寝たふりの唇に落ちた、本気のキス
無理。
寝たふりの唇に落ちた、本気のキス
せなは自分の部屋のベッドに横になっていた。
部屋の空気はほんのり暖かいのに、体の芯は熱でじんじんしている。
目を閉じても、頭がぼんやりして眠れない。
天井の模様をぼんやり追いながら、ただ呼吸だけが静かに上下していた。
そんな時――
カチャ、とドアノブが回る音がした。
(……誰?)
ゆっくりと扉が開き、入ってきたのはなぎとだった。
薄暗い部屋の中で、なぎとの影が長く伸びる。
(やば……寝てなかったら心配される……)
せなは慌てて目を閉じ、寝息っぽい呼吸を作る。
「せなー、大丈夫か? って……さすがに寝てるか……」
なぎとの声はいつもより少しだけ柔らかかった。
そのまま帰ってくれたらよかったのに――
そう思ったのに、なぎとはベッドのそばに立ち止まったまま動かない。
しばらくして、ゆっくりと近づいてくる気配がした。
「寝てる……よな……?」
指先がそっと頬に触れ、つつかれる。
くすぐったさと恥ずかしさで、せなは心臓が跳ねた。
(ちょ……やめて……! 起きてるって言えないじゃん……!)
気になって、ほんの少しだけ目を開ける。
視界の端に映ったなぎとの顔は――真っ赤だった。
(え……なんで顔赤いの……?
もしかして……風邪、移った……?
いや、それならもっと離れるでしょ……?)
なぎとは落ち着かない様子で、部屋の中をキョロキョロ見回した。
「お、起きないよな……?」
声が震えている。
せなはますます混乱した。
(なに……? なんでそんな緊張してるの……?
やめてよ……そんな顔で近づかれたら……)
なぎとの影が、ゆっくりとせなの顔に覆いかぶさる。
息が触れそうな距離まで近づいてきた。
(ちょ、ちょっと待って……近い……!
なんで……なんでそんな……!)
せなは反射的に目をぎゅっと閉じた。
「……誰もいないよな……? もし見られたら……」
なぎとは周囲を確認するように小声で呟く。
その声は、いつもの不機嫌さとは違い、どこか怯えているようにも聞こえた。
(なにしてるの……?
もう寝たフリやめよっと……目開けよ……)
そう思って目を開けようとした、その瞬間――
――チュッ。
柔らかい感触が唇に触れた。
時間が止まったように、せなの思考が真っ白になる。
(……え……?
なに……今の……?
ちょ、ちょっと待って……キス……?
キス……だよね……?
え、無理無理無理……!
なんで!? なんでなぎとが!?
寝てると思って……?
寝てると思ってキス……?
ってことは……もしかして……)
胸がドクンと跳ねる。
熱のせいじゃない、別の熱が一気に広がった。
なぎとは小さく息を吸い、震える声で言った。
「好きだよ、バカ……気づけよ、そろそろ。
だから……心配させんなよ……」
その言葉を置き去りにして、逃げるように部屋を出ていった。
扉が閉まった瞬間、せなの心の中は爆発した。
(ちょ、ちょっと待って!?
好きなの確定演出!?
今の……完全に告白じゃん……!?
なぎとが……私のこと……好き……?
あの無愛想で、口悪くて、ツンツンしてるなぎとが……?
いやいやいや……嘘でしょ……?
でも……顔……真っ赤だった……。
あれ……本気……?
え、ちょっと……なんで私……ドキドキしてるの……!?
好きなのは……しゅい……だよね……?
なんで……なぎとなんかに……こんな……照れる訳ないのに……! なぎとのバカバカバカ!!)
せなは布団に顔を埋め、両手で頬を押さえた。
熱で赤いのか、照れで赤いのか、もう分からない。
(無理……誰にも見られたくない……
顔……絶対真っ赤……)
そのまま布団に潜り込み、
なぎとの言葉とキスの感触を何度も思い返しながら――
気づけば、いつの間にか眠っていた。
後で聞いた話だと、
なぎともずっと顔を真っ赤にしたまま、
「風邪移った……?」とみんなにからかわれていたらしい。
無理。




