第5章 プレッツェルマン(Pretzelman )
企業のビルの一室、会議室の扉が前触れもなく激しく開け放たれる。車輪の回転音――どうやら車椅子のものだ――が慌ただしく前進してくる。数人の秘書や、きちんとしたネクタイを締めたスーツ姿の男たちが急いで入り、その人物のために道を開ける。室内は完全な静寂に包まれ、ただ大理石の床を滑る車輪のかすかな音だけが響いていた。
やがて一行は部屋の中央に到達する。そこにはすでに、長いマホガニーのテーブルを囲んで数名の幹部たちが待っていた。すべての視線が車椅子の男に集中する。空気は重くなり、言葉を必要としない威圧的な権威が満ちていく。
そしてついに、その謎めいた人物の姿が明らかになる。彼は恐ろしく歪んだ男だった。その身体はもはや骨と筋肉が絡み合った結び目のようである。深く、苦しげで、笛のように鳴る呼吸音だけが沈黙を満たしている。酸素ボンベと生命維持装置の電子音が彼の車椅子に接続され、それは壊れた肉体の延長のようになっていた。
彼の車椅子は、巨大なテーブルの上座に据えられる。そこには複数の企業幹部が集まり、全員が敬意をもって立ったまま沈黙していた。
部屋の奥で、誰かがかすかにささやく。
「……なんてことだ、あれがプレッツェルマン(プレッツェルマン)だ……」
ざわめきが広がりかけたその時、威厳ある声がそれを遮る。
「諸君、どうか。会議を始めよう」
室内の沈黙を破り、権威ある声が響く。
「我々がここに集められたのは、緊急かつ重要な理由による。“彼”が、数週間前に目撃された」
部屋中が一斉にざわめき、声の洪水が巻き起こる。ざわめきはやがて不信と恐怖の叫びへと変わる。
「そんなはずはない」
「どうすればいいんだ!」
「本当なのか?」
――そんな声が飛び交う。
「諸君、静粛に願いたい」
その声はさらに厳しさを帯びていた。
混乱の中から、別の落ち着いた声が静かに立ち上がる。
「“彼”について、姿を現した以外に何が分かっているのか?」
「これから、我々が直面しているものについて、詳しくは中尉が説明する」
最初の声がそう答えた。
会議室の注意がプレッツェルマンの姿に集中する中、重苦しい沈黙の中で唯一響くのは、彼の苦しげで笛のような呼吸音だけだった。空気は古く深い恐怖に満たされていく。しかし、記録を読み上げているのは、彼に付き添う秘書である。
「――年や正確な日付は現時点では重要ではありません。これは数年前に起きた出来事です――」と彼女は読み上げ、続ける。
「――我々の回収エージェントの一団が、ある遠隔地の村へ“取得任務”のために向かったとの報告を受けました。しかし、その後、彼らとの連絡は途絶えました――」
緊張が室内に張り詰める。秘書がページをめくると、その紙の擦れる音が空気の中で不気味に響いた。
「――数時間後、匿名で投稿された映像が、エージェントたちに何が起こったのかを示しました。その証拠と収集されたすべての情報により、我々はその“取得対象”が、かつての失敗作の一つであることを突き止めました――」
再び室内にざわめきが広がる。今度の声には恐怖だけでなく、完全な不信が混じっていた。自らの創造物が恐るべき脅威へと変貌したという事実は、誰にとっても受け入れ難いものだった。パニックが再燃する。
女は続ける。その無機質な声は、言葉が引き起こす混乱と鮮やかな対比を成していた。
「――“製品”の回収命令が下されました。企業軍より一個大隊、計一千五百名、複数の装甲車両、ヘリコプター一機、さらに核弾頭を搭載した戦艦一隻が投入されました――」
室内のざわめきは、今度は怒りを帯びて爆発する。
「核弾頭だと、正気か!」
「一つの製品に対して、あまりにも過剰だ……」
企業人らしい憤りを含んだ声がささやかれる。
最初の声が、再び威厳をもって沈黙を求める。
秘書は読み上げを続けた。
「――部隊が現地に到着した際、“製品”と一人の民間人が確認されました。回収作戦の過程において、その民間人は不慮の巻き添え被害となりました――」
この告白の後に訪れた沈黙は、先ほどまでよりもさらに重く、圧迫的だった。室内の全員が、作戦中に民間人が命を落としたという事実、そしてそれがより大きな何かを引き起こした引き金であった可能性を噛みしめていた。
