児のころから力を抑えれば2歳~3歳になるぐらいには家族の下に戻すことが出来るところまで技術も進んでいるらしい。だが、例外という物は常にある物のようで……わが家に押しかけている『国際指名手配犯』はそういう人間の一人なのだろう。


 歴史のテストを前にした復習をかねて帰り道でそんな事を考える。気が重いのだが逃げることも出来ない……覚悟を決めて扉を開ける。


「ただいま~……」


 扉を空けた自分の目にはいってきた物は二つの大きなOPPAI。


「おかえり、たっくん♪」


 この自分を出迎えた美人こそが国際指名手配犯である魔女の「クレア・フラッティ」である……指名手配理由は『魔女』でありながら、とある国家から逃亡したことである。


 コレが世の中に残っている例外で、国家が預かって力を抑える処置をしたにもかかわらず、押さえきれないパターン、もう一つが抑えられたように周囲を騙し、成長するまで力を隠し続けるパターン。クレアは後者である。


「今日はたっくんのためにおいしいお料理をご馳走するからね~♪」


 そんな事を言ってくる。ちなみに彼女の魔女としての科学魔法は"音"である。 この音と言う特性は非常に厄介であり、防御する事が非常に難しい事と、人間を催眠状態に持っていくのが容易なことが上げられる。


 この音による催眠能力でクレアは周りの国家職員を催眠にかけて鼻歌交じりであっさりと自国を脱出。そのまま気楽に世界各国を周り(自分が立ち寄ったということを人間相手には音の催眠でごまかし、偵察の機械は適度にぶち壊し)、なんとなく日本に来たのだそうだ。


 ふらふらと日本のあちこちを観光していたらこの近辺にたどり着き……深夜のコンビニにポテチを買った帰りであった俺と偶然に鉢合わせた。


「──なに、この子……とっても好み!」


「はい!?」


 そこからはがっちりとホールドされ、顔面はOPPAIに押し付けられた。離してくれと頼んでも「イヤ♪」と言われ、帰りたいといえば「じゃあ私も住むね、日本では『押しかけ女房』っていうんだっけ♪」と、どこかずれたことを言いながら、結局そのまま家に入り込んでしまったのである。


 ちなみに両親はクレアのことを長女として認識するように催眠をかけられてしまった。 ちなみにオヤジが40、母親が38だ。どう考えても23~26の長女がいるのは年齢的におかしいのだが、クレアの催眠力は半端ではなく、両親はごくごく普通にクレアと接している。そもそも黒髪の日本人から金髪の娘が生まれる可能性はほぼ無いと言うのに。


 俺の両親は共働きであり、恐らく今日も残業をしてくると予想されるので、晩御飯をクレアと一緒に食べる。ちなみにクレアから逃げようとか考えても無駄だ。『魔女』として指名手配されるという時点で基本的な科学魔法レベルは10に達しているのは間違いない。


 逃げようとしても土に足を取られ水に押し戻されるのが関の山。俺自身の科学魔法レベルは3なのでどう頑張っても対抗できるわけがない。ちなみに一般人なら、科学魔法レベル3と言うのはそこそこ強いランクに入る。


 晩飯を食べ終わり、お茶を飲んで一息。 そして質問をぶつけることにした。


「そもそもさ、何で自分の国から逃げてきた?」


 『魔人』も『魔女』も今では被害者として考えられ、どうしてもその強大な力を国家が押さえ切れなかった場合はその国が手厚い保護を行なう。 その代わりその強力な力で自然災害などが発生した場合に、人命救助や支援を行う義務があるが。


「飽きた」


「おい!?」


 満面の笑みでクレアはそうのたまった。 反射的に突っ込みの一つも入れたくなるだろう!


「もう一つは内緒♪ ほら、女は秘密を持っているほうが美しいって言うでしょ?」


 まともに言うはずもないか……国家の嫌な所も見てきてるんだろうしな。そう俺が考えを纏めていると、次はクレアから質問したいことがあると言われた。


「答えられることなら……」


 一応そう前置きしておく。


「そっか、じゃあ、結婚式は和式? 洋式? 子供は何人? 私は3人は欲しいなぁ♪」


「ちょっとまて! なぜ結婚すること前提で話を進める!」


 まだ高校二年だぞ、人生の墓場に足を突っ込むつもりはない!


「えー? 好きな子でもいるの? だったらつれてきてよ、一夫多妻も私はドンと来いだよ!」


「いないけどさ! 何でそうなっちゃうんだよ!」


 ダメだ、色々と付いていけない。まともに付き合うとこっちが砕けそうだ、主に心が。


「たっくんを逃がすつもりは全くないからだよ?」


 首を可愛くかしげながらぽろっとクレアは爆弾発言をする。


「行動は可愛いが言ってる事が物騒ですよクレアさん……」


 そう言って俺は机に突っ伏した。『魔女』が逃がさない宣言をした時点で、一般の人間である自分にはどうしようもなくなった。


「そ、そもそも今俺達は姉弟の設定なんだろ?」


 せめてもの反撃はクレアにあっさりとクロスカウンターされる。


「当然その時は従姉弟になればいいだけじゃない? 難しくないない♪」


 T.K.O負けした気分だった。


 ────────────────────────


「おかーさん、ご飯できてるからねー」


「クレア、ありがとうね~今日のご飯もおいしい!」


 両親は完全に洗脳が効いている様で普通にやり取りしている。国際指名手配犯が料理を作ってそれを親が食べると言う光景はなんとも……しかもクレアは料理も上手かった。


「色々暇でねー……裁縫とかそういうのも飽きるほど練習してたよ」


 だそうだ。あながち暇で暇でどうしようもなくて飛び出してきたと言うのはある意味事実なのかもしれない。


 実際『魔人』や『魔女』は必要とされる時以外特定の建物の中にいなければならないと言う制限もあると聞いたような。もし彼らや彼女が本気で破壊活動を始めたら、一人を止めるのに特殊部隊が1000人ほど必要であり、その7割が未帰還になる覚悟が必要らしい。


「ああ、そういう風に暴れるつもりは全くないよー? つまんないし」


 これまたあっけらかんとクレアに言われる。 実際他の『魔人』や『魔女』の皆さんも、暴れてどうすんの? ガキじゃあるまいに。とある意味達観しちゃっているらしい。


 この言葉は信憑性がある。科学魔法による死者の数は一般の人が勝手に魔人や魔女は悪だと思い込んで扇動してしまい、諍いを収めるためにやむなく治安維持部隊が、扇動者を殺して止めると言うことで起きる死亡件数の方がはるかに多かったりする。


「だから大じょぶじょぶ。 おねーさんにいっぱい甘えていいんだからね♪」


 とウィンクつきで言われてしまった。 突然現われて平穏な毎日を見事なまでに吹き飛ばした国際指名手犯のクレア。俺はこれからどうすればいいんだろうか。


「私と結婚すれば……いいんじゃないかな♪」


「最後の締めに割り込まないでくれ!」


「怒った顔も可愛い~♪」

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