特別なチョコは、あの人のために
無理。
特別なチョコは、あの人のために
今日は2月3日。
冬の空気は冷たいけれど、空はよく晴れていて、陽射しが頬に心地よかった。
駅前の通りにはバレンタインのポスターが並び、どこか甘い香りが漂っている気がした。
「ここのお店に行きましょ!」
「はーい」
せなとみのは電車に揺られながら、窓の外の景色を眺めていた。
休日の昼下がり、車内は穏やかで、ふたりの会話も自然と弾む。
――到着。
改札を抜けると、ショッピングモールの中はバレンタイン一色。
赤やピンクの飾りが揺れていて、歩くだけで胸がそわそわする。
「ねぇ、せなさん。せなさんは、しゅいさんが好きだから、しゅいさんだけにあげるんですか?」
みのが少し意地悪そうに笑いながら聞く。
その瞬間、せなの歩く速度がほんの少しだけ遅くなった。
「え、っと……。一応、メンバー全員にあげようと思ってるよ。
でも……しゅいのは……バレない程度に……特別……にしよっかな……って……思ってる……」
言いながら、せなの耳まで赤く染まっていく。
みのはその変化を見逃さなかった。
「そうですか。私もそうします!
でも“バレない程度”って……どうしましょう。
チョコがハート型とかだと、さすがに気づかれちゃうかもしれないし……」
「……。あ、じゃあさ。普通のチョコにチョコペンでハート書いたら?」
「バレます!!」
みのは即答し、せなは「だよねぇ……」と苦笑い。
ふたりは歩きながら、ずっと“特別だけどバレないチョコ”の案を出し合っていた。
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店に入ると、バレンタイン特設コーナーが広がっていた。
棚いっぱいに並ぶチョコレートは、宝石みたいにキラキラしている。
ハート型のチョコ、高級な箱入りチョコ、キャラクターの形をした可愛いチョコ……。
甘い香りがふたりを包み込む。
「私、しゅいのこれにしよっかな〜」
せなが手に取ったのは、シンプルだけど上品な箱入りチョコ。
箱の端に小さなハートマークがついている。
「おー! いいんじゃないですか?
さりげないハートなら……ギリ、バレないかも」
「……じゃあ、これに決定!
みのはどうするの?」
せなが聞くと、みのは棚の前で腕を組み、眉を寄せた。
「それがまだ決まってなくて……。
あおばさんにあげるのは決めてるんですけど……どういうのがいいのか……」
「うーん……。じゃあこれにしたら?」
せなが差し出したのは、
“アイラブユー”と書かれた袋に、ハート型チョコが入ったセット。
「前にあおばに“アイラブユーの袋に入ったクッキー”もらったでしょ?
アイラブユーのお返しだよ!」
せなはニコニコしながら言う。
みのはその袋を見た瞬間、顔が一気に真っ赤になった。
「ぜ、絶対無理です!!
だってあれは……あおばさんが勝手に……!」
「あおばのこと好きなんでしょ?」
「う……っ」
みのは言葉に詰まり、視線を泳がせる。
耳まで真っ赤で、今にも湯気が出そうだった。
そして――
「……っ!」
みのは勢いよくそのチョコを掴むと、
恥ずかしさに耐えきれず、ダッシュでレジへ向かった。
「ふふっ」
せなはその後ろ姿を見て、優しく微笑んだ。
みのの背中は、照れと勇気でほんのり赤く染まっていた。
無理。




