好きかもしれない
23:00
森は静かだった。
静かすぎて、怖い。
木々の間を抜ける風の音が、まるで「呼吸」みたいに聞こえる。
枝の擦れる音が、誰かの爪みたいに耳を撫でる。
いつ異形が飛び出てくるか分からない
俺は歩きながら、頭の中だけで数を数えていた。
プリズム一輪車。
目玉だらけの野人。
タコの巨人。
ネプラキオン。
――四体、消えた。
消えた、という言い方が正しいのか分からない。
砕けて、ホログラムみたいに散って、どこかへ吸い込まれた。強制送還。宴のルール。
でも。
四体で、あれだ。
一体ずつでも、死にかけた。
ネプラキオンに至っては、ルルリサが庇わなければ、俺は今ここに立っていない。
それなのに、門で見た“有象無象”は――百体どころじゃない気がした。
見えないやつもいる。気配だけのやつもいる。空にいるやつもいる。
残っているのも、分かっているだけで厄介すぎる。
鏡の女王。
真っ赤な髪のアンドロイド。
……どうやって勝ち抜く?
どうやって、生き抜いて、日の出とともに頂上に辿り着く?
頭の中で答えが出ないまま、足だけが前へ進む。
前へ進むのは、逃げるためじゃない。今夜は、違う。
俺の横を、ルルリサが歩いていた。
闇の中でも、彼女は“形”が分かった。
金髪のロングポニーテールが、月明かりを吸ってさらりと揺れる。光っているわけじゃないのに、視線だけがそこに引っ張られる。髪の先が肩甲骨のあたりで踊るたび、夜の空気が少しだけ甘くなる気がした。
隕石みたいな甲冑は、金属じゃない。
硬くて静かで、触れれば冷たそうなのに、彼女の体温だけは奪えない。継ぎ目の線は細く、装飾は最小限。無駄がないぶん、逆に品が滲む。戦うための鎧なのに、ドレスみたいに彼女のラインを“綺麗に見せる”ように出来ているのがずるい。
彼女の線はとても女性らしい
背中の悪魔みたいな羽は、怖いはずなのに――可愛い。
黒い膜の縁が星屑みたいに微かに光って、羽ばたかなくても存在を主張する。強さの象徴なのに、彼女の後ろ姿をどこかキュートにしてしまう。危険と愛らしさを、同じ形で成立させている。
顔は小さく、造形が洗練されすぎている。
顎のラインはすっと細い。頬は柔らかいのに、幼さじゃない。上品で、余裕がある。目元はシュッとしていて、少し睨まれるだけで背筋が伸びるのに――それがたまに、ふっと緩む。
その瞬間が、反則だ。
瞳は緑。宝石みたいな緑。
深く透明で、光を溜め込んでいる。月の欠片みたいな白が、その奥でゆっくり沈んでいく。視線が合うと、見られているというより“選別されている”感じがするのに、同時に――抱きしめられてるみたいな温度も混ざる。
唇は薄めで、形が綺麗だ。
喋る時、言葉は冷たいのに、声はなぜか柔らかい。ツンとした言い方をするくせに、語尾がほんの少しだけ甘くなる瞬間がある。本人は絶対に気づいてない。気づいてないから、余計に色っぽい。
歩き方にも、育ちが出ている。
音を立てない。急がない。無駄がないのに、せかせかして見えない。腰の位置が高くて、脚が長いせいで、同じ速度で歩いても“流れている”みたいに見える。戦場の闇を歩いているのに、どこか都会の夜のランウェイみたいだと思ってしまうのが怖い。
彼女が隣にいるだけで、空気が変わる。
金属みたいな匂いと、雨の前のオゾンみたいな匂い。その奥に、ほんの少しだけ甘い香りが混ざる。香水なんかじゃない。彼女という存在の、体温の輪郭。
俺は目を逸らすべきだと思う。
こんな夜に、こんなことを考えるのは間違ってる。
でも――
ふいにルルリサが、こちらを見た。
緑の瞳が細くなって、いつもの“冷たい女神”の顔になるはずなのに。
一瞬だけ、照れたみたいに視線が泳いだ。
その仕草だけで、胸の奥が熱くなる。
神様みたいに綺麗で、悪魔みたいな羽を背負ってるくせに。
女の子みたいに、可愛い。
洗練されていて、危険で、色っぽい。
しかも、今夜――俺の隣を歩いている。
それが、いちばん不思議だった
色んなことが頭でぐるぐる回る
その時。
ルルリサが、唐突に言った。
「……ねえ」
声がいつもより小さい。
命令じゃない。注意でもない。
ただ、呼んだだけ。
「なに」
ルルリサは少し歩幅を落として、俺の横にぴたりと合わせた。
その距離が近いだけで、空気が変わる。
彼女は前を見たまま言った。
「……あなたのこと」
俺?