女は書類から目を離さぬまま、読み続ける。
室内は完全な静寂に包まれていた――恐怖に満ちた、絶対的な静寂に。
「――“製品”は極めて高い敵対性を持つ脅威であると判明しました――」と彼女は読み上げる。
スクリーンには、その言葉に呼応する映像が映し出される。完全に歪み潰された装甲車両、そしてねじれた美しさすら感じさせる、無惨に変形したヘリコプターの残骸。深く衝撃を受けた出席者たちはざわめき始め、その声には明確な恐怖がにじんでいた。
やがてスクリーンには、何百もの兵士たちの姿が映し出される。彼らの身体は恐ろしく歪み、 grotesque にねじ曲がり、その姿はプレッツェルマン(プレッツェルマン)に酷似していた。
ざわめきは押し殺した喘ぎへと変わる。ついに会議室の全員が真実を理解した。プレッツェルマン(プレッツェルマン)は単なる企業幹部ではない。彼は目撃者であり、生存者なのだ。彼の笛のような呼吸音が空間を満たし、今しがた明かされた恐るべき力を全員に思い出させる。
秘書の声が続く。室内は完全な静寂に包まれていた。
「――我々の最後の手段として、浄化指令が実行されました。“製品”に対し、核ミサイルが発射されました――」
スクリーンの映像はその言葉を裏付ける。ミサイルの発射、そして着弾の瞬間。
「――しかし、我々は“製品”の真の能力を理解していませんでした――」と秘書は続け、中尉の報告を引用する。
「――ミサイルは爆発したが、まばゆい青色に輝く巨大なシールドがそれを包み込み、爆発を封じ込めた。その規模は、ビーチボールほどの球体にまで圧縮された――」
室内の全員が息を呑む。恐怖は完全なパニックへと変わっていく。
「――その球体は強烈な光を放ちながら、それを発射した艦へと向かった。その推進力と速度は凄まじく、艦の構造を貫通し、内部から爆発を引き起こした。結果として艦は破壊され、沿岸付近およそ4キロメートルの範囲が壊滅した――」
女は書類をしっかりと握り、眼鏡を整えてから読み上げを続ける。その声は報告の結論を明確に示していた。
「――最終報告。“製品”は生存。そして我々の資産の一人――“中尉”、すなわちここにいるプレッツェルマン(プレッツェルマン)――もまた生存。“製品”の所在は不明とされていた……数週間前までは――」
張り詰めた沈黙を保っていた会議室に、再び緊張が走る。
「――回収部隊の一員、コードネーム“マウス”が発見された。“死神(Reapers)”と呼ばれる狩猟採集班の所属であり、中尉と類似した損傷を負っていた。証拠はすでに確認済み。“製品”は再び出現した――」
その後に訪れた沈黙は、まるで墓場のようであった。報告は終了し、真実はすべて白日の下にさらされた。企業最大の失敗作が帰還した――しかも、かつてないほど近くに。
先ほどまで恐怖と憶測に満ちていた大会議室は、今や完全に空となっている。そこに残るのは、プレッツェルマン(プレッツェルマン)ただ一人。彼は大きな窓の前に車椅子を向けている。歪んだ身体は頭を動かすことすら許さないが、その瞳は青空に固定され、遠い記憶の中へと沈んでいるかのようだった。
やがて、白髪の年老いた男が近づいてくる。その動きは、先ほどまで支配していた混乱とは対照的に、静かで落ち着いていた。明らかにオルド・ベネディクトルム(オルド・ベネディクトルム)の一員である。
「やあ、ジョン」
柔らかな声でそう呼びかける。それはプレッツェルマン(プレッツェルマン)の本名だった。
「私も覚えている」
老人は椅子を引き寄せて腰を下ろし、中尉の隣で静寂を共有する。
「我々はあらゆる手を尽くして、あれを“軍事演習中の核弾頭事故”として処理した。……正気の沙汰ではなかった。ありがとう、ジョン。今後のことは随時知らせよう」
老人は返答を待つことなく立ち上がり、その場を去っていく。
やがて秘書がプレッツェルマン(プレッツェルマン)のもとへ歩み寄り、車椅子を押して会議室の外へと導く。
記憶に満たされ、耐え難い重荷を背負ったまま、男は静かに遠ざかっていく。彼と、ごくわずかな者たちだけが知る秘密をその場に残して。
✦ 第5話 終わり ✦




