表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/65

好きの矢印、交差点

無理

好きの矢印、交差点

「……何しに来たの……」


 せなは、ベッドの端に座ったまま、うつむいていた。

 夕焼けがカーテン越しに差し込み、部屋の空気をやわらかく染めている。

 その光の中で、せなの目元は赤く、声はかすかに震えていた。


 あおばは、ドアの前で立ち尽くし、視線を落としたまま、ぽつりと呟いた。


「……ごめん」


「……何に謝ってるの。あおばは……何も悪くないのに……」


 せなは、唇を噛んだ。

 あおばは、何も知らなかった。

 みのがあおばを好きなことも、私がそれを知っていたことも。

 全部、私が勝手に抱えて、勝手に黙ってた。


「……でも、俺のせいで……せなが泣いてるのは、事実だろ」


「……!」


「さっき、みのの声、聞こえたんだ。

 “さようなら”って……。

 俺、何か間違えたのかって思って……」


 あおばの声が、かすかに震えていた。

 せなは、胸の奥がぎゅっと締めつけられるのを感じた。


「……私が悪いの。全部、私が……」


「違う!」


 あおばが、思わず机を叩いた。

 乾いた音が、静かな部屋に響く。


「俺が、せなに頼んだからだろ。

 クッキー作り、手伝ってって。

 それで、何かしら合って、こうなったんだろ……?」


 あおばは、拳をぎゅっと握りしめていた。

 その目は、どこか悔しそうで、でも優しかった。


「……俺、みのにちゃんと話してくる。

 誤解されたままなんて、嫌だから」


「え、ちょっと待って、あおば――」


 せなが止める間もなく、あおばは部屋を飛び出していった。


---


 あおばは、みのの部屋の前で深呼吸をひとつ。

 そして、ノックもそこそこに、ドアを開けた。


「みの!」


「……あおばさん……?」


 みのは、ベッドに座っていた。

 目元は赤く、手にはハンカチを握りしめている。


「いきなりごめん。……でも、ちゃんと話したくて」


「……何を、ですか」


「今日、せなと一緒にいたのは……これを作ってたからで……」


 あおばは、ポケットからそっと、ピンク色の袋を取り出した。

 “アイラブユー”の文字が、夕陽に照らされてきらめく。


「え……それ……」


「クッキー。……みのに渡したくて。

 でも俺、料理苦手だから……せなに手伝ってもらってたんだ」


 みのは、目を見開いたまま、袋を受け取った。

 頬がじわっと赤く染まっていく。


「……私のために……?」


「うん。……だから、せなは何も悪くない。

 むしろ、俺のために、すごく頑張ってくれてた」


「……私……せなさんに、ひどいこと言っちゃった……」


「今から謝れば、きっと大丈夫だよ。……せな、待ってると思う」


 みのは、うなずいた。

 でも、ふと袋を見つめて、みのがぽつりと呟いた。


「……この袋、“I love you”って……書いてありますけど……//」


 あおばの肩が、ぴくりと跳ねた。


「ち、ちがっ……! これしか売ってなかったんだよ! べ、別に……意味とかないし……! ……ちょっとだけ……いいなって……思ったけど……」


 みのが袋をくるくると回しながら、にこにこしている。


「でも……これ、すごく可愛いです。

 ハートいっぱいで、真ん中にI love youって……」


「や、やめろって……! 読むなって……!////」


 あおばは、顔を真っ赤にして、思わず後ろを向いた。

 耳まで真っ赤。首の後ろまで赤くなってる。


「……ちょっとだけ、“いいな”って思ったんですよね?」


「ちょ、ちょっとだけだよ!? ほんのちょっと! ほんの……! ……0.5秒くらい……!」


「ふふっ、0.5秒もあれば十分です」


「うるさいなぁ……! もう、やめろって……!////」


 あおばは、顔を両手で覆って、壁に向かって小さくうずくまった。

 その背中がじわじわ赤くなっていくのが、なんだか可愛くて。


「……あおばさん、ほんとに……可愛いです」


「……っ、だからやめろって言ってんだろ……!////」


 その声は、どこかくぐもっていて、

 でも、怒ってるというより、照れ隠しの必死さがにじんでいた。


「……でも、嬉しかったです。

 この袋も、クッキーも、全部……あおばさんの気持ちが詰まってて」


「……っ……」


 あおばは、しばらく黙ったまま、壁に額をつけていた。

 そして、ぽつりと呟いた。


「……俺、こんなに照れると思ってなかった……」


「ふふっ。じゃあ、もっと照れさせたくなっちゃいますね」


「やめろって……! マジで……!////」


 みのは、くすくす笑いながら、袋を胸に抱きしめた。

 そして、そっと言った。


「……行ってきます。ちゃんと、謝ってきますね」


「……ああ。行ってこい。

 ……許してもらえなかったら、俺が土下座するから……」


「ふふっ、じゃあ安心ですね」


 みのは、にこっと笑って、軽くスカートの裾を揺らしながら、

 せなの部屋へと小走りで向かっていった。


 あおばはその背中を見送りながら、

 ひとり、壁に額をつけたまま、真っ赤な顔でぼそっと呟いた。


「……“I love you”って……マジで、やばいだろ……」


 みのが、行った後、あおばは照れまくっていた。

 

