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彦星こかぎの文章術  作者: 彦星こかぎ
一部:彦星こかぎの思う事
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4.ノックスの十戒を読む

 少々ながら読者がいるようで嬉しい彦星こかぎです。


 さてさて。ノックスの十戒はご存知ですか? イギリスの推理作家であるノックスさんという人が、「推理小説を書くとき」に注意すべきことをまとめた十のルールです。しかし、このルールそのものはどんな小説を書くときにも使えるテクニックではないかと思います。守るにしろ破るにしろ、小説を書くときのポイントが列挙されてるわけですから。

 ちなみに、私自身ノックスさんの書いた推理小説というのは読んだことがありません。そう考えると不憫な人です。あと、この人が書いた作品の中にも十戒を破っている作品があるらしいので、あまり肩肘張らずに見てみましょう。

 はてなダイアリーから引用します。



1. 犯人は小説の初めから登場している人物でなくてはならない。又、読者が疑うことの出来ないような人物が犯人であってはならない。


 まず一つ目。「犯人」というのは物語の重要人物、まぁ「ラスボス(ラストボス、RPGの最後の敵のようなもの)」でもいいでしょう。

 ラスボスにしろそれ以外の重要人物にしろ、とりあえず物語の冒頭から存在を明らかにしておいた方がいい、というわけです。どういう敵なのか分からないと怖くもなんともないですし。その人物が最終的にどういう立場になるか、どういう行動をとるかは捻りに捻っていいですが、とりあえず最初から出てた方が印象に残るに決まってます。

 犯人はそうですが、あと私が勧めるのは「主人公を助太刀する人」を早めに出しておく事。最初に登場した謎の人物がその後主人公を助けてくれる……というのは何時の少女マンガか分かりませんが、とりあえずいきなり出てくるよりはいいです。それが(かっこいい)重要人物の場合ですね。

 あと二文目の「読者が疑うことの出来ないような人物」というのは、例えば物語の語り手(文中で「私」となる人物。いわゆるワトソン)が犯人というのはタブーだという事です。タブーというか、これはどう考えても書きづらいので下手に手を出さないほうがいい気がします。


2. 探偵方法に超自然力を用いてはならない。(例、神託、読心術など)


 いやー、このままではファンタジー書くなと言ってるようなもんですが。

 ただ、魔法を使ったりする場合には前もってそれが許される設定を作った方がいいと思います。クライマックスになっていきなり主人公が今までの状況で想像できないような必殺技を使うのはさすがに急場しのぎ感が出てしまうので。

 でも、その辺はあまり気にしなくてもいいです。最後に魔法が発生することを踏まえてキャラを設定しストーリーでそこまでもっていこうとすれば、それなりに伏線も張れてしまうわけで。


3. 秘密の通路や秘密室を用いてはいけない。


 これは、使い方を選べというような意味だと思います。

 推理小説というジャンルにおいては、「この謎がどうやって解けるのか!?」という緊迫感だけでクライマックスに持っていくようなところがあるので、いざ種明かしという段階になって「実はここに隠し扉があったのでしたー」とやってしまうと、一生懸命犯人を予想していた人は「ふざけんな! 分かるかよそんなモン!!」となってしまうわけです。

 ええと、つまりは秘密の通路そのものが悪なのではなく、クライマックスにいきなり登場させるのはアンフェアだというわけですね。

 これは推理小説のように論理的な答えが期待される物語に限らずいえることで、前述の「世界観」にも繋がりますが、全ての現象にある程度予想できる部分があった方がいいんですね。文章というのはそれだけで読者の考えを方向付けしてしまうような部分があるので、技巧的ではない物語を書くときは無茶は禁物です。意外を通り越して呆気に取られます。

