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王様ゲームで人生最大の事故発生

無理。

王様ゲームで人生最大の事故発生

リビングには暖房のぬくもりが広がり、外の冬の冷たい空気とは対照的に、みんなの笑い声で温かかった。

 テーブルの上にはクジ棒が散らばり、王様ゲームの準備は万端だ。


「じゃあこのクジ引いて〜。引いた棒の先が赤色だったら王様だよ!」


 あおばがニヤッと笑いながら言う。

 みんなはワクワクした顔でクジを引いた。

 

「俺だ!」


 赤い先端を掲げたのはみおと。

 みおとは得意げに胸を張る。


「命令! 2番が3番と1キロ走る!」


「……2番俺……」


 しゅいが絶望した顔で棒を見る。


「3番私だ……最悪……」


 せなは眉をひそめ、みおとを睨んだ。


「みおと! なんて命令してるんだー!」


「ごめんって! 明日お菓子買ってあげるから許して〜!」


「……許す……」


「よかった……」


 こうして、しゅいとせなは渋々ランニングへ出発した。


「2人減ったんだけど……」


 らおが呆れたように言う。


「じゃあ次からはこういう命令なしね!」


 あおばが仕切り直し、2回目が始まった。


「僕です」


 ひばりが控えめに手を挙げる。

 しかしその目はキラリと光っていた。


「じゃあ……ちょっと過激なのいけますか?」


「え……は……!?」


「無理です!」


「無理だよ〜!」


 全員が即答で拒否する。


「じゃあ……命令。2番と5番がここのロッカーに5分入ってください」


「は……は!?」


 空気が一瞬で凍りついた。

 みんなの顔が一斉に真っ赤になる。


 そして――

 2番はみの、5番はあおば。


「え……えぇぇぇぇ!?」


 みのは棒を落としそうになり、あおばは固まったまま動かない。


「時間計りますねー」


 ひばりがストップウォッチを構え、2人はロッカーへ押し込まれた。


 ロッカーの中は狭く、暗く、2人の体温がすぐに混ざり合う。

 距離はほぼゼロ。


「あ、あおばさん……近い……」


「……」


 あおばは壁に背中を押しつけながら、顔を真っ赤にして固まっていた。


「狭いんですけど……」


「し、しょうがないだろ……。

 ってか……その……もうちょっとそっち行けね?

 その……当たってる……」


「……っ! あおばさんのバカ! 変態!」


「ごめんって! だから……離れて……俺が持たない……」


「うぅ……」


 みのは必死に体をずらそうとするが、狭すぎてほとんど動けない。


 その時――


「キャ!」


 みのがバランスを崩し、後ろへ倒れ込む。

 ロッカーがガタンッと大きな音を立てて横倒しになった。


「いてて……。ん? なんか重……」


 みのが目を開けると――

 あおばが自分の上に乗っていた。


「……ちょ、あおばさん!?」


「ん? 何……って……うわぁぁぁぁぁ!!

 え、何この状況!? どういうこと!?!?」


 あおばはパニックになり、みのの上でバタバタ暴れる。


「ちょ、あおばさ……離れて……!」


 みのは顔を真っ赤にしながら言うが、

 ロッカーが横倒しのせいで天井が低く、あおばは起き上がれない。


 結果――

 あおばがみのを床ドンしているような体勢になった。

 ロッカーが横倒しになっているせいで、天井は低く、逃げ場はどこにもない。

 2人の顔の距離は、ほんの数センチ。

 お互いの息が触れ合うほど近い。


「あ、あの……あおばさん……これ……床ドンじゃ……」


 みのは目をそらしながら、震える声で言った。

 頬は真っ赤で、心臓の音が自分でもうるさいほど響いている。


「だ、だって……しょうがないだろ……!

 これ以上動けそうにないし……!」


 あおばも同じく真っ赤で、目を合わせられない。

 腕はみのの頭の横に置かれ、完全に“床ドン”の姿勢。

 その腕が震えているのが、みのにも伝わった。


「ち、近いです……。息……かかってます……」


「わ、悪い……! でも……動いたら……もっと変な体勢になるし……!」


 あおばは必死に言い訳するが、声が裏返っている。


「そ、そんな……言われても……!

 あおばさんの顔……近すぎて……無理……!」


「俺だって無理だよ!!

 こんな距離……意識しないわけないだろ……!」


 言った瞬間、あおばは自分で口を押さえた。


「……っ! い、今のなし!! 忘れて!!」


「む、無理です……! そんな事言われたら……余計意識します……!」


 2人は顔を真っ赤にしたまま、固まった。

 ロッカーの中は狭く、2人の体温でさらに熱く感じる。


「……あの……腕、震えてますよ……?」


「し、震えるだろ……!

 こんな距離……ど、どうしていいか……わ、分かんなくなるんだよ……!」


「ど、どうしていいか分かんないって……そ、それ……なんか……特別な時みたいな……言い方じゃ……」


「ち、違う!! 今のも忘れて!!」


 あおばは慌てて頭をぶつけそうになり、

 みのは思わずクスッと笑ってしまった。


「ふふ……あおばさん、焦りすぎです……」


「笑うなよ……!

 俺だって……必死なんだよ……!」


 あおばは顔をそむけながら言うが、

 その横顔はどう見ても“必死に照れを隠している人”だった。


「……あの……手、どけてもらえたら……」


「無理……。どけたら……絶対倒れる……。

 てか……今どけたら……もっと変なとこ触れそうで……怖い……」


「……っ! あおばさんのバカ……!」


「バカでいいから……動くな……!

 俺、ほんとに……限界……」


 2人はしばらくそのまま固まった。

 ロッカーの外からは、みんなの笑い声が聞こえるのに、

 この狭い空間だけは別世界のように静かだった。

 

そして、あれから5分が経った。

 カチャッ。ロッカーの鍵が開く。


「5分終了だよ! ……その体勢どうした?」


 ロッカーの扉が開き、みんながニヤニヤしながら覗き込んでいた。


「これは違います! これしか無理で……仕方なくで……!」


「……マジで違うんだって……!

 か、勘違いすんなよ!」


 2人は同時に叫び、同時に真っ赤になる。


「え〜? 実は案外好きだったりして〜?」


 たゆとがニヤニヤしながら言う。


「おま……! お前はもう黙っとけ!」


「痛っ!」


 あおばがたゆとの頭を軽く叩く。


「ヒィー、頭かち割れた〜」


 たゆとは大げさに倒れ込み、みんなが笑った。


「あおばさん……なんかごめんなさい……」


「こ、こっち見ないでくれる……?」


「へ……?」


「あんな……あんな近かったし……

 照れすぎて……顔合わせらんない……」


「……っ!

 わ、私もですから! 安心してください!

 そして、さっきの事は絶対に忘れてください〜!」


「ごめん……それは無理」


「え……? なんで?」


「……偶然でも……ちょっと……嬉しかったから……」


 あおばは照れ笑いを浮かべ、視線をそらす。


「あ、あおばさん? それの意味って……」


「ち、違うから!

 嬉しいなんて思ってない!

 あれは……その……冗談だよ! 冗談!」


「さっき“嬉しかった”って言ってましたよね?」


「う、うるせぇ!

 あれは……その……言葉のあやだよ……!」


「ふふ。あおばさんって、本当素直じゃないんですから」


 みのが笑うと、あおばもつられて笑った。

 さっきまで真っ赤だった2人の顔は、今はどこか柔らかくて、

 ロッカーの中のドタバタが嘘みたいに穏やかだった。

 

 

 

 

無理。

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