14.刺激ゲキテキそれでよし?
こんにちは、いつも読んでくださってありがとうございます。
ごくたまにアクセス解析を確認するのですが、4部~6部が人気のようです。参考にします。
さて、今回お話したいのは、いわゆる「劇的な展開」。
この「劇的」って単語が曲者で、一言では説明しにくい概念だと思います。一応国語辞典で調べたところ、「劇を見ているように緊張や感動を覚えるさま」だそうです。緊張も感動もしない劇なんて世の中にいくらでもあるのになぁ。っていうか、劇を見た事がない人には絶対理解できない説明をするもんじゃないと思うんですが。語源の関係上仕方ないとはわかりつつ、一言ツッコミ入れたくなります。
ところで皆様は、物語を読んでいて「緊張・感動」した事って、どのくらいありますか?
こういうのはあんまり適切な質問ではないですが、私はあんまりはっきりと感情を自覚した事がないです。もちろん本を読んでて泣いちゃったこともありますし、ハラハラする展開に興奮する事もありますが、「実世界で同じ現場に居合わせた時と同じような感情を持つ」なんて事はないよなぁと思います。実際に経験したら混乱したり大声を出しそうな所でも、黙々とページをめくる手に力がこもるのみ。他の人に聞いた事はないですが、本を読みながら騒いでいる人なんて見た事ないので、概ねそういうものなんでしょう。
そういう意味で物語の中の「劇的な展開」っていうのは、読者の感情を動かすというよりは物語により没頭させるために用いるものではないかと思うのです。
さてさて。
そんなわけで読者のリアクションは見た目になかなか出てこないですから、「劇的=緊張・感動」とだけ考えると、具体的にどうすればいいのかはっきりしなくなります。
そこで彦星は、劇的という言葉を二つの軸に分けて考えてみます。一つの基準は「意外であるかどうか」、もう一つは「読者の興奮を喚起するかどうか」という基準です。これで、一般に言われている劇的な展開と言われているものを分類してみます。
具体的に考えてみましょう。
――ついに宿敵と対峙した主人公。しかし、あまりの実力差に仲間は次々と倒れ、主人公も床に伏したまま動かなくなる。
「所詮貴様らの正義など真の正義ではない」と哄笑する宿敵。
しかし、立ち去ろうとする宿敵の背中に、
「正義なんて……そんな大層なもんじゃねぇよ……」
主人公のかすかな声が投げかけられる。
「なっ……まだ動けるだと!?」驚愕の表情で振り向く宿敵――
さて、劇的だったでしょうか。
まーおそらく、この局面まで来ると読者はいやおうなしに興奮するところでしょう。わくわくしてページをめくって(画面をスクロールして)くれることと思います。
しかし、「意外性」という意味ではどうでしょうか。確かに、物語世界の中(特に宿敵の目線)では、この展開は非常に意外なものでしょう。他にモブキャラがいたとしても、全員驚くところです。しかし読者にとっては、この展開は「王道」です。どこにも意外性はありません。そのまま主人公が死んでしまったら話が続かないですから、当たり前のことなのです。読書経験のほとんどない人で、完全に物語世界に漬かっていた場合は意外に思う可能性はありますが、それがレアなケースである事は共感いただけるかと思います。
この例でわかるのは、王道の展開で意外性が皆無でも、読者を興奮させられれば劇的な展開になりうる、という事です。皆様の中にも、「あまりの実力差に仲間は次々と倒れ」の辺りで「この後主人公はちゃんと立ち上がるな」と予測できる人はいっぱいいるでしょう。そういう冷めた目線の人も、この熱い展開には否応なしに興奮してしまう。そういう時は、それも「劇的な展開」と呼べそうです。
逆に、読者の感情は「興奮」にはシフトしないけれど意外性のある展開、というのもありえます。こちらも例を。
――人里離れた山荘で晩餐会が開かれた夜、客室で殺人事件が発生する。
被害者の友人である主人公が嘆き、混乱している所に声をかける瀟洒な紳士。
彼は主人公をいざない、誰もが戸惑う中で綿密な現場検証と事情聴取を行う。
