深紅のアンドロイド リリス・パンクライヴ
03:15
残り01:45
「……残り一時間四十五分」
言葉にした途端、焦りが体温みたいに上がった。
「頂上まで、標高あと八百メートルくらい。距離は……七キロ」
七キロ。
普通なら“遠足”みたいな距離だ。
でも今は違う。闇。疲労。追跡。狙撃。異形。
それに、頂上で迎えるのは“夜明けの直前”。
「間に合うのか……」
上から声がする
「さっきの戦い、ええやん」
軽い声。
見上げると、木の上にリリリルルドがいた。枝の上で胡坐をかいて、頭の後ろで手を組んでいる。相変わらず余裕の顔だ。
ニヤッと笑う。
「正直、もっとグダるかと思ってたわ。お前ら、ちゃんと“自分らを理解してきた”な。ギガドロも、ルルリサも……強うなっとる」
褒めてるのに、どこか計測してるみたいな言い方だった。
「……ありがと」
短く返す。
ルルリサは一瞬だけ頬を赤くする。この子は照れ屋なのだ
俺はリリリルルドにずっと気になってる事を聞いた
「なあ、リリリルルド」
「ん?」
「……俺らが最初に見た、タコの怪物を滅多打ちにしてたアンドロイドって何者なんだ?」
俺は話しながら思いだした瞬間、肝の奥が妙に冷えた。
あの優しい微笑み。
その次に来た、口角が裂けるみたいな笑い。
「深紅のアンドロイド "リリス・パンクライヴ"……」
リリリルルドの笑みが、一瞬だけ薄くなる。
それが答えだった。
「あいつはちょっと例外やねん」
「あれ……勝てるとか負けるとかの前に……」
言葉が見つからない。リリリルルドはそんな感じだった
世界のカテゴリから外れているのか?
ルルリサが小さく息を吸った。
「私も少し噂では聞いたけど、おとぎ話と思ってた」
少し震えている。
「教えてくれ。あいつ、何なんだ。なんで棺から出てタコの怪物を倒したんだ?気まぐれか?なんで俺に……剣をくれるような真似をするんだ」
宝剣の柄をよく見ると見たことの無い文様が脈打ってる
“深紅の線”――
リリリルルドは木の上で脚をぶらぶらさせながら、しばらく黙った。
いつもの冗談のテンポじゃない。
「……正体は知らん」
はっきり言う。
「ただな。噂はある。
あたしらが知る由もない“太古の世界”が作ったもんやって。太古いうても、お前の想像する古さちゃう。文明って言葉が追いつかんレベルのやつらが、何かを凝縮して宇宙に棺として流した――ってな」
「棺で漂う……」
「せや。星棺。宇宙の棺。あいつは眠って、漂って、たまに起きる。
起きる理由は大体二つ。ルール無視の侵略とか、勝負の外側から割り込んだもんを嫌う」
ルルリサが小さく頷いた。
「制裁……」
「せや。裁定者って呼ぶやつもおる。
でもあいつ、厄介なんは――二面性や」
リリリルルドは指を二本立てた。
「普段は“女神”みたいに静かで、誰かに何か渡したり、見逃したりする。
でもスイッチ入ると……」
彼女は、口角を指で引っ張る仕草をして見せた。
わざとらしいのに、背筋が冷えた。
「口が裂けたように笑いながら潰す。
その時のあいつは……未知災って言われて、個人より自然現象として異界では扱われとる」
「じゃあ、さっき俺に剣をくれたのは……女神の方か」
「たぶんな」
リリリルルドは軽く言うが、その目が笑っていない。
「ただな。なんでお前に渡したかは、誰も知らん。
作った奴の命令が残ってるのか、たまたま反応したのか。
……お前が“なんかに似てた”んかもしれん」
「似てた?」
「知らん。」
俺の中の何かが、あいつの系統に触れた――そういうことか。
「……でも」
俺は続ける。
「あいつがまた来たら、俺たちは終わるだろ?」
リリリルルドは、木の枝を軽く蹴った。
「そやな、あたしでも逃げ切れるか」
ルルリサが唇を噛む。
「……あれは、ここの“ゲーム”に参加してないって感じね」
