事故の膝枕で距離がバグった
無理
事故の膝枕で距離がバグった
――その時だった。
夕方の光が部屋に斜めに差し込み、床に長い影を落としていた。
その影の中を、ソファーでうずくまっていたしゅいが突然立ち上がり、
私の方へ駆け寄ってくる。
でも――距離が足りない。
「……あ……!」
しゅいが小さく声を漏らした。
次の瞬間、彼は迷いなく床に膝をつき、
そのまま勢いよくスライディングした。
(え、何してるの……!?)
そう思う暇もなく、私は後ろに倒れかけていた。
背中に冷たい空気が触れ、視界がぐらりと揺れる。
床に頭をぶつける――!
そう思った私は、反射的に手を頭の方へ伸ばそうとした。
けれど、恐怖で手が震えて動かない。
(落ちる……!)
ぎゅっと目をつぶる。
世界が暗くなる。
――でも、痛みは来なかった。
代わりに、ふわっとした温かさが背中を支えた。
「大丈夫?」
「……え?」
恐る恐る目を開けると、
しゅいの顔がすぐ目の前にあった。
近すぎて、息が止まりそうになる。
周りを見渡すと――
(……え、ここ……しゅいの膝の上!?)
私は反射的に飛び退いた。
「え、っと、ごめん!?」
「あ、はい、大丈夫です?」
しゅいは耳まで真っ赤にしながら、
それでも優しく微笑んでいた。
私は混乱したまま、なぎとの方を見る。
しゅいも同じく、なぎとの方へ視線を向けた。
「は、は? なんで2人ともこっち見つめるんだよ」
なぎとは眉をひそめながらも、
どこか不安そうに後ずさる。
私としゅいは無言でじーっと見つめ続けた。
「な、なんだよ……」
なぎとの顔がみるみる青ざめていく。
「なになに……? ぶっちゃけホラーなんだけど。……おい、俺なんかした?」
さっきまで怒っていたはずのなぎとの声が、
今は今にも泣きそうに震えていた。
「なぎと、泣きそう」
「いや、泣かないし! そんなキャラじゃないから!」
なぎとは必死に否定するが、
目の端が少し潤んでいるのを私は見逃さなかった。
「大体ずっと見つめてたわけは?」
「それは――」
「「なぎとに空気を変えて欲しかったから!」」
私としゅいの声が揃った。
「ってか、さっきの何!? しゅい、なんで私に膝枕を……」
「いや、だって……普通に走ってちゃ間に合いそうになかったし……
スライディングだったら……ワンチャン……って……
べ、別に悪気があったわけじゃなくて!」
しゅいは手をぶんぶん振りながら、耳まで真っ赤。
「スライディングって……野球選手か何か?」
「ち、違うし! でも……あのまま倒れたら絶対危なかったし……
俺、止まれるか分かんなかったけど……
せなが倒れるの見えたら……体が勝手に動いて……!」
「しゅい……そんなに必死だったの?」
「ひ、必死とかじゃなくて!
ただ……その……怪我したら困るし……
困るっていうか……なんか……」
しゅいは視線を泳がせ、指先をそわそわ動かす。
「……ていうか、膝枕って……あれ、偶然だからな!?
俺もびっくりしたし……!
あんな近い距離になるなんて思ってなかったし……!」
「へぇ〜? じゃあ、あれは事故?」
「じ、事故! 完全に事故!」
しゅいは顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。
「じゃあ……とりあえず……色々ありがと……」
「う、うん……」
2人は同時に目を逸らし、
夕方の光の中で頬を赤く染めていた。
「……あ、そいえばせな王、次俺の番じゃん」
「……あ、本当だ」
しゅいが咳払いし、空気を整えるように言った。
「じゃあ……なぎとは、せなとみのだったらどっちが好き?」
「は……は!? おま……なんて事聞いてやがる! お前、俺の好きな人知ってるくせに……」
なぎとは耳まで真っ赤にして叫ぶ。
「せな王のゲームでは命令は絶対。
もし答えなかったら今この場で好きな人に告白」
「そんなルールなかっただろ……!
どっち派ってそりゃ……その……」
「……」
私はじーっとなぎとを見つめる。
「……みのより……っ……せ……せなの方が好き……。
あーもう、これで満足したか!
べ、別に照れてにゃいから!
せなが好きってのは当たり前だし……!」
「……なぎと?」
私が照れながら言うと、
なぎとはさらに真っ赤になり、耳まで熱そうに震えた。
「いや、今のは全然違くて……!
その……なんでもないから!」
焦りすぎて声が裏返っている。
(……可愛い……)
「なぎとっていつも無愛想でツンツンしてるけど、たまに可愛いんだよね〜」
「う、うるせぇ……!
毎回それ言うな……。
……心臓に悪いから……」
「はいはい〜」
私は軽く笑いながら、なぎとの頭を撫でた。
「おま……! マジでふざけんなよ……」
そう言いながらも、なぎとは逃げずに固まっていた。
耳まで真っ赤で、肩が小さく震えている。
ふと横を見ると、しゅいがじーっとこちらを見ていた。
「……なに?」
しゅいは小声で、
「……俺も撫でて……」
と言った。
その瞬間、胸がぎゅっとなった。
「可愛すぎ……!」
私は思わずしゅいの頭も撫でてしまった。
なぎとも、しゅいも、
2人とも顔を真っ赤にして固まっていた。
夕方の光の中で、
その赤さがやけに綺麗に見えた。
無理