不自然な遺留品、錯綜する動機。「ふむ……なるほど」と紳士は思索にふける。
「何かわかったんですか?」という主人公の問いに、紳士は真顔で答える。
「何もわからない」――
この後に主人公の「えっ!?」というような台詞を付け足すのもおこがましいくらい、印象的なシーンです(もちろん元ネタはあります、剽窃の意図はありません)。最近のミステリはあまりに多岐に渡っているのでこれだけでは別に意外ではないと判断する人もいるかとは思いますが、「人里離れた山荘」なんていう古風で仰々しい舞台設定でもあるため、概ね「意外」な展開と認識されるのではないかと感じます。
もちろんこのシーンで(この話がシリーズもので、この対話がお約束の展開なのであればともかく)「来た来た来たーっ」と興奮する読者はめったにいないでしょう。しかし、意外性で多少は読者の虚を突くことが可能です。少しでも「えっ」と思わせればこっちのもの。今後の展開に興味を持ってもらうきっかけになります。
というわけで、一口に「劇的な展開」とはいっても、こんな風に分類していくことは可能です。
物語の筋を考える上では、大きく展開が動くシーンや今後に大きな影響のあるイベントなど、つまりは劇的なシーンを節目として、それをつなげていくという書き方をする場合もあるかと思います。そういった節目を並べた時に、どういったタイプの劇的さが求められているか、また自分はどういった展開が好きなのかを把握する事は、一定の価値があると思います。
いろんなタイプのシーンが必ずしも不可欠というわけではありません。しかし、王道のシーンばかりでは(展開としては面白くても)先々まで予測してしまえて魅力を損ねる可能性がありますし、奇抜な出来事が多く起こって驚きはあるものの全然興奮してこない、というのではなかなか読者の気を惹けません。これは面白いシーンだ!と思えるシーンがたくさんある事は決してマイナスではありませんが、シーン同士の関係や「劇的さ」の使い分けが上手になされていると、シーン自体の面白さをより際立たせる事が出来ると思います。
そしてもちろん、節目だけでストーリーは作れない、という事はこれまでにも何度か書いたとおりです。
特に意外性で劇的さを演出するシーンの場合、読者の持つ常識にとって意外である事はもちろん、物語の世界観においてその出来事が意外である事を説得力をもって示さなければなりません。ただ、この二つは往々にしてリンクしているものだとも思います。読書量の多い人ほど「お約束」に理解があるわけで、それを裏切る展開はちょっとひねった意外さを提供できるかもです。
最後にちょっとおまけ。
「物語的に意外」+「読者の興奮喚起」というダブルパンチのシーンって何かないかなぁと、書きながら考えてました。もちろんこれなら何度でもいつでも出してOKというわけではないですが、ストックしておいて効果的に使えると面白いんじゃないかと思います。で、二種類思い至りました。
一つは「今後の展開に大きく影響しそうな意外な事実の判明」というもの。トライアスロンの試練を言い渡された後で、なんと主人公は泳げないと発覚するとか。しかしこれ、事実関係が発覚するシーンとしては非常に強いものですが、それがどのくらい緊迫感を伴う事実なのか説得力を与えるのは難しそうです。戦闘シーンなどではないので動きが付けにくいというのもありますし。
あと、「意外な台詞・手段で王道を突く」というのも時々見られます。例としては、上に挙げた「宿敵が勝ちを確信した直後に主人公が立ち上がる」シーンの場合。ここで主人公が何かかっこいい事を口にするのではなく、例えば「うるせえ、変な髪形しやがって」と言い放つ。王道の高揚感を少し削って意外性に持っていくことで、少し印象を変化させる事ができそうです。
そんなわけで、ひと癖あるものの手法としてはなくはないようです。
次回はまた少し、文章そのものに関する事を書きたいと思っています。では。
引き続き、何か語って欲しい、意見が聞きたいなどありましたら何でも言ってください。
もちろん通常の感想もお待ちしています。