10.文章を改良しよう(後編
さてさて、応用編です。改良している文はまだ覚えていますね? 一応これまでの文を載せておきます。今後はこれが「最初」です。
最初:
「やっぱり今年は食べ物屋だよな」
主人公Aのクラスでは、学園祭での催し物について相談していた。そのBの言葉に議長のCも頷いて、
「何か決まったムードがあるといいね」と言う。それに対してAは、
「じゃ、メイド喫茶か?」と提案した。
するとそこで、Dが言った。
「じゃあA君にメイドの格好してもらおうよ」
クラス全員、大爆笑。
次の作業は細部の修正、特に「語尾」です。
日本語というのは面白い言語で、こと述語に関しては「同じ言葉を何度も使わない」ことが美しいとされているようです。それでなくても、語尾が全部「〜と言った。」では、どうしてもスマートな文にはなりません。
ここでは、Bが発言したときにもDが発言したときにも「言う」「言った」と同じ表現をしているので変更しましょう。またDの発言はインパクトのあるものなので、ラストの分と同様にあっさりしたものにしてみます。
更に他の語尾では、Aの発言に「提案した」と述語をつなげるのは考え物です。結果的にはクラスに対して提案していることになりますが、学園祭に関するクラス会という場に対して「提案」では堅苦しいですし、A君の口調も分かりづらいのです。
改良3:
「やっぱり今年は食べ物屋だよな」
主人公Aのクラスでは、学園祭での催し物について相談していた。そのBの言葉に議長のCも頷いて、
「何か決まったムードがあるといいね」と言う。それに対してAは、
「じゃ、メイド喫茶か?」と、小さく呟いた。
するとそこで、Dが一言。
「じゃあA君にメイドの格好してもらおうよ」
クラス全員、大爆笑。
これは特にインパクトのある修正ではないですが、確実に「頭のよさそうな文」になります。
さて、次の段階は「簡略化」です。要らない言葉はとにかく省く。台詞も、意味がぎりぎり通るくらいに断片的な方が話し言葉っぽくて分かりやすくなります。
古文などを読むと分かるのですが、日本語は言葉の流れが非常にスムーズな言語です。そのため、小気味よくリズムよく読める文章を心がけましょう。
改良4:
「やっぱ今年は食べ物屋だよな」
主人公Aのクラスでは、学園祭での催し物を相談していた。そのBの言葉に、議長のCも頷いた。
「何か、ムードがあるといいね」
それに対してAは、
「じゃ、メイド喫茶か?」と、小さく呟いた。
するとそこでDの一言。
「メイドの格好、A君がすれば?」
クラス全員、大爆笑。
こんな感じになります。
またDの台詞を簡略化するときにはもう一つ別の技法を使っていて、これは「核心を突く言葉を後回しにする」というものです。
この台詞は何より「Aが」メイドになる、というのがポイントなわけで、「A君」というキーワードを文の後半に持ってくることで(非常に地味に)インパクトを高めています。
最後は、技法というよりは表現力のお話。
ここまでの改良ではまだ「個性」がつきません。もっと面白い文章にしようと思うと、元になった文章よりも更に情報を増やしていく必要があります。
たとえばこの話の主人公はAなのですから、もっとAの視点でものを見ているように書き直す。また、クラスの雰囲気やその日のイメージを書き加える。このような地道な改良が、結局のところ一番効果があったりします。
ただしこれは一番熟練を要するので(かつ、最初の執筆段階でほぼ完成されてしまうことも多いので)、じっくり考えていきましょう。
一応「私ならこうするかな」というのを載せておきます。今まで挙げた技法を応用していたりもしますし、おそらく反面教師になる部分もあると思いますので、自分の書き方と比べてみてください。
改良後:
「やっぱ今年は食べ物屋だよな」
Bの言葉に、Aは小さく同意を示す。まだ教室の外は夏真っ盛りというような眩しさだが、それでも秋の学園祭まではそれほど時間がない。
議長のCはセーラー服の腕を組んで、Bの方を向きながらややオーバーリアクション気味に頷いた。
「何か、それらしいムードがあるといいね」
「じゃ、メイド喫茶か?」
Aは思わず呟いた。
するとそこで、すかさずDの一言。
「メイドの格好、A君がすれば?」
クラス、大爆笑。
実際の作品を改良しようとすると、こんなにはっきりとした構造は見えてこないかもしれませんし、技法による効果も変化する場合があります。その辺は経験に頼るしかないのですが、なるべく呼んで面白くなるように工夫してみてください。