買い出しじゃんけん弱物の悲劇
無理。
買い出しじゃんけん弱物の悲劇
次の日の午後。
外は少し曇っていて、冬の冷たい風が頬を刺すように吹いていた。
そんな中、みのとらおはスーパーの袋を提げながら歩いていた。
「買い出し……面倒臭い……。じゃんけん弱い人不利です……。じゃんけんで買い出しに行く人決めるとか……もう……」
みのはぶつぶつ文句を言いながら、スーパーの通路をとぼとぼ歩く。
その横で、らおは心配そうに眉を寄せていた。
「大丈夫? いつも家事とかしてくれてるの、ほとんどみのじゃん。疲れ溜まってるんじゃない? もう帰っといたら?」
「え……。そしたら、らおさん1人で買い出しになっちゃうじゃないですか……。それは絶対ダメです!」
みのはぴしっと背筋を伸ばし、歩く速度を少し上げた。
その姿があまりにも健気で、らおは思わず視線を逸らす。
(……可愛い)
そんな言葉が喉まで出かかった。
そして、買い出しが終わった。
「疲れましたね……」
みのは袋を持ったまま、肩を落とす。
「そだね。今から歩いて帰る予定だけど……体力まだある?」
「ない!」
即答だった。
「だよね……。タクシーで帰ろっか」
「やったー!」
みのはぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
その無邪気さに、らおの胸がまたきゅっとなる。
タクシーの中は暖房が効いていて、外の寒さが嘘のようだった。
窓の外を流れる街の灯りを見ながら、みのは少し眠そうに瞬きをしていた。
――そして、家の前に到着。
「家つきましたね!」
「あ、そうだね」
「すぐお菓子作りますね! 今日はクッキーかな〜」
みのはスキップしながら玄関へ向かう。
らおはその後ろ姿を見て、自然と笑みがこぼれた。
キッチンからはバターの甘い香りが漂っていた。
みのは袖をまくり、真剣な顔で生地をこねている。
「あ、らおさん! どうしましたか?」
「いや、ちょっと見に来ただけ」
「そうですか……。あ! せっかくですし一緒に作りませんか!」
「いいよ」
らおはエプロンをつけ、みのの隣に立つ。
ふたりの距離は近く、肩が触れそうだった。
「らおさんのおかげでクッキー作り早く終わりそうです」
「それはよかった」
「じゃあ、散らばった所掃除しますねー」
みのは掃除機を持ってきて、鼻歌を歌いながら掃除を始めた。
その姿は本当に楽しそうで、見ているだけで心が温かくなる。
「よし! 終わった〜」
みのがこちらへ歩いてきた、その瞬間――。
「キャ!」
足元の袋に躓き、体が前に倒れる。
「危ない!」
らおは反射的に手を伸ばし、みのの体を抱きとめた。
腕の中にすっぽり収まったみのは、驚きで目を丸くしている。
「ありがとうございます……。って……フェ!? これってどういう……。あの……らおさん……?」
「あ、え……ごめん! こんなつもりはなくて……」
「だ、大丈夫です……」
みのは顔を真っ赤にし、手を胸の前でぱたぱたさせている。
らおも同じく真っ赤で、ふたりはぎこちなく距離を取った。
「あの……マジでごめん……」
「い、いえ……。大丈夫です……」
沈黙が落ち、ふたりの心臓の音だけがやけに大きく感じられた。
その時、リビングのドアが開いた。
「お、みのとらおじゃん!」
「あ、あおばさん……」
「? なんで顔赤いの?」
「い、いや……! これは……そう、暑いからで!」
「今、冬だけど……?」
「え……! っとじゃあ……」
あおばの目が細くなる。
その視線は氷のように冷たかった。
「……らお? みのになんかした?」
「そ、そんなわけないでしょ!? ね、みの!」
「え、っと……はい!」
「よかった〜。もし、らおが何かしてたら……お仕置きが必要だからね〜」
「ヒィ……」
らおは青ざめ、逃げるように自分の部屋へ走っていった。
「あおばさん……怖い……」
みのはリビングの隅で小さく震えていた。
「あ、ごめ……! ちょっとらおにも言い過ぎちゃったかな……」
あおばは後悔したように眉を下げる。
「なんか……ごめん……」
「は、はい……だ、大丈夫です……全然……だい、じょ、ぶです……」
「本当に大丈夫!?」
「は、はい……」
みのはそのまま、安心したのか、疲れたのか――
すぅ、と目を閉じて眠ってしまった。
あおばはそっと毛布をかけ、ため息をついた。
(……守りたいのに、怖がらせちゃったな)
そんな表情だった。
無理。




