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Page-23 真夜の憤怒

 翌日、真夜は店の屋根に登って一冊の魔導書を開いていた。民家や商店街の店々が一望できるそこから、漆黒の瞳を絶え間なく動かして遠く広範囲を見渡す。

 精神的疲労は昼過ぎまで睡眠を取ったおかげでほぼ回復している。ぶっ通しで二十時間以上は眠っていた。これほど寝ていた経験は過去に一度しかない。

 ――出遅れたが、奴はまだこの街にいる。

 奴とは無論、昨日是洞古書店に侵入した魔導書強盗のことである。魔導書のみを奪ったことから、犯人は魔導書使いと見てまず間違いない。そして魔導書使いなら体内に固有の魔力を持っているため探知系の魔術に引っかかりやすい。

 その証明として、店に残留していた微かな魔力を基に日和が探知魔術を行ったところ、一度だけ犯人を捉えたらしい。その後、こういうこともあろうかと街の出入口となる道という道に仕掛けておいた感知術式をチェックしたが、魔導書強盗の反応はなかったという。当然、術式の破壊もされていない。

 道なき道を通って逃走した可能性も否定できないが、思うに、奴はまた魔導書を狙ってくるだろう。真夜はそう直感している。

 ――僕の店を荒らしたこと、必ず後悔させてやる。

 外面は物静かな雰囲気を纏う真夜だが、内面では密かに憤怒の炎を滾らせていた。生まれ育った店、両親が残した店、そしてなにより、真夜にとって世界で唯一の安寧の場である地下書庫を汚されたのだ。普段は冷静で合理的な真夜でも、黙ってはいられなかった。

 犯人は見つけ次第叩き潰す。そのために体調も万全近くまで回復させた。

 ――だが、奴は姉さんの術式を破壊できるほど上位の魔術師だ。そう簡単に尻尾は出さないか。

 バチリッ。真夜の背後で青白い火花が散った。

 瞬間、そこに狼の姿をした雷獣が出現する。威風振り撒く雷獣は背を向けて屹立する真夜を仰ぎ見ると、飼い犬のようにお座りをした。

「まずは一体。残りもそろそろか」

 真夜が振り向かず呟いた直後、左右前方に放電現象が起こり、三体の雷獣が現れた。それらも王様に仕える兵士のごとく行儀よく着座する。

 これらは〝雷獣〟の魔導書により生まれた雷狼だ。警察犬のように鼻が利き、雷化して素早く動ける上にどこにでも侵入できるため、戦闘よりも情報収集に適している。

 本来なら売り物として店に並ぶはずだった〝雷獣〟の魔導書だが、その利便性から持っていると都合がよいため真夜は自分の物としたのだ。

 実際、今回もこの魔導書が活躍している。

 真夜は犯人の魔力の匂いを雷獣たちに覚えさせて解き放ち、一時間ほど前からこうやって捜査を続けている。街に放った雷獣の数は――五体。

 ――あと一体はどうした?

 真夜が懸念したその時、魔導書からなにかが欠損したような違和感が伝わってきた。その違和感の意味を一秒とかからず理解する。

「……チッ、やられたか」

 残り一体は犯人を見つけた。しかし逆に見つかってしまい、ここへ戻る前に始末されたのだろう。その場所がわかればいいのだが、これは探知魔術ではないのでそこまでの機能は備わっていない。

 ――探知を掻い潜れるようだからこれを使ったが、無駄にはならなかったようだな。

 犯人はまだこの街にいる。その事実がたった今確定されたのだ。

 これ以上雷獣を使っても無意味だろう。そう判断した真夜は鼻息を鳴らすと、〝雷獣〟の魔導書を閉じた。すると周りに傅いていた雷獣たちが一斉に消失する。それを確認し、真夜は〝雷獣〟の魔導書を〝書棚〟に収めた。

 ――ここからどうやって奴を追い詰めるかが問題だが……ん?

 次の作戦を練ろうとした真夜の耳に、タタタタタッ、と靴底で慌ただしく地面を叩く音が響く。

 屋根の上にいる真夜は視線を下方にずらすと、一人の女子高生が店に向かって全力で駆けているところだった。彼女の様子からかなりの焦燥感を読み取れる。

「……なにかあったな」

 呟くと、真夜は店に戻るため屋根から二階のベランダへと飛び降りた。


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