表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/67

寝落ち姫と慌てる騎士たち

無理

寝落ち姫と慌てる騎士たち

 車が走り出してから三時間。

夕方の光はすでにオレンジ色に傾き、

街の影が長く伸びていた。

ホテルの看板が見えた瞬間、せなは大きく伸びをした。


「疲れた……」


 フロントでチェックインを済ませ、

三人はエレベーターに乗り込む。

静かな音楽が流れ、上昇するたびに胸の高鳴りも少しずつ増していく。


「402号室だって」


「おっけ」


 廊下はホテル特有の柔らかい照明で、

絨毯が足音を吸い込んでいく。

扉を開けると、ふわっと温かい空気が流れ出た。


 広いリビング。

大きな机と四つの椅子。

新品みたいに光るキッチン。

そして、奥には八人は入れそうな大浴場のようなバスルーム。


「さすがホテル!」


 せなはベッドにダイブし、ふかふかの感触に顔を埋めた。


「まぁ……いいんじゃね? ……あ、買い出し行かないと」


 なぎとが思い出したように言う。


「じゃあ、男子二人組買ってきてくれない?」


「せなは?」


「私、一回お風呂入りたい。運転して疲れた」


「ま、いいよ」


 二人は渋々ながらも外へ向かった。


「よーし……」


 せなは服を脱ぎ、

しっかりとバスタオルを巻いてから浴室へ入った。

湯気がふわっと立ち上り、

照明が水面に反射してきらきら揺れている。


 体と髪を洗い、

大きな湯船にそっと身を沈める。


「気持ち……」


 肩まで浸かると、

今日の疲れが溶けていくようだった。


「温泉もあるって書いてたし……明日はそっち入ろ……。

 でも……これだけで満足かも……」


 湯気の中でまどろむように目を細める。


「眠くなってきた……でも寝たらダメ……」


 そう思いながらも、

温かさに包まれた体はどんどん重くなっていく。


「もう無理……」


 ぽつりと呟いた瞬間、

せなの意識はふっと途切れた。


 買い物袋を提げて戻ってきたしゅいとなぎとは、

玄関で靴を脱ぎながら声をかけた。


「せなー、買ってきたぞー……って、いない?」


「もう出てると思ったけど……」


「せなー!」


 呼んでも返事はない。

二人は顔を見合わせ、同時に浴室へ向かった。


 扉を開けると――

「……いた」


「……寝てるな……」


 湯気の向こうで、せなはバスタオルをしっかり巻いたまま、

湯船の縁にもたれかかって静かに眠っていた。


 けれど、頭がゆっくり前に傾いている。


「やば……! このままだと顔が水に……!」


 しゅいが青ざめる。


「早く助けねぇと……!」


 二人は慌てて浴室に入る。

湯気が視界を曇らせ、心臓が跳ねる。


「ど、どうやって運ぶんだよ……!」


「落としたら危ないし……慎重に……!」


 しゅいは必死に考えるが、

なぎとはなぎとで、顔を真っ赤にしながら固まっていた。


「……なぎと、顔赤すぎじゃね?」


「う、うるせぇ……! だって……

 こ、こんな……無防備な……っ……!」


「分かるけど! でも今は助けるのが先!」


「分かってるよ!! でも……心臓が……追いつかねぇ……!」


 なぎとが珍しく素直に弱音を吐く。


「なぎとが足の方持って。俺が頭の方持つ」


「わかった……って、おい! そっちの方が緊張すんだよ!」


「俺だって緊張してんだよ! でも……

 せな、ほんとに危ないから……俺だって……その……ってとにかく!」


 しゅいの声は震えていた。

焦りと、心配と、そして……照れ。


「……じゃんけんで決めるか」


「おう……!」


 結果、勝ったのはなぎと。


「よっしゃ……! いや……よくわねぇか……」


「なぎと、覚悟決めろ!」


「お前が言うな!!」


 言い合いながらも、二人はせなの両側に立つ。


「……なぎと」


「なんだよ」


「……せな、可愛いよな」


「……っ!! 今それ言うか!? やめろ!!

 余計緊張すんだろ……!」


「だって……寝顔……反則だろ……」


「……分かるけど……言うな……! 俺、無理……!」


 二人は耳まで真っ赤にしながら、息を合わせる。


「せーの!」


 湯気の中、慎重に慎重に持ち上げる。

せなの濡れた髪が揺れ、

その無防備な寝顔が近くて、二人はさらに顔を赤くした。


「で、どこまで運ぶんだよ!」


「しらねぇよ! とりあえず床まで運べ!」


 そっと床に寝かせ、

せなが冷えないようにコートをかける。


 二人は肩で息をしながら座り込んだ。


「もう無理……心臓止まるかと思った……」


「なんで寝るんだよ……ほんと……」


 しばらくして、

せなの服を持ってきて隣に置こうとした時――


「……っ!」


「? しゅいどした?」


「……なぎと……俺……

 さっき……運んでる時……

 せなの手が……ちょっと俺の腕に触れて……

 それだけで……心臓死ぬかと思った……」


「……は? お前……そんなことで……」


「なぎともだろ!! 顔真っ赤だったじゃん!」


「う……うるせぇ……!

 俺だって……

 ……寝顔……可愛すぎて……

 ……目、合わせられねぇよ……」


 二人は同時にそっぽを向いた。


「……なぎと」


「なんだよ」


「……俺ら、せなに弱すぎじゃね?」


「……知るかよ……。

 ……でも……

 弱いとかじゃなくて……

 ……好きなんだろ……」


「……っ……!」


 しゅいは一瞬で真っ赤になった。


「お前が言うなよ……! 俺だって……!」


「……分かってるよ……」


 二人はせなから数メートル離れ、

まるで爆弾を扱うように静かに見守った。

 

なぎと、甘々、デレデレ?バージョンにしました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