Shit ! ' カナメ
シュンが彼女と別れてから、ソウはいつも以上に腹黒くなった。…いや、もとから大概腹黒かったけど。
「ソウ、あんまりシュンいじめんなよー」
「カナメに言われたくない」
そう言うと、ソウの綺麗な顔が歪み、言いようの無い圧力が押し寄せた。
「…カナメ、ほっとこ」
俺の隣に座っていたトーマが肩に手を置いて言った。
「それじゃ、あまりにもシュンが可哀想じゃね?」
ただでさえ、フられたばっかなのに、という一言は口から出ていってしまう前に辛うじて飲み込めた。
「いや、そもそも。俺らに内緒で、ちゃっかり自分だけ良い思いしてんのが悪い」
うんうん、と納得するように頷きながら言った。
「…確かに」
半分ほど残っていたビールを一口飲み込んだ。程よい苦味が口の中に広がる。…うまい。
「いや、俺別になんも悪くなくね?」
「シュン、うるさいよ」
「ソウなんて、何人彼女居ると思ってんだよ! っつーか、カナメだって彼女いるじゃねーか!」
「細かいこと気にしすぎるとフられるよ。あ、ごっめん。シュンくんはもう…」
「いや、そこで笑うとか、もうおまえら悪魔だよ、悪魔。大魔王。地獄に堕ちろ」
「あ。すいませーん、魔王の水割りください」
「いや、思い出したかのように酒頼んでんじゃないよ」
「シュン飲まねーの?」
「いや、飲むけど。…ビール」
「あ、俺も」
あちこちで、繰り広げられていく会話をぼんやり聞きながら残りのビールをいっきに飲み込んだ。ジョッキを置くと同時に、机の上に置いておいた携帯が振るえた。
「あ、わり。俺の携帯」
机の上に置かれていた様々な形の携帯を皆が思い思いに触れたので、一言詫びてから、画面を覗いた。
「誰からー?」
トーマがそういいながら、画面を覗き込んできた。
「…おまえ。それはねぇーは、それは」
電話だったが、出ようか一瞬躊躇った。が、それは置いといて、こいつが言いたいのは表示されている名前のことだろう。
「しかたねぇーだろ」
そう言って俺は電話に出た。
「もしもしー?」
二番目と表示された、彼女の電話を。
外野がやいやいうるさい。きっとシュンが「俺よりカナメのがヒドイだろ!」とみんなに訴えかけるようにして叫んだんだろう。
シュン。
残念だけど、ソウもこっち側の人間だから。
『今電話して、大丈夫だったかな?』
電話の向こう側から甘ったるい声が聞こえ耳にへばりつく。
そろそろシュンが可哀想になってきたところだし、潮時だな。
「わり、もうおまえとは付き合えないから」
『え!?ちょ、カナメくん!?』
耳から携帯を遠ざけてもまだ向こう側で喚いている。強制的に電話を切った。それでもまだ耳にねっちょりとからみつく声が残っていた。うんざりだ。
「…うっせ」
「うわっ!カナメがヒドイ男になってるー!」
嬉しそうにシュンが言った。
…お前に彼女は当分無いな、とこの場にいる誰もが思った。