第4話 都市での思いがけない出会い
一連の任務を成功させた後、ビクター・クリコフ(Víctor Kurikov)は自らの組織「フレンテ・ウニド」にふさわしい休暇を与える。彼は娘と時間を過ごすことにし、一方でペントリックス(Pentrix)は都市の人混みの中に紛れ込むことを選ぶ。
彼はショッピングモールの店々や、普通の人々が楽しむ場所の間をあてもなく歩きながら、日常生活の喧騒を眺めていた。いくつかの店から流れ出る音楽。遠くから聞こえる声や、あちこちで交わされる会話が、絶えず行き交う足音とともに空間を満たしている。やがて彼は木製のベンチに腰を下ろし、飲み物を手に取り、人々の中へと溶け込む。自分の外見がごく普通の人間のものに見える以上、好奇の視線を集めることはないと分かっていた。
しかし、その静かな時間は突然途切れる。
一人の女性の姿が、彼の前で立ち止まったのだ。
落ち着いた様子で少年が顔を上げる。
そこに立っていたのはエレクトロバイト(Elektrobyte)。目立たないように普段着を身につけているが、ヒロインらしい体格がそれでも彼女の正体をほのめかしている。皮肉でからかうような性格の彼女は、嘲るように問いかけた。
「いつからヴィランが、こんなありふれて退屈な場所を散歩するようになったの? 本来ならパリとか、イタリアの海の真ん中に浮かぶヨットの上にいるべきじゃないの?」
彼女は、ヴィランは贅沢な暮らしをし、ヒーローは質素な場所に住むものだという世間のイメージを皮肉っている。
ペントリックス(Pentrix)は、周囲に無関係の人々が大勢いることを意識しながら、ベンチに腰を落ち着けたまま静かに答える。彼女の目を真っ直ぐ見つめながら言った。
「トラブルを起こすつもりはない。ここは戦いを始める場所じゃない。」
ヒロインはその返答を聞き、少しだけ近づく。
しかし周囲の人々の存在に気づくと、ほんの一瞬だけその傲慢さが薄れる。彼女は身を乗り出し、率直な声で、前回の出会いからずっと心に引っかかっていた問いを口にした。
「どうして、あの日……私の命を助けたの?」
ショッピングモールのざわめきや人々の声は、いつの間にか遠いざわめきへと変わっていく。
ペントリックス(Pentrix)は黙ったまま彼女を見つめる。視線は動かず、感情を読み取らせない。二人の間の緊張は、まるで目に見えない力場のように張りつめていた。
だが彼は、彼女の質問には答えず、逆に問いを返す。
「ヒーローって、本当に質素な場所に住んでいるのか?」
エレクトロバイト(Elektrobyte)の顔が不機嫌そうに歪む。彼女の忍耐は一気に崩れた。
「……ムッ! 質問をはぐらかしてるわね。ほんと、あなたってすごくイラつく男だって分かってる?」
いつもの傲慢さのまま、彼女は手を伸ばし、人差し指で相手の顔を指し示す。だが触れる直前、彼は落ち着いた動きでその手首をつかんだ。力任せではないが、しっかりとした感触だった。
彼の視線は彼女の手へと落ちる。驚くほどの集中力でそれを観察していた。小さな傷、かさぶた、ほとんど目立たない古い傷跡――最近の戦いの痕跡であり、彼女が隠そうとしていた証でもある。
「その手の様子を見る限り、かなり激しく能力を使っているようだな。」
彼の声は穏やかで、水のように静かだった。
それは単なる観察ではない。非難に近い言葉だった。ヒロインという仮面の裏にある現実を、彼は見抜いていたのだ。
素早い動きで、エレクトロバイト(Elektrobyte)は今度は相手の手をつかみ、先ほど彼が見せたのと同じ鋭い視線で観察し始める。
「傷は見当たらない。」
「跡もないし、能力の使用による変形もない。それに私たちのような体でもない。あなたはエヴォでもネオエヴォでもない……ただの普通の人間にしか見えない。」
その背後から、一人の人物がゆっくり近づいてくる。
ルーク(Rook)だ。体重はほぼ百キロに達する筋肉質の男で、スポーツウェア姿で目立たないようにしているつもりだが、むしろボディビルダーのように見えてしまっている。
上司が少年の手を握っているのを見て、彼は小声で忠告した。
「落ち着いてください、ボス。ここにいるべきじゃないのは分かっているはずです。誰かを危険にさらすわけにはいきません。」
「大丈夫よ。」
誇り高いヒロインは手を離さないまま答える。
「ただ少し聞きたいことがあるだけ。持ち場に戻って!」
ルーク(Rook)は不満げに息をつきながらも従い、静かにその場を離れた。
再び二人きりになる。
エレクトロバイト(Elektrobyte)は少年の手を握ったまま、頭の中で疑問を膨らませていく。そしてついに手を離した。
ペントリックス(Pentrix)は、苛立つヒーローのリーダーを見つめながら、ようやく彼女の求めている答えを与えることにした。落ち着いた声で言う。
「医者や救急隊員が人を助ける理由は何だと思う?