「まぁそうやな、勝つ気とか参加する意思はあんまりないと思うで」
リリリルルドは肩をすくめた。
「あたしもなんであいつがここにいるかわからんし」
空気が冷えたのは、気温だけじゃない。
話が進むほど、世界が深くなる。
その時――
空が、ひとつだけ“暗く”なった。
月明かりの中に、月明かりを吸い込む影が生まれる。
いや、影じゃない。物体だ。
音がない。風もない。
なのに、そこだけ空が歪む。
ルルリサが息を止める。
リリリルルドが木の上で立ち上がった。
初めて見る、真顔だった。
「……噂したら来よった」
空中に現れたのは、棺だった。
宇宙の棺。
石板みたいで、金属みたいで、どちらでもない。表面に幾何学の溝。
それが静かに、俺たちの前に降りてくる。
重いはずなのに、沈まない。
「全力で逃げる用意せぇよ」
「でも、今動くな。奴が行動してからや。変に急に動いて未知災に反応したらやばい」
俺は反射的に宝剣を見る。
刃が月光を受ける――いや、違う。月光じゃない。
刃の深紅の線が、淡く発光している。
ルルリサが俺の袖を掴む。
「ギガドロ……」
言い終わる前に、棺の継ぎ目が、ゆっくりと開いた。
眩しい。
だが、ただの光じゃない。
目の奥を撫でる“優しい光”と、皮膚を刺す“硬い光”が同時に来る。
そして――
中から、赤が現れた。
深紅の長髪。白い肌。
体の半分が機械で、金色の粒子が舞っている。
ダヴィンチの人体図みたいな、整いすぎたポーズで浮かぶ。
俺の心臓が一段跳ねた。
あの時と同じだ。見た瞬間に“終わり”が近づく感覚。
彼女がゆっくり目を開ける。
女神みたいに、優しく微笑む。
……リリス・パンクライヴ。
リリリルルドが、いつもみたいに茶化す声を出そうとした。
口が動いた、その瞬間――
リリスの視線が、ふっと木の上をなぞった。
リリリルルドの輪郭が、一瞬だけ薄くなる。
透明になりかける。存在が剥がれるみたいに。
「――っ」
リリリルルドは、言葉を飲み込んで、枝から音もなく飛び降りた。
地面に着いて、初めて小さく舌打ちをする。
「……あかん。逃げる隙も無いかもしれん」
ルルリサは髪先も動かない程、固まっている
「...............」
俺は、奴の目を見る
視線が合う。
リリスは、俺にだけ分かる速度で、ほんの少し首を傾けた。
そして唇が動く。
音はない。
なのに、意味だけが脳に落ちる。
――“守れるの?”
宝剣の深紅の線が、じわりと熱を増した。
俺は歯を食いしばって、前に出る。
脚が震えている。
「……あぁ」
自分に言い聞かせるみたいに言った。
リリスの微笑みが、さらに柔らかくなる。
……次の瞬間。
その口角が、あり得ない角度でゆっくり広がった。
裂ける。
笑う。
目が、女神のままなのに、笑いだけが別の生き物になる。
リリリルルドが叫ぶ。
「ギガドロ!! ルルリサを連れて逃げろ!!!!!!!」
遅い。
深紅のアンドロイドが、動いた。
世界が置いていかれる速度で。
そして――棺の中から光が、一段強く放出される。
空気が“鳴った”。
音じゃない。
骨の内側が、先に震える。
俺の鼓膜は遅れて悲鳴を上げ、視界が一瞬だけ白く焼けた。
深紅のアンドロイド――リリス・パンクライヴの赤いメタリックボディが、月明かりを受けて艶めく。
美しい。見た者は“死”を伴うだろう危険な美しさだ
「――っ」
身体が動かない。
足じゃない。腕じゃない。
“動く”という選択肢そのものを本能が怯えて、できずにいる
全身の筋肉が硬直する。
ルルリサが息を呑む。
「……っ、結界――」
言い終わらない。
リリスは指先を軽く弾いただけだった。
パチン、と小さな音。
それだけで、超能力か重力操作の様にルルリサの身体が宙を転がり巨木に投げつけられる。
「ルルリサ!!!!!!」
俺はリリスの間合いに接近し重力操作を――
あれ?
