湯船の中で、心まで溶けていく
無理。
湯船の中で、心まで溶けていく
それから何時間か経った夕方。
寮の廊下には、撮影を終えたあとのゆるい空気が漂っていた。
みのは自分の部屋から顔を出し、軽く伸びをする。
「せなさん〜!」
せなの部屋の前でノックすると、すぐに明るい声が返ってきた。
「はーい! 開けるよ〜!」
ドアが開き、せなが顔を出す。
部屋の中からは、柔らかいアロマの香りがふわっと流れてきた。
「今日は特別なお風呂の日ですよ!」
「……あ……! 本当だ! 今日、温泉の日じゃん〜!」
せなの顔がぱっと明るくなる。
2ヶ月に一度の“温泉の日”。
車で10分ほどの場所にある貸切温泉に、みんなで行くのが恒例だった。
「男子達、もう車乗ってるので!」
「おっけ」
せなは急いで上着を羽織り、みのと一緒に玄関へ向かった。
「つきましたよー!」
みのが元気よく声を上げると、男子達の車からも歓声が上がった。
「おー!!」
テンション爆上がりの男子達。
温泉の建物は木造で、夕陽に照らされてほんのり赤く染まっていた。
湯気が屋根の隙間からふわりと立ち上っている。
女子達は先に受付を済ませ、足早に脱衣所へ向かった。
「もういっとくね〜」
せなは靴を脱ぎながら言い、みのも続く。
脱衣所で服を脱ぎ、髪をまとめる。
湯気の匂いと木の香りが混ざり合って、どこか懐かしい空気が漂っていた。
「体洗わないで入りたい〜」
「せなさん、ダメですよ」
みのが笑いながら注意する。
体を洗い終え、いよいよ湯船へ。
「あったか〜……ヤバい、天国……」
「貸切だから高かったですけどね〜」
「うんうん。マジ、それ」
湯面が夕陽を反射して、きらきら揺れていた。
その時――。
「ヤッホー!!」
男子達はすでにお湯をかけ合って遊んでいた。
湯気の中で笑い声が響く。
その中で、なぎとが突然言い出した。
「なぁなぁ、貸切だしさ。温泉と言ったら、あれだろ? やらね?」
「お前正気?」
たゆとが冷静にツッコむ。
誰も賛成しないのには理由があった。
――以前、それをやろうとして女子達に見つかり、
“おやつ無し&編集地獄”の罰を受けたからだ。
「じゃあ恋バナしようぜ」
「は、は!? お前何急に……!」
あおばは顔を真っ赤にして、お湯に沈みかける。
「いいんじゃない〜?」
たゆとが軽く賛成する。
「じゃあまずは言い出したお前から。お願いします、なぎと」
「なんで俺なんだよ!」
「だってお前から言い出したんだろ?」
「それはそうだけど……!」
なぎとは耳まで真っ赤になっていた。
「好きな人なんていないし……!」
「嘘だ〜。だってお前、前に俺にせなが好きって……」
「お前黙れー!!」
なぎとは慌ててあおばの口を塞ぐ。
「ちょ、離せ……!」
「無理無理!」
もみ合いながら、あおばは必死に叫ぼうとする。
「みんなー! なぎとは……せ……事が……き……だよ!」
口を押さえられているせいで、言葉がぐちゃぐちゃだ。
「あおばお前もう黙っとけ!」
なぎとはあおばの額を軽く叩く。
あおばはその場にうずくまり、顔を真っ赤にしていた。
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「で、結局だれなの?」
しゅいが静かに問いかける。
湯気の向こうで、なぎとは小さく震えていた。
「だから……! 言わないって言ってるんだけど……!
もう……! せ……な……。
せな……の事が……好きって言ったんだよ!
……も、もう何も言わにゃいからな……!」
「慌てすぎて噛んでるじゃん笑」
男子全員が吹き出す。
湯気の中で、なぎとの顔は湯よりも真っ赤だった。
無理。




