プロローグ
夜、街はずれの小さな公園。
黄色い街灯が淡く降り注ぎ、小雨が静かに降り続いている。
時折、空がかすかに光り、鈍い雷鳴が灰色の雲を照らし出す。
風が運ぶ空気は冷たく、どこか物悲しい。
ブランコに、ひとりの悪役が座っている。
彼はゆっくりと揺れながら、遠くを見つめていた。錆びた金属がきしむ音が、静けさの中でやけに耳につく。
足元の濡れた芝生には、ひとつの水晶玉が落ちていた。雨粒がその表面を伝い、まるで涙を流しているかのようだ。
静寂は、遠くから迫るパトカーのサイレンによって破られた。
無線から漏れるざらついた声、雑音にまぎれた指示。
やがて青と赤の警告灯が公園中を染め、ふたりの警官が車から降り立つ。銃を構え、ブランコの悪役を取り囲む。
「武器を捨てろ!動くな、さもなくば撃つ!」
警官の一人が叫ぶ。
悪役はびしょ濡れのまま、ただ静かに彼らを見つめていた。
その両手は血に染まり、雨水と混ざり合って地面にしたたり落ちる。
やがて、彼はかすかに口を開いた。
「……もう、逃げられない。始まってしまった。俺たちに、赦しはない。」
警官が一歩踏み出し、緊張した声で問いかける。
「何を言っている?変な真似はやめろ。聞こえているな?」
悪役はもう一度、同じように言った。
「見えたんだ……この先に待つ、暗い未来が。もうすぐ、そこまで来ている。」
警官が近づき、彼の手を取ろうとする。
しかしその瞬間、血が両方の手首から流れ続けていることに気づく。
「なんてこった……!」
彼は急いで無線を手に取る。
「こちらニューマン、ファミリーパークに至急救急車を!」
悪役が、そのまま崩れ落ちる。
血は雨水と混ざり合い、ゆっくりと地面を這い、やがてあの水晶玉に触れた。
その瞬間、水晶がほのかに赤く輝いたように見えた。
警官は必死に呼びかける。
「しっかりしろ……眠るな!すぐに助けが来る!」
悪役は息も絶え絶えに、最後の言葉を絞り出す。
「助けなど……来ない。罪からは、逃げられない。終わりは……避けられないんだ。」
警官は男の服を裂き、止血帯を巻こうとする。
しかし、赤い流れは止まらない。思わず空を見上げ、叫ぶ。
「頼む……神よ、どうか……!」
悪役は最期の力を振り絞り、応えた。
「神は……もう、俺たちの声を聞かない。失望させてしまった。神聖なものを……笑いものにしてきた。均衡は……もう壊れた。」
そして、かすかに笑みを浮かべる。
「秘密を……聞きたいか?」
弱々しい手で警官の後頭部を引き寄せ、耳元で何かをささやく。
次の瞬間、その手が地面に落ち、悪役は動かなくなった。
警官はゆっくりと体を起こす。目の前で、命が消えた。
駆け寄った相棒が、彼の表情を見て問いかける。
「……何て耳元でささやいたんだ?」