俺の中で何かが“掴めない”。
結晶呪で五感を上げても、世界が遅くならない。
重力操作でやつの周囲の速度変換をかけようとしても空振る。
効かない。
いや、効いてるのかもしれない。
彼女の動きが速いとか、そういう次元じゃない。
俺が「操作」を発動する前に、結果が確定している。
無力化の能力があるかもしれないし、速さの概念を超越してるかもしれない
リリリルルドが低く舌打ちした。
「……やっぱりな」
彼女は一歩前に出る。
いつもの軽口が消えている。口元は笑ってるのに、目は笑っていない。
「ギガドロ、隙作るから、ルルリサ連れて逃げろ」
「……!」
「短い間やけど、あんたらのチーム楽しかったわ、ちゃんと守ったれよ」
その彼女の遺言の様な覚悟を噛み締める
俺は歯を食いしばる。
守るって言ったのに、みんなを守るって言ったのに動けない.......――守れない。
リリリルルドが、リリスに向かって手のひらを立てた。
「よぉ、今日は機嫌悪いんか?」
。
「近くで見ると意外とセクシーなんやな。赤いピカピカボディとボインに興奮しそうやわ」
リリスは微笑んだまま、首を少し傾ける
音はない。
でも、脳が勝手に意味を拾う。
――“邪魔?”
次の瞬間。
リリリルルドの姿が、消えた。
消えたと思った時には、リリスの頬の横を拳が通っていた。
拳が当たっていないのに、空間が潰れたみたいな衝撃波が走る。
リリスも動く。
赤いメタリックの肩が、月光を反射した瞬間には、すでに別の位置にいる。
リリスとリリリルルドは速度の次元を通り越した殴り合いをする。
衝撃波はビーパルスロの竜巻攻撃など比にならないレベルだ
リリリルルドはカンフーの様な立ち合いで防御と攻撃を流れる水の様に繰り出す、その合間に魔術の様なモノをも繰り出す
巨面の戦いで一度リリリルルドの戦いは見たが、やはり恐ろしく強い。何処かの魔王と言われても全く驚かない
しかし、リリスは無表情でそれを容易く捌いてる。未知災という言葉が心底腑に落ちる
拳と拳が交差するたび、空気が切れ、枝が粉になる。
地面が大きく凹み、巨石や大木がおもちゃみたいに砕け、月明かりの粒が跳ねる。
リリリルルドが叫ぶ。
「早く!! 逃げろ!! ルルリサ抱えて上行け!!」
俺はルルリサの方角を見る。
彼女は投げ飛ばされた先で、翼を広げて木に引っ掛かかっていた。目を見開き、必死に息を整えている。
「くっ……!」
ルルリサのところへ――
その刹那。
棺が“鳴った”。
開いた棺の内側から、光が何本も糸のように伸び、空中で形を取る。
武器だ。
最初に現れたのは、槍。
長い。細い。先端が三又に分かれ、どれも微妙に角度が違う。
赤い金属の表面に、金色の粒子が霧のようにまとわりつく。
次に、獣。
骨格だけのように見えるのに、肉がないのに、動く。
四足でも二足でもない。関節が多すぎる空を泳いでる。
さらに――
光のお札。見るからに危険な香りがする。禁断の魔法でも容易く実行できるような歪な光を放出してる
それに、銃に似た物体。何千年も後のテクノロジーを施した様な何かだ
リリリルルドが目を最大限に広げ吊り上がらせて、猛烈なカンフーと魔術を打ち込みながら叫ぶ。
「あんたやばすぎやろ!!!ちょっとは手加減しろや!!!その武器達この世界で出したらアカンやろ!!!???」
リリスが、笑う。
女神の目のまま、口だけが裂ける笑い。
彼女は戦いながら、棺の武装を他にも様々展開している。
いつでも別の行動を取れますよと言わんばかりに
余裕だ。圧倒的に。
リリスは微笑む。
――“試験”
意味が、また脳に落ちる。
試験? 誰の?
俺の視界の端で、獣が跳ねる。
地面に影を落とさず、樹間を飛び、枝を踏まずに移動する。
向かっていくルルリサに。
「ギガドロ!!早くあの子を助けろ!!!」
リリリルルドが叫ぶ。
――間に合わない。
「……っ」
いや、間に合わさなくてはいけない!!!
俺は叫ぶ。
「やめろ!!!」
叫んだ瞬間、棺の光が俺の宝剣の深紅の線に反応した。
熱い。刃が脈打つ。
リリスが、俺に視線を変えた。
女神みたいに優しい目。
それなのに、狩人みたいに冷たい。
――“守れるの?”