相手が善良な市民であろうと、ただの泥棒であろうと関係なく。」
罠を探すように考えた末、ヒロインは苛立った声で答えた。
「そんな話をしてるんじゃない。
あなたはヴィランでしょう。」
ペントリックス(Pentrix)の口元に、ほとんど気づかれないほどの微かな笑みが浮かぶ。
そして彼は、彼女の仲間を指さしながら付け加えた。
「君の隣にいる、あの大きくて不器用そうな男が見えるか?
教えてくれ。英雄的な行動のつもりで、これまで何回、公共の設備や家や車を壊した?
その損害を、何回自分で払った?」
彼はわずかに視線を落とし、続ける。
「もしかすると、その車は、ある貧しい男が何年もの犠牲の末にやっと手に入れたものだったかもしれない。
耐えがたい上司の罵声や叱責に何年も耐えながら、必死に働いて手に入れたものだったかもしれない。」
少し間を置き、さらに言葉を重ねる。
「それに君だって、ヴィランを止めるために他の国へ行ったことがあるだろう。
その国に入るためのビザは取ったのか?
それとも、ただ乗り込んで、その国のルールを破っただけか?」
彼の視線はまっすぐ彼女に向けられていた。
「教えてくれ。
それがヒーローのやることなのか?」
エレクトロバイト(Elektrobyte)は沈黙した。
二歩ほど後ろへ下がり、その場で立ち尽くす。返す言葉が見つからない。
その時だった。
近くにいた子どもたちの一団が彼らに気づく。
「見て!テレビに出てるヒーローだ!」
興奮した声で叫びながら、子どもたちは駆け寄り、憧れの名前を呼び始めた。
圧倒されたリーダーは、すぐに仲間の方へ向き直り命じる。
「行くわよ。もう十分よ。」
「じゃあ、あいつは?」とルーク(Rook)が尋ねる。
エレクトロバイト(Elektrobyte)は去る前に、もう一度だけ彼を見つめた。
そして張りつめた声で言い放つ。
「何もしない。
行くわよ。」
ペントリックス(Pentrix)はベンチに座ったまま、ヒーローたちが去っていくのを見送る。
彼らが振り返ったとき、彼はすでに人混みの中に自然に溶け込んでいた。
一方の彼らは、どれだけ普通の服を着ていても、どこか浮いて見える存在だった。
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それから数時間後。
太陽が地平線の向こうへ沈み、フレンテ・ウニドのメンバーたちは休暇を終えて基地へ戻ってくる。
ペントリックス(Pentrix)は静かに自室へ向かって歩いていた。
頭の中には、エレクトロバイト(Elektrobyte)との出会いが繰り返し浮かんでいる。
そのとき、彼の前にアーニャ・クリコワ(Anya)が立ちはだかった。
彼女はいたずらっぽい調子で近づく。
「ねえ、何か食べに行かない?」
楽しそうに尋ねる。
少年が彼女を見ると、彼女の予想に反して、彼の顔に小さな笑みが浮かんだ。
ためらうことなく、アーニャは彼の腕をつかむ。
彼はふと視線を落とし、アーニャの手を見る。
傷一つない。
傷跡もない。
何の損傷もない。
さっきまで向き合っていたライバルの手とは、まるで違っていた。
「ねえ、“ペンピ”。今日一日どうだった?」
彼女は自然な口調で尋ねる。
「どうしてそんな呼び方をするんだ?」
ペントリックス(Pentrix)がそう返す。
だがその声には、軽い抗議以上の感情はない。
二人は並んで廊下を歩き去っていく。
基地がいつものリズムを取り戻す中、静かに歩くその背中。
長い一日の終わりを告げる光景だった。
外の世界はヒーローとヴィランに分かれているかもしれない。
だがこの場所で、彼らはそれとは違うものを見つけていた。
それは――本物のつながりだった。
✦ 第4話 終わり ✦




