壁ドンの威力が違いすぎる
無理。
壁ドンの威力が違いすぎる
次の日の昼下がり。
窓から差し込む柔らかな光が、部屋の床に四角い影を落としていた。
その光の中で、みのはせなの前に座り込み、今にも泣きそうな顔で訴えていた。
「全然あおばさんとの距離が縮まりません〜!!」
「まぁまぁ。あおばも照れてるんだよ」
「でもでも〜! もしかしたらあおばさんは私の事好きじゃないかもですし……」
「絶対そんな事はない! 断じて!
……じゃあ、デート誘ってみたら?」
「……!? 無理です!」
みのは両手で頬を押さえ、顔を真っ赤にしてぶんぶん首を振る。
「だってあおばさん、照れてるところ可愛すぎるので、私がキュン死しちゃいます〜!」
みのが目をぎゅっと閉じて叫んだその瞬間――
「えっと……なんか……俺にキュン死……とか聞こえた気がしたけど……気のせい……です……か……?」
ドアの影から、あおばが気まずそうに顔を出していた。
耳まで真っ赤で、視線が泳いでいる。
「……」
「あ、えっと……偶然通りかかって……あの……」
「ち、違います! あれはあれで違うくて意味も何もなくて!?
なんかポンって出た言葉いってらそうなってなんかよく分からなくて! それで!」
みのはテンパりすぎて、もはや何を言っているのか分からない。
「えっと……?
と、とにかく冗談だったって事で……いい?」
「はい! もうなんでもいいです!?」
みのはテンションが壊れたまま、顔を真っ赤にして固まっていた。
「……せな、ちょっと耳貸して」
「ん、何?」
(※みのには聞こえてません)
「みの、天使なんだけどどうすればいい?
マジで可愛すぎてやばい」
「あおば、心の中みのばっかりじゃん笑」
「だ、だって!
あたふたしてる所可愛いし……
もうマジで俺、天国行きそう……」
「おいおい、それはやばすぎ」
せなは苦笑しながら肩をすくめる。
「とにかく、みのにさっさと思い伝えちゃったら?
その方が後で気は楽だよ?」
「いや、絶対無理。
だって……恥ずいし……」
「そこは頑張れよ〜。
……それだったら私で練習する?」
「は……は!?
お前何言って……!」
あおばは一瞬で真っ赤になり、耳まで熱そうに震えた。
「嘘嘘。冗談だよ。冗談で慌てすぎ」
「そ、そりゃこうなるだろ!
みのは世界一だけど……
なんてか……せなも……可愛いし……」
「ふ〜ん……。ありがと」
「な……!
今の聞かなかった事に……!」
あおばは顔を覆い、さらに真っ赤になった。
(あの2人……何話してるんでしょう……
あ、もしかして私のためにあおばさんの情報を集めてくれてるのかも!?
一旦離れときましょう)
みのはそう思い、あおばとせなが何か話している間に、そっと自分の部屋へ戻っていった。
「ふふ、あおばってば可愛い〜」
「うるせぇ!
お前のことなんてなんとも思ってないし!
さっきのは……その……冗談ってか……」
「冗談にしては本気すぎ。
あおばってすごく揶揄いたくなる」
「なんでだよ!」
あおばは叫びながらも、口元が少し緩んでいた。
「大体俺はみのが好きなの!
せなの事なんて……こ、これっぽっちも……!」
「ふ〜ん……。
私はあおばの事ちょっと好きだったんだけどな〜」
「は……!?
おま……今なんて……!
ば、バカじゃねぇの!
もうお前無理……。
俺、お前のおもちゃになってる気がする……
どうせ、さっきのも冗談なんだろ……!?」
「さぁ……どうでしょうね〜。
まぁ、言えるのは本当にちょっとは好きって言うことだけ」
「っ……!
お前マジで……!
こう言うこと言うからお前はな……!」
あおばは顔を手で覆い、耳まで真っ赤。
「ってか、せなの照れてるとこ、全然見たことないんだけど!
……どうしたら照れてくれる?」
「ん? そんなの、ドキッとしたらに決まって……」
その瞬間――
あおばは反射的に、せなの肩の横に手をつき、壁ドンしていた。
「……は?」
せなの脳が一瞬止まる。
「え、っと……」
(あれ? こういう時って……何て返すんだっけ……?)
「……さっきまで弱々しかったのに、そんな急に来られたらびっくりするんだけど……」
「び、びっくり……?
え、じゃあ……照れた……?」
「いや、照れてはないかな〜。
あおばの壁ドン、ぎこちなかったし」
「ぎ、ぎこち……!?
お、お前……!」
あおばが真っ赤になった瞬間、
せなは逆にあおばの胸元に手をつき、壁ドンし返した。
「は!?
な、何やって……!」
「何やってじゃないでしょ?
あおばの壁ドンがぎこちなかったから、
“こうやるんだよ”ってお手本見せてあげただけ」
「お、お手本って……!
近い……! 心臓……無理……!」
「ふふ、可愛い〜」
「か、可愛いとか言うな……!
お前ほんと……ズルい……!」
あおばは顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。
「って事ではい〜、私の勝ち!」
「っ……もう、はいはい、素直に負けを認めますよ」
あおばは呆れたように言いながらも、
耳まで真っ赤で、心臓の音が聞こえそうなくらい震えていた。
(……あれ?
せなって……こんな可愛かったっけ……?
なんでこんな近くで見たら……息、止まんの……?
待て、俺……せなのこと……好き……?
いやいやいや、そんなわけ……そんなわけ……あるか……?
みのが一番なのは分かってるのに……。
なんで……こいつの笑い方とか、距離の詰め方とか……
こんな……反則みたいに可愛いんだよ……)
あおばは胸の奥のモヤモヤを抱えたまま、
自分の部屋へ帰っていった。
無理。