 ちなみに「意外性」ももちろん必要ですが、意外なだけでは仕方ありません。意外だったけどなるほど納得、という所まで持ってこれれば勝ちです。なんだそりゃ。


4. 科学上未確定の毒物や、非常にむつかしい科学的説明を要する毒物を使ってはいけない。


 個人的には是非覚えておいてよいルールだと思います。

 というのも、小説において「説明文」ほど面倒なものはないんですよ……これを解説している間は物語に進行がないわけですし、気をつけないと話の流れをせき止めてしまいます。

 もっとも「難しい説明」それだけであれば、文章というのはとても簡単な手段です。これが映画だと、いきなり込み入った説明を加えるのは至難の技なわけです(映像に動きがないシーンというのは致命的ですから)。しかし、説明文の入れ方によっては大失敗の一因となりうるのがこれだと思います。経験上。

 ライトファンタジーを書くときには主人公に設定を与えるのは何より重要ですし、使う能力や敵に関して体系的な構造が存在することは、世界観を立てていくときにかなり役立ちます。ところがそれを読者に一から十まで一気に説明するのは到底無理でしょう。ですから「かいつまんで説明する」能力というのは是非必要です。特に初期状態で主人公が何も知らないときには、教える立場の人物に語らせるのが一般的ですが(えっ、ベタですか?)、なるべく当座必要になることだけに留めておいた方がいいと思います。

 ちなみにその能力を勉強したければ、最近の「仮面ライダー」見るといいですよ。 子どもに複雑な世界設定をゆっくり分からせ、ファンにするための工夫が凝らされてます。


5. 中国人を登場せしめてはいけない。


 図らずもノックスの十戒の中で一番有名かもしれませんね……そして、当時イギリスでは中国人のことを気持ち悪くて低俗だと思っていたわけです。だからって出しちゃ駄目なのか、という気もしますが、まあ色々事情があるわけです。

 中国人の方にはとても失礼な話ですが、まあ想像してみましょう。自分が書こうとしている物語の中に、突然ドジョウひげのおっさんが現れて「ニイハオ♪ワタシ謎の中国人アルネ〜」と言いはじめたらどうですか?

 と、極端なことを言ってしまいましたが、要するに強烈な個性を持つ人物は扱いに注意しなさい、というわけです。そして推理小説というのは紳士的な読み物でしたので、あまりそういうインパクトで読者を引っ張ってはいけないわけです。ギャグならもちろんOKです。


6. 偶然の発見や探偵の直感によって事件を解決してはいけない。


 これは……何度か書いたとおり、無茶なやり方でクライマックスをでっち上げるな、という事ですね。それでは読者は納得しません。

 もう一つ重要なのは、主人公(ヒーロー、としてもいいでしょう)は考えて行動して問題解決のために努力しないと格好良くない、という事です。いくら推理小説でも、ちょっとした発見物はよく偶然に(または警察のローラー捜査で)見つかりますが、事件を解決するにはそこから探偵が考え、時に現場に赴いて、確証を得る必要があるのです。そのプロセスがカッコいいと、ヒーローへの好意が高まるわけです。

 ちなみに「行動しない主人公」といえば「安楽椅子探偵」ですが、これを使うときに読者を飽きさせない工夫というのも古典推理小説の中で一通り示されています。ワトソン役の人物が行動的でイベントを起こすこともありますし、とにかく短い文中でどんどん問題を解いてしまう「ミス・マープル」のような話もあります。


7. 探偵自身が犯人であってはならない。


 「探偵」は、まあ言えば「主人公」です。物語の記述者であるワトソンも主人公ですが、この違いに関しては9番目の説明で詳しく書きます。

 探偵が犯人では何故いけないか、というと、探偵が犯人だと明らかにするもう一人の探偵が必要になってくるからです。それで物語をまとめる事はそれほど難しくありませんが、ノックスは一応フェアではないとしているわけですね。

 ちなみに私の意見ですが、「主人公(のうち一人)が実は悪役」というのは、小説家ビギナーのうちは手をつけないほうがいいと思います。

 というのも、そういう技法は「キャラクター軽視」につながる可能性があるからです。最初から人物をシステマティックに配置し、脚本どおりに裏切らせると、なんとなくキャラクターが薄くなって魅力半減、ということが実際にありました。

