怒鳴り声の奥の好きを聞いた
無理
怒鳴り声の奥の好きを聞いた
それから二日が経ち、せなの体調はすっかり良くなっていた。
窓から差し込む昼の光が部屋を柔らかく照らし、外の風の音がほんのり聞こえる。
体は軽いはずなのに、胸の奥だけはまだ落ち着かない。
「せなさーん」
明るい声とともに、みのが駆け寄ってくる。
彼女の笑顔はいつも通りで、見ているだけで元気が出る。
「体調、治って良かったですね!」
「あ、うん!」
せなは笑顔を作る。
けれど、その笑顔の裏で胸がチクリと痛んだ。
――なぎとのキスが、頭から離れない。
「また、恋の進展があったら私に言ってくださいね!」
「あ、えっと……うん……」
声が少しだけ弱くなる。
みのはその変化に気づいたようで、眉を寄せた。
「せなさん、大丈夫ですか? まだ風邪の影響でしんどいとか……」
「い、いや、全然そんなんじゃなくって! ちょっと……考え事的な感じで……」
「そ、そうですか。じゃあ、よかったです! じゃあ、私お菓子買って来ます!」
みのはバッグを肩にかけ、軽い足取りで部屋を出ていった。
扉が閉まった瞬間、せなは小さく息を吐く。
(……考え事っていうか……あれはもう事件だよ……)
そんなことを思っていた時、突然肩を掴まれた。
「よっ」
低くて無愛想な声。
振り返る前から誰か分かる。
「な、なぎと!?!?」
せなは反射的に距離を取る。
なぎとは少しだけ目を丸くした。
「そんなびっくりするような事じゃないだろ?」
「だ、だって……! いきなり声もかけずに肩掴むから!!」
「いつもの事じゃん……」
なぎとはソファーにドサッと座る。
その仕草はいつも通りなのに、せなの心臓は落ち着かない。
――あのキスのせいで。
「あ、あのさ……」
「ん? 何?」
なぎとが顔を向ける。
その瞬間、せなの頬が熱くなる。
(やば……顔赤くなってる……!)
「……顔赤いけど、まだ風邪残ってんじゃね? 俺に移すなよ」
「……そう思うなら……少しぐらい心配してよね……」
「……今、なんて言った?」
「な、何も言ってない! なぎとのバカ!」
「いきなりなんなんだよ……。今日、せなおかしいぞ」
なぎとは立ち上がり、せなの方へ歩み寄る。
距離が近づくたびに、せなの心臓が跳ねる。
「ちょ、何……?」
なぎとは無言で手を上げ、せなの額に触れた。
ひんやりした指先が肌に触れ、せなは肩を震わせる。
「熱は……なさそうだな」
「ちょ、何してるの!?!? なぎとのバカバカバカ! 嫌い!」
「ちょ……叩くなって!」
せなが軽く拳で叩くと、なぎとは困ったように眉を下げた。
その表情は、普段の不機嫌さとは違う。
「ちょい、本当に大丈夫か?
俺がこう言うの言うのはあれだけど……心配なんだよ。こう見えて……マジで」
なぎとは言った瞬間、自分の本音に驚いたように肩をすくめた。
頬も耳も真っ赤で、視線は床に落ちたまま全然上がらない。
袖口をいじる指先はそわそわしていて、呼吸もほんの少し乱れている。
強がった声とは裏腹に、隠しきれない照れと心配が全身から漏れていて、
せなにはその不器用な優しさが痛いほど伝わった。
(……そんな顔されたら……)
「ご、ごめん! なんか今日変かもね。でも……多分そのうち直るから!
だから……そんな悲しそうな顔しないで……。
なぎとがその顔してると……なんか私まで悲しくなって来ちゃうから……。
で、でも、たまにはいいと思う! ……可愛いし……」
「か、可愛いっておま……!
ふざけてんのか!? 俺はそんなキャラじゃないっつーの!
……せなって本当バカ……!
……そんなこと言われたら……嬉しいに決まっ……っ、今のナシ!! 忘れろ!!」
なぎとは耳まで真っ赤にしながら怒鳴る。
でもその声は弱くて、怒っているというより照れている。
せなは思わず笑ってしまった。
「いつも通りの可愛くて怒りっぽいなぎとに戻ったね」
「なんだよ。悪いかよ。……って、可愛くないって言ってんだろ!」
そう叫び、なぎとは顔をそらす。
その横顔は、どう見ても照れていた。
無理