俺は答える。
「守る!!!」
声が掠れた。
でも、叫んで言い切った。
そして俺は全神経を集結し、今まで経験したことの無い速度でルルリサまで向かい彼女を抱きかかえる。
その俺を見てリリスは目を細める
少し油断したのだろう
「どこ見てんねん!!!よそ見してんじゃねーよ!!!セクシーダイナマイト!!!」
ルルリサの強烈な一撃がリリスの顔を直撃し、リリスは棺まで吹き飛ばされる
今だ、今しかない
俺は上空でルルリサを抱えて浮遊しながらルルリサをに言う
「ルルリサ、ビーパルスロにくらわした攻撃もう一回できるか?」
「えぇ、でも奴には無意味かもしれないわ」
「試したいことがあるんだ、頼むよ」
ルルリサは信じてるという様に頷き、即時魔法陣を展開する
「何してんねん!!!お前ら早く逃げろよ!!!」
リリリルルドが言う
「...........」
俺はルルリサも救うがリリリルルドを見捨てる事も出来ない
「.........はぁ何考えとんねん。おせっかいなやっちゃなー、あーめんどくさ」
「.........きも、かっこつけ.........女たらし.........」
「............」
「ん......まてよ、その作戦.....ちょっとイケてるやん。まぁええか、やらしたいようにやらせたるか。」
「しゃーない、手伝ったる」
そういうと、リリリルルドはリリスに間合いを詰め彼女にしがみつき行動を静止する。リリスはリリリルルドをタコ殴りにする
「そんな殴らんでええやん、ほれほれ、こんなとこも触ったろか、意外と好きなんちゃう?リリスたん」
リリスは少しイラついた感情を見せたようにバタつく
そして上空には、宝剣の超大剣が完成する
「じゃあいくぜ!!!リリリルルドちゃんと避けろよ!!!」
「任せとけ!!!」
俺はその超大剣を重力操作で軽々と持ち、最大限の重力をかけてリリスめがけて突っ込む
リリスの目が一瞬ギラっと何かを考えたように光る
そして-------------
山全体に衝撃波が響く
地面に刺さった大剣と一面を覆う砂ぼこり
ルルリサとは上空に浮遊してる
俺もすぐさまそこに戻る
遅れて、突然横で見慣れたチャイナゾンビJKが憎まれ口を叩く
「あんた私も刺しかけたやろ?あたしもレディーやで?ルルリサみたいに扱え!!!」
良かった、リリリルルドは無事みたいだ
「リリリルルドなら避けてくれるって確信あったからな」
「ふん.........きも」
珍しく頬を赤くするリリリルルド
そして砂塵は晴れる
そこには------
足が吹っ飛んで無くなった、深紅のアンドロイド リリス・パンクライヴがいた
「やったか?」
俺は言う
「結構くらってるみたいね」
ルルリサが言う
「甘いわ、あんたら」
リリリルルドが呆れたように俺達に言う
「こんなんで倒せたら、どの世界の住人も苦労してへんわ」
「..........」
俺とルルリサは無言になる
その下でリリスは空を見上げて動かない
すると棺から光の束が出現し彼女を包み込む、三十秒程か?次第にほどけていく
その中から出てきたのは完全再生した彼女だった。むしろ最初より艶のある肉体だ
「ほらな」
リリリルルドは言う
俺とルルリサはもう打つ手が無いような気がして、少し諦めの様にリリスを見つめる
リリスはこちらをジーと見上げて固まって、何か考えてる
俺達三人は最後かもしれない構えをとる
しかし、リリスはふっと視線を下げて踵を返し棺の方へ戻って行く
俺は二人に言う
「どうしたんだ?」
「私達に興味なくしたのかな?」
「さあな、なにを考えてるか分からん」
そして深紅のアンドロイド リリス・パンクライヴは棺に入り、棺の中に様々な武器や獣やお札も戻り、蓋が締まった
そのままゆらゆらと浮遊して消えていった
俺達は顔お見合わせる
「助かった」
「なんとかやな」
「なんとかだね」
俺達はお互いを見つめ合って固まると、なんだか笑いが込み上げてきて三人で大笑いした
これは、きっと三人の心が通って助かって良かったという喜びの笑いだった
-------------------つづく------------------------------