「……俺がどうした」
ルルリサは、ほんの一瞬だけ唇を結んだ。
言葉を噛み殺すみたいに。
そして――投げ捨てるように言った。
-------------「好きかもしれない」-------------------
世界が、また一回だけ静かになった気がした。
風の音も、葉擦れも、遠くの獣の鳴き声も。
全部が遠のいて、言葉だけが残る。
「……は?」
間抜けな声が出た。
脳が追いつかない。
今言ったのが、俺の聞き間違いじゃないのか確かめるのに、時間が必要だった。
ルルリサは、顔をこちらに向けない。
頬が月の光に照らされて、白い肌の上にほんの少しだけ赤みが差している。
「聞こえたでしょ。耳あるなら」
いつものルルリサだ。
突っぱねる言い方。棘。強がり。
でも、声の底が震えていた。
俺は口を開けて、閉じた。
胸の奥が、変な音を立てた。
心臓が乱れている。彼女が言っていた“気持ち悪い”やつだ。
どういうことだ?
何があった?
こんな時に。こんな場所で。こんな夜に。
俺は思う。
俺の頭の中には、家族がある
母さんの誕生日がある。
妹に買って喜ばせたい道具がある。
世界に異形を放ってはいけない責任がある
ルルリサを最後まで守らなければならない。
生き残らなきゃいけない理由が、ちゃんとある。
それに――ルルリサにも目的がある。
異界を救う。能力を集める。宴を平和に終わらせる。
俺は“ギガドロ”で、手札で、確保対象で、焦点で。
そんな俺に、好き?
あり得ないだろ。
普通なら、笑うところだ。
どこにそんな瞬間があった
でも、真剣なルルリサの顔を見ると笑えなかった。
ルルリサは、足を止めた。
俺も止まった。
止まるのが怖いのに、今だけは、足が止まった。
彼女はしばらく黙って、絞り出すように言った。
「……私、感情が得意じゃない」
「知ってる」
「知らないでしょ」
彼女はようやくこちらを見た。
宝石みたいな緑の目が、月明かりを反射していた。
その目が、いつもより“人間”の目をしている。
「……今まで、こういうの、なかった。邪魔なだけだと思ってた、そう教えられてきた」
「……心拍が乱れるってやつか」
ルルリサは目を細めた。
「それもね........」
「あと……あなたが最初に死ぬ気で私を庇ってくれた時、あなたが水を分けてくれた時。あなたが私を置いて逃げなかったとき。全部、理解できなかった」
「理解できないのに……好きって言うのか」
「うるさい。わかってるの!ばか」
「言葉の意味くらい分かる。アニメ見てたし」
「でも......それだけでか?」
俺は自分でも、情けない質問だと思った。
答えを聞いて、安心したい。
そんな甘えが、まだ残っている。
ルルリサは一瞬、視線を落とした。
「……私も嫌なのよ、この沢山の理屈を無視する感情が」
「でもね、もしかしたらこの後の戦いで死ぬかもしれないと思ったら、最後ぐらい自分の気持ちにちょっとは正直になりたくて」
「ずっとそうじゃなかったから」
その言葉が、腹の底に落ちた。
彼女がそれを口にした瞬間、俺の中で何かが変わった。
「私、あんたみたいなやつ、会ったこと無い」
ルルリサの声が、少しだけ柔らかくなる。
「強い存在はいっぱいいた。賢い存在も。残酷な存在も。狡い存在も」
「でも……弱いくせに命がけで私を守ってくれるやつはギガドロと家族だけだった」
俺は息を飲んだ。
それは褒め言葉なのか、呪いなのか分からない。
弱い。そうだ。俺は弱い。
それでも、逃げないって決めた。
決めたばかりだ。まだ弱いんだ、何も達成すらしてない
ルルリサは唇を噛んで、言い放つように続けた。
「だから、嫌なのよ」
「……嫌?」
「だって、邪魔。使命の邪魔になる。判断が鈍る。心拍が乱れる。気持ち悪い」
口では悪態。
でも目は、逃げていない。
その矛盾が、妙に色っぽく見えた。
色っぽい、なんて言葉を当てるのも不敬かもしれない。
でも俺は、そう感じてしまった。
夜の森。
死と、剣と、異界の王たち。
そんな中で、目の前の女神だけが“温度”を持ち始めている。
俺は怖くなった。
今ここで、何かを得たら、失うのも怖い。
失うのが怖いなら、最初から持たなければいい。
でも、もう遅いのかもしれない。
さっき剣を握った時みたいに。
「侵入する」って言ってた。叡智が。
感情も同じなんじゃないか。
ルルリサは一歩近づいた。
距離が詰まる。
月の匂いみたいな、冷たい綺麗な匂いがする。
雨の前の金属、オゾン、夜空の匂い。
彼女は俺の顔を見ている。
「……ねえ」
「なに」
「キスしていい......?」
俺は一瞬、固まった。
ルルリサは、とろけるような顔で近づいてくる。本気の顔だ
物凄くドキドキする。心臓がおかしくなりそうだ
「あ......え......あの.....」
ルルリサの瞳が、微かに揺れた。
「……ばか」
いつもの言い方。
でも、その“ばか”は、とても甘かった。
ルルリサが、手を伸ばした。
冷たい指が、俺の頬に触れる。
指先が細くて、意外と柔らかい。
甲冑の硬さと、指の柔らかさの差が、余計に現実感を与えた。
俺は動けなかった。
ルルリサは美し過ぎる
ルルリサは、息を吸って、吐いた。
それから――唇を近づけてきた。
「……一回だけ」
そう言って、彼女は目を閉じた。
月の光を纏ったまつ毛が、震えている。
ツンとした女神の顔が、今はただの女の子みたいに見える。
俺の中で、母さんと妹の顔が浮かぶ。
“生き残れ”
“やり直せ”
“守れ”
全部、正しい。
でも――
“この感情”も、正しいんじゃないか?
