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ひばり、恋の沼に沈没中

無理。

ひばり、恋の沼に沈没中

部屋の隅、カーテンの隙間から差し込む夕暮れの光が、床に淡く広がっていた。

 せなはひばりの隣に静かに座り、しばらく何も言わずに寄り添っていた。

 ただ、そっとそこにいるだけで、ひばりの呼吸が少しずつ落ち着いていくのが分かった。


 やがて、ひばりがぽつりと口を開いた。


「僕……最年長ですけど……心が弱くて……。

 悲しいこと言われると、すぐこうやって……ダメになっちゃうんです……」


 その声はかすれていて、どこか自分を責めるようだった。

 せなは、そっとひばりの方を見つめる。


「……そっか。つらかったね」


 ひばりはうつむいたまま、ぽろりと涙をこぼした。

 頬を伝った雫が、静かに床に落ちる音が聞こえた気がした。


「でも……ありがとうございます……。

 せなさんが来てくれて……なんか……大丈夫そうな気がしてきました……」


 そう言って、ひばりはゆっくりと立ち上がろうとした。

 けれど、足元がふらつき、扉の前で立ち止まる。

 背中は震えていて、肩も小さく揺れていた。


「……もうちょっと、ここにいたら?」


 せなが優しく声をかけると、ひばりは小さく首を振った。


「だ、大丈夫です……。もう……平気ですから……」


 けれど、その手はわずかに震えていた。

 せなは思わず手を伸ばし、ひばりの手をそっと握った。


「大丈夫じゃないでしょ。

 自分の気持ちに、ちゃんと正直になって。

 本当は……まだ出たくないんじゃない?」


 その言葉に、ひばりはびくりと肩を揺らし、顔を真っ赤にして手を引いた。


「ちょ、せなさん……!? な、なにして……!」


「そんなのどうでもいいの!

 最年長だからって、泣いちゃダメなんて誰が決めたの?」


「で、でも……僕が泣いたら……みんな困るし……」


「困らないよ。

 私だって“怖い”とか言われてるけど、泣くときは泣くもん。

 泣くって、悪いことじゃない。

 むしろ、ちゃんと泣ける人の方が、ずっと強いと思う」


 せなの声は、まっすぐで、あたたかかった。

 ひばりはその言葉に、はっとしたように目を見開き、そしてまた、そっと膝を抱えてうずくまった。


 しばらくの沈黙のあと、ひばりは小さな声で呟いた。


「……じゃあ……とりあえず……

 せなさんにだけなら……甘えても……いいですか……?」


 その声は、かすかに震えていて、でもどこか安心を求めるような響きがあった。

 せなは満面の笑みを浮かべて、力強くうなずいた。


「もちろん!」


 そのまま、せなは勢いよくひばりに抱きついた。

 ひばりは驚いたように固まったが、すぐにその肩の力が抜けていく。


 ふたりはしばらく、何も言わずに寄り添っていた。

 ひばりの涙は、やがて静かに止まっていた。


「……なんか、ありがとうございます……」


「ううん。私こそ、ひばりの意外な一面が知れて、ちょっと嬉しかったよ」


「だ、誰にも言わないでくださいね……! 絶対ですからね……!」


 ひばりは顔を真っ赤にして、慌てて言った。

 せなはくすっと笑って、指を一本立てる。


「分かってるって〜。これは、ふたりだけの秘密ね」


 ふたりは顔を見合わせて、照れくさそうに笑い合った。

 その笑顔は、どこかほっとしたようで、あたたかかった。


「……ズル……」


 ――ちなみに、しゅいは廊下の隅から、

 羨ましそうにふたりを覗いていたのだった。

無理。

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