 対立している善と悪がはっきり存在し、しかも誰かが素性を隠して敵方(主人公の側)にいるという状況はあまり現実的ではありません。そういう状況でどういう感情が生まれるのか類推するよりは、日常的に感じる「楽しさ」「仲間意識」に関して書いたほうがいいと思います。

 また、小説家ビギナーにとって最大の賛辞の一つは「続きが読みたい」だと思うのです。キャラクターを愛し、その楽しい関係を壊さずに保存しておけば、おのずと「物語が今後も続いていきそうな予感」につながるわけです。実際の続きも、イベントが思いつけば同じ設定で書き始められます。「キャラクター小説」の類ですね。

 その辺のことが気になったら、森博嗣の「黒猫の三角」をお勧めします。これはすごいです。


8. 読者の知らない手がかりによって解決してはいけない。


 これも、小説としての公正さを保つための方策です。

 手掛かり……小説技法でいうと「複線」ですね。伏線も張らずにいきなり「驚愕の新事実」を打ち立てるのは、クライマックスでは避けたほうがよいでしょう。クライマックスとはすなわち自体が収束に向かっているという事ですから、新しい設定は確かにアンフェアですし、混乱を招きます。

 伏線を張る、というのは、上手くいくと爽快なのでついハマってしまいます。最後の終わり方がきちんと分かっていれば、それを匂わせることを初期にやっておいていいですし、終わり方を決めずに書き始めた場合は、ふと書き込んだ雑談から結末のきっかけを得てそれで書くと伏線になります。どちらの方法でも、効用はそれほど変わりません。

 私の実話ですが、後輩が連載していたファンタジー小説の中で、人物としては登場しない「主人公の兄」に対する記述がちらっと見つかりました。あー……多分敵になるんですね。そのお兄さん。伏線の張り方としては甘かったかもですが、でもそんなに悪い感じはしないものです。おそらく。


9. ワトソン役は彼自身の判断を全部読者に知らせるべきである。又、ワトソン役は一般読者よりごく僅か智力のにぶい人物がよろしい。


 キャラクターに対する注文はこれだけですね。この二つの文はかなり関連しているといえるでしょう。

 ええと……ホームズとワトソンは両方主人公ですが、どう違うかという説明からすると、ホームズは「ドラえもん」でワトソンは「のび太君」なんですね。つまりホームズ、探偵には常人が思いつかないようなかっこいい行動をさせ、代わりにワトソンのほうにはより読者に近い、読者を忘れたり裏切ったりしない誠実な人物がよいというわけです。

 これは別に書くときの技法として覚えておく類のことではなくて、主人公の発想がかなり飛躍してしまったり多くを知りすぎたりしていて読者との立場の差が大きく、分かりにくくなりそうなときによく使う「手段」だと思います。


10. 双生児や変装による二人一役は、予め読者に双生児の存在を知らせ、又は変装者が役者などの前歴を持っていることを知らせた上でなくては、用いてはならない。


 これがラスト。もうそろそろこれなんて、かなり推理小説に限定した話になってますね。

 クライマックスで「実は双子でした」というのも確かに嫌ではありますが、わざわざ明記していることを考えるとかなり当時多かったのかもしれないです。そういうオチの推理小説。

 ただ、「双子」だとか「役者」といったキーワードは、それだけで登場人物の存在感を高める効果があります。重要な人物をとにかく印象的にしたければ、何かしら設定でも能力でも特殊なものを持っていると面白くなると思います。



 長々と書きましたが、世の中には更に多くの規則が存在します。ヴァン・ダインの二十則でこれの二倍ですから……

 守ってしまってはもはや話を書くことも出来なくなってしまいそうになりますが、それでも安易に手を出すと失敗しやすいルールもたくさんあります。サクッと調べられますので、軽い気持ちで見てみるのも一興かもしれないです。


 次回はキャラクター論をさわってみようと思います。

 それでは、またお会いしましょう。

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