 ――


 みのは、部屋を出てせなの部屋まで駆ける。


「せなさん!」


「へ……?」


 振り返ると、せなはベッドの端に座っていた。

 目元は赤く、頬には乾きかけた涙の跡。


「ごめんね……せなさん……。

 私、ひどいこと言っちゃって……」


「……ううん。私こそ、ごめん……。

 好きな人、奪うつもりなんて……なかったのに……」


「……あおばさんから、聞きました。

 私のために、クッキー作ってくれてたって……」


 せなは、少しだけ手を震わせながら、でもまっすぐに言った。


「……じ、じゃあ……これからも……親友でいてくれる……?」


「もちろんです!」


「……! よかった……!」


 ふたりは、ぎゅっと抱きしめ合った。

 夕焼けの光が、ふたりの背中をやわらかく包んでいた。


「……いいなぁ……な、あおば」


「……そうだな……」


 廊下の角から、こっそり覗いていたふたり。

 その背中越しに、同じことを思っていた。


 ――俺たちも、せな・みのを、ぎゅっと抱きしめてみたい……と//。


---番外編:せなとあおばの夜の会話


 夜。

 クッキー作戦も、誤解も、全部終わって。

 静かな部屋に、せなとあおば、ふたりきり。


 ソファに並んで座るふたりの間には、ほんの少しの距離。

 でも、空気はどこか、くすぐったい。


「……っていうかさ、せなって、泣くんだな。ふーん……」


「泣いてたのは、感動のラストでしょ。

 今はもう、余裕しかないけど?」


「……なんだよその言い方」


「だって、今照れてるのはあおばの方だし」


「は? 俺は別に……」


「“I love you”の袋、選んだときの顔、真っ赤だったけど?」


「なっ……! あ、あれは……! あれしかなかったんだってば……!」


 あおばは、思わずクッションを抱えて顔を隠す。

 耳まで真っ赤。首の後ろまで赤くなってる。


「ふふっ。あのとき、“ちょっとだけいいなって思った”って言ってたよね?」


「お前、覚えてたのかよ……!」


「うん。あおばの“ちょっとだけ”って、だいたい本気だし」


「ちがっ……! ちょっとはちょっとだろ! 0.3秒くらいの……!」


「0.3秒も“いいな”って思ったら、それはもう“好き”ってことだよ」


「勝手に定義すんな!!//// ……確かにみのの事……すきだけどさ……」


 あおばは、ソファの背にもたれて、顔をそらす。

 でも、目の端が泳いでいて、完全に動揺していた。


「……ていうか、せなってさ。

 なんでそんなに平然としてんの?

 俺があんな袋持ってたら、普通ちょっとは照れるだろ……」


「だって、渡すのはあおばでしょ?

 私はただのサポート。

 照れる理由、どこにもないし?」


「……くっそ……! なんか悔しい……!」


「ふふっ。あおばが照れてるの、レアだから見逃せないんだよね。……最近はめっちゃ見るけど」


「お前、ほんと性格悪い……!」


「でも、そういうとこも、ちょっと好きだけど?」


「っ……ばっ……! お、お前、今なんて……!」


「ん? なんでもなーい。

 あおばこそ、なんでそんなに焦ってんの?」


「焦ってねぇし!! ……ちょっとびっくりしただけだし……!」


「ふーん。じゃあ、もう一回言ってもいい?」


「や、やめろって……! マジで……!////」


 あおばは、クッションをぎゅっと抱きしめたまま、ソファに沈み込む。

 せなは、その様子を見て、にこにこと笑った。


「……あおばって、ほんと可愛いね」


「……うるせぇ……。

 お前、ほんと……ずるいんだよ……」


「ありがと。褒め言葉として受け取っとく」


「褒めてねぇよ……!」


 ふたりの笑い声が、夜の静けさに溶けていった。

 月明かりの中、ふたりの影は、そっと寄り添っていた。

 そして、その後、あおばは恥ずかしくなって部屋を出た。

 その後、せなはつぶやいた。


「私だって……しゅいの前では……照れちゃうな……// でも……あおばも中々……//」


 でも、これは誰にも秘密。

 照れてるところは、彼氏にしか見せないつもり。

 ま、彼氏今いないけどね。


 (しゅい、出せなかったー!!!!!!)

 


 

 

 

 

2026年も、私のお話をどうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