告白ラッシュで湯船が騒がしい
無理。
告白ラッシュで湯船が騒がしい
湯気がふわりと立ちこめる男湯。
木造の天井から落ちる柔らかな灯りが、湯面を金色に照らしていた。
湯気の向こうで、男子達の笑い声が反響している。
「じゃあ次、あおばお願い〜」
しゅいが湯船の縁に腕をかけながら言う。
その声はどこか楽しげで、完全に“逃がさない”トーンだった。
「は!? なんで俺なんだよ!」
あおばは肩まで湯に沈みながら叫ぶ。
耳まで真っ赤だ。
「みんなに先に言っといた方が後が楽だと思って」
「じゃあお前言えよ!」
「絶対嫌!」
湯気の中で言い合いが続き、結局あおばが先に話すことになった。
あおばは湯面を見つめ、拳をぎゅっと握る。
湯気が頬に触れ、さらに赤くなる。
「お、俺の好きな人は……その……えっと……み……みの……。
……つ、つぎ、しゅいだから!」
言い終わった瞬間、あおばはバシャッと音を立てて湯に潜り込んだ。
背中まで真っ赤なのが湯越しでも分かる。
「なんで俺なんだよ……!」
しゅいは顔を覆いながらも、耳まで赤い。
「俺は……せ……せな……の事……が好……き……」
しゅいは湯気の向こうで視線を泳がせながら言った。
声が震えている。
「なんでお前もなんだよ……」
なぎとは呆れたように言いながらも、どこか焦っている。
「俺がせなの彼氏になる」
「いーや、俺だね」
ふたりは湯船の中でじりじり距離を詰め合う。
湯気の中で火花が散っているようだった。
その横で、他の男子達は恋バナを続けていた。
「次、ひばりね〜」
「ぼ、僕ですか!?」
ひばりは肩を跳ねさせ、湯の中で縮こまる。
頬はすでに真っ赤。
「僕は……別に……好きな人なんか……!」
「本当? 本当か〜?」
あおばがニヤニヤしながら近づく。
「……せなさん……好き……です……」
ひばりは蚊の鳴くような声で言い、
そのまま湯船から逃げるように出て行ってしまった。
「やっぱりな〜」
あおばは満足げに頷く。
「次、らお〜」
「なんで俺?」
らおは照れくさそうに笑い、湯面を指でなぞる。
「俺は……みのの事が好きなんだけど……」
「……ライバルだな」
あおばがギロッとらおを見る。
「いや、えっと……戦うつもりはないんだけど……」
らおは慌てて距離を取る。
「じゃあ……次みおと!」
「言いたくないんやけど……。えっと……みのだよ……。
俺は……みのの……事が……好き……」
「お前もライバルか」
あおばがみおとをじっと見る。
「ちょ、怖いって! マジ、怖いからやめて!」
みおとは温泉の端で小さく震えていた。
「えっと……次たゆと!」
「え〜。俺、マジで好きな人いないんだけど〜」
「じゃあせなとみのだったらどっち派?」
「ん〜、みのかな〜」
「よし、ライバルだな」
あおばはたゆとの腕を掴んで引き寄せる。
「ちょ、やめてー! 助けて〜!」
湯気の中にたゆとの悲鳴が響くが、
他の男子達はただその光景を眺めて笑っていた。
その頃、女子風呂では――。
「なんか男子達うるさいですね……。こっちまで聞こえてきます……」
みのが湯船に肩まで浸かりながら言う。
「なんか、好きとか嫌いとか……。
好きな物の話でもしてるのかな……?」
せなは首を傾げる。
湯気の向こうで、しゅいも不思議そうに耳を澄ませていた。
男子達の声は届くのに、肝心の内容は聞こえない。
だから――恋バナはバレなかった。
温泉の湯気は、今日もいくつもの秘密を隠してくれたのだった。
(温泉編・完)
無理。