人生でずっとしてこなかったもの。
触れたら壊れると思って避けてきたもの。
自分には縁がないと思っていたもの。
それが、今、目の前で手を伸ばしている。
俺は、答えを出せなかった。
出せないまま、ルルリサの肩にそっと手を置いた。
甲冑の端に指をかける。
そして――
---------------唇が触れた。--------------------
冷たい。
柔らかい。
甘い吐息
すごく幸せだ
なんで皆が恋愛をするのか、家族を作るのか分かった気がした
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、世界の恐怖が遠のいた。
異形も、宴も、剣も、ルールも。
全部が遠くなる。
代わりに、胸の奥が熱くなる。
俺は、手が震えた。
ルルリサはすぐに離れた。
離れるのが早すぎるくらいに。
そして、いつもの顔で言った。
俺は言った
「ルルリサ、生き残ろう」
言葉にすると、少しだけ現実になる気がした。
ルルリサは、俺の目を見た。
緑の目が、さっきより少しだけ柔らかい。
「……生き残ったら」
彼女が小さく言った。
「一緒に居てくれる?私も他の全部も守ってくれる?」
「……あぁ必ず。」
言い切ってしまった。
-----俺の運命は遙に果ての無い道へ進む様な気がした-----
ルルリサは一瞬だけ、子どもみたいに目を丸くした。
それからすぐに顔を背けて、ぶっきらぼうに言った。
「みんな助ける。その為に強くなって生き残る」
「当たり前よ。死んだら許さない」
彼女の羽が、かすかに震えた。
星屑みたいな光が、縁で揺れる。
その時だった。
空の“目玉”が、同時にピクンと跳ねた。
ルルリサの表情が、瞬時に戦闘の顔へ戻る。
甘さが、切り落とされる。
「……来る」
ルルリサは口を閉じて、耳を澄ませる。
そして――森のどこかで。
パチン。
拍手みたいな音が、もう一度鳴った。
今度は、近い。
すぐそばじゃない。
でも、“観客”が距離を詰めたのが分かる。
ルルリサが、俺の腕を掴む。
さっきのキスより強く、現実の力で。
「見られてる。……あなたも、私も」
「……ああ」
俺は剣を抱え直した。
剣が、また胸の奥を叩く。
“次”が来る。そう言っている。
ルルリサは、低く言った。
「恋は、後ね」
「分かってる」
「分かってない顔してる」
「……してない」
「してる」
カップルの言い合いみたいな会話が、逆に俺を落ち着かせた。
ルルリサが息を吸う。
その時だった。
ものすごい笑い声が聞こえ、聞き覚えの無い声が響く
「はははははははっっっ!!!!!ギガドロの宴でキスするやつら初めて見たし」
次の瞬間
目の前に、カンフーやチャイナドレスみたいなカラフルな服を着た、真っ白なゾンビの様な女の子が立っていた。
髪は足まで長くグリーンで艶がある
体は時々透明になる
「あんた誰!?というか........さっきの見てたの」
ルルリサが顔を真っ赤にして言う。つられて俺も顔が真っ赤になる
目の前の強大であろう敵より、自分たちのやり取りを見られてた事に無性に焦っている。
「あ.......私、んーーー別の世界の冥府のとある場所の王って感じ。あっ違う.....可愛い冥府の王。」
「その名も、リリリルルド・ネザ」
冥府の王という肩書に、ルルリサは冷や汗を流す
「あと、チュ―見てたって言うか、最初からみてたよ。あんたらのそこの坊主が儀式する所から。あほやろ?」
「てかこんなときにチューすんなよ。チューカップルが」
「恋はあと?............やって ははは!!! まじ笑えるは最高でっしゃろ
エロ あんたらエロ 後、違うやろ 、今が一番甘いのに」
俺とルルリサは言い返せず赤面して涙目になった
--------------------------つづく---------------------------




