小石が押した恋のスイッチ
無理。
小石が押した恋のスイッチ
そして、次の日。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気を柔らかく照らしていた。
3人はそれぞれ、"旅行兼お出かけ”の準備に追われていた。
「んー……」
せなはベッドの上に服を広げ、
鏡の前で腕を組んで唸っていた。
前にしゅいと出かけた時は、
「まぁこれでいっか!」と勢いで決まったのに、
今回はそうはいかない。
「なぎと……どんなのが好きなんだろ……」
しゅいは“明るい・爽やか”が好きそう。
でも、なぎとは自分の好みをほとんど言わない。
「ダーク系……好きなのかな……」
黒いワンピースを手に取ってみるが、
なんだか違う気がして首を傾げる。
「……。……そうだ!」
急にひらめいたせなは、
クローゼットをガサガサと漁り始めた。
そして――
「紫のワンピースに白いコート!
スカートの下にズボン履いたら……完成!」
鏡の前でくるっと回る。
「これならダークもライトもいける!
よし、勝った……! あ、このカチューシャもつけよ」
テンションが上がったせなは、
スマホで待ち合わせ場所のマップを確認する。
その頃、なぎとは部屋で固まっていた。
「せなって……どんなの好きなんだよ……」
普段クールな彼が、
服の前で腕を組んで悩む姿は珍しい。
「明るい方が……好きなのか……?
いや……でも……派手すぎても……」
鏡に映る自分を見て、
なぎとは小さくため息をつく。
「……灰色でいっか……。
コートはカーキ……ズボンは黒……
赤いマフラー……は……どうだ……?」
自分で言いながら耳が赤くなる。
「……まぁ……これなら……変じゃねぇだろ……」
選び終わると、
なぎとはなぜか心臓を押さえながら部屋を出た。
(……せな、どんな服なんだ……)
一方しゅいは、
鏡の前でスキップしていた。
「服は赤! ズボンは黒! コートは白!
完璧〜〜!」
(せな、絶対可愛いんだろうな……)
鼻歌を歌いながら廊下を歩く。
そして、なぎととしゅいは
せなの部屋の前で鉢合わせた。
「……お前も?」
「ん」
二人は無言で頷き合い、
同時に扉をノックした。
「せないる?」
「いるよー。開けてオッケー!」
扉を開けた瞬間――
二人は同時に固まった。
紫のワンピース。
白いコート。
ふわっと揺れる髪に、可愛いカチューシャ。
光が差し込んで、
せながほんのり輝いて見えた。
「ど、どうかな……? 似合ってる……?」
しゅいは一瞬で顔が真っ赤になり、
言葉が詰まる。
「っ……! めっちゃ……似合ってる……。
だから……こっち見んな……俺が死ぬ……」
なぎとは逆に、
耳まで真っ赤にしながらそっぽを向く。
「ま、まぁ? せなの割には……似合ってるんじゃね?」
「せなの割って何よ!」
「いや……冗談……だし……」
「じゃあ本音は?」
「っ……! 教えるかよバカ!」
「お願い!」
せながなぎとの手をぎゅっと握る。
「お、おま……! もう! 言うから離せ!」
「ほんと!?」
せながパッと手を離す。
「……可愛いし……似合ってる……と思う……」
「……っ! ありがと……!」
二人は同時に真っ赤になった。
「ねぇ〜イチャイチャしないでよ〜。
せなは俺の――」
「はいストップ」
せながしゅいの口を塞ぐ。
「……何言おうとしたのかな?」
「い、いや……何も……」
「よろしい」
せなはため息をつく。
「また言ったら……次はないからね」
「ごめん!!」
そして、玄関を出て、車へ向かう途中。
せなが先に駆け出し、
「早く行こー!」と振り返った瞬間――
その少し後ろで、
なぎとはせなの方を見ようとして振り返り、
足元の小石に気づかなかった。
「……っ!? うわっ!」
バランスを崩したなぎとは、
そのまま前へ倒れ込む。
「えっ――きゃっ!」
次の瞬間、
なぎとは勢いのまま せなの胸にダイブ した。
顔が埋まる。
胸の柔らかさが直撃する。
せなは全身がビクッと跳ねた。
「ちょっ……! な、なぎと!!
そ、そこ……っ恥ずかしいから……!!
触らないでよ……っ!!」
声は震え、
怒りと羞恥が混ざって裏返っている。
せなは胸元を押さえながら後ずさり、
顔は真っ赤、耳まで熱い。
なぎとはというと――
完全に固まっていた。
「っ……! ち、違ぇって……!
今のは……マジで石! 石踏んだだけだから……!
わざとじゃねぇし……そんな……っ、するわけ……ねぇだろ……!
……っ、は、早く……どけって……!
そ、その……変なとこ……当たってんだよ……!
俺……ほんと……無理……!
これ以上は……マジで……やば……っ……!」
耳まで真っ赤、
目は泳ぎ、
呼吸が乱れている。
男子としての理性が
一瞬で吹っ飛んだのが丸わかり。
せなは胸を押さえたまま、
涙目で叫ぶ。
「も、もう……ほんとに……!
心臓バクバクして……死ぬかと思った……!!
やだ……最悪……!
なんであんなとこ……触るのよ……!
あれ……女子のプライベートゾーンなの……!
触るなんて……もう……! 恥ずかしいし……ありえない……!
なぎとなんか……知らない……! 嫌い!」
なぎとは両手をぶんぶん振って否定する。
「ちがっ……! ほんとに違ぇから!!
俺だって……その……触ったの……
やべぇって思って……!
人生で一番焦ったんだよ……!!」
二人とも真っ赤で、
まともに目を合わせられない。
その後ろでしゅいが叫ぶ。
「なんで俺のいるところで胸ダイブしてんの!?
俺もぶつかりたい……じゃなくて……えっと……」
「今ぶつかりたいって言った!?」
「ぶつかりたいじゃねぇ!! お前、キモイぞ!」
せなとなぎとが同時に怒鳴った。
玄関前は完全にカオス。
でも、甘さが溢れすぎて空気がとろけていた。
「……も、もう! 行くよ!」
「「……はい……」」
車に乗り込むと、
せなは心の中で叫んでいた。
(なぎととしゅい……服かっこよすぎ……!
特になぎと……カーキのコート似合いすぎ……
赤いマフラーとか反則……
しゅいは赤が似合いすぎて可愛いし……
え、待って……
到着まで心臓持つ……?
でも……なぎとには後で説教だな)
車はゆっくりと走り出した。
無理。




