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俺の黒歴史が今、保存されました

無理。

俺の黒歴史が今、保存されました

そしてその後、もう二つのグループの発表も無事に終わり、

画面の録画ボタンが赤からグレーに変わった瞬間、

部屋の空気がふっと緩んだ。


「……疲れた……」


ソファに深くもたれながら、せながぽつりと呟く。

肩の力が抜けて、ふわっとした笑みがこぼれていた。


「おやつ〜……」


みのも、どこかぐったりした様子で、せなの隣にぽすんと座り込む。

ふたりの間に、録画を終えたあとの静けさと、心地よい疲労感が漂っていた。


 


一方その頃、部屋の隅では——



「……みの可愛すぎるやろ……。みのが可愛すぎる……」


「くそ……。せなのやつ……キスってなんだよ……!」



小声で呟くふたりの男子がいた。

みおとは、みのの一挙手一投足に悶え、

なぎとは、さっきの“事件”を思い出して頭を抱えていた。



そのとき、せながふと立ち上がり、なぎとの方へ歩いてくる。



「あ、ねぇ、なぎと」


「な、なんだよ!」



なぎとは、びくっと肩を跳ねさせて振り向いた。

その反応に、せなはくすっと笑う。



「キスシーン、本当は想定してなかったんだけど……やってくれてありがとね」


 

「べ、別にいいし……! 質問に答えるって言ったんだから、あれぐらいしないといけないってか……!」


なぎとは、目を逸らしながら早口でまくしたてる。

耳の先まで真っ赤になっているのは、言うまでもない。


「でも……やってくれて、ちょっと嬉しかったよ」


 


「……は!? おま……それ、ど、どういう……!」



「ふふ、どういう意味でしょうね〜」


せなは、ウインクひとつ残して、スキップ気味にその場を去っていった。

なぎとはその背中を見送りながら、ぽつりと呟く。


「……せな、あんな顔してウインクとかしてきて、こっちは顔真っ赤で頭ん中ぐっちゃぐちゃになってんのに、なんであいつは平然としてんだよ……。

 可愛すぎだし……。マジで意味わかんねぇし、てか俺、なんであいつに照れてんだよ……」

 


その瞬間、背後から声がした。



「好きなんじゃないですか?」


「……そんなわけねぇって思ってたのに……さ。

 なんか最近、あいつの顔見ると……胸のあたりが変でさ……。

いや、別にそういうんじゃねぇし……。

 でもちょっと違う気もしてきて……って、うわっ!? お前、マジでいつからそこに……っ、なぁ!? 今の……聞いてたとか言ったら、マジで……マジでやべぇからな……!」


 

なぎとは、慌てて振り返る。

そこには、にやにや顔のみのが立っていた。

手にはスマホ。画面には、さっきの“独り言”がばっちり録画されている。

 


「ふふ〜、なぎとさんってば、ひとりで何ぶつぶつ言ってるのかな〜って思ってたら……まさかあんな甘々な独り言が聞けるとは……! いや〜、耳が幸せでした♡ 録音もバッチリです〜!」


「いや、ちょっと待てって……。

 今のは違ぇだろ、独り言だし、聞かせるつもりなんて一ミリもなかったし、録るとかマジで反則だろ……。

っ、あんなの残されたら俺、マジで……無理だって……! てか、なんでそんなニヤニヤしてんだよ……。

 っ、もういいから……さっさと消せ!!」


「ふふ……あんなに照れてたのに、録られてるの気づいてなかったんですね〜。

 独り言、全部バッチリ入ってましたよ?

 “可愛すぎ”とか“胸のあたりが変”とか……。

 あれ、せなさんが聞いたら、どんな顔するんでしょうねぇ……。

 せなさんに見せよっかな〜」


「おい、ふざけんなよ……!

 お前、どんだけ性格悪いんだよ……!

 あんなのただのノリだし、深い意味とかねぇし……。っ、いや、ちょっとはあるかもしんねぇけど……。

 と、とにかく、せなに見られたら終わりなんだよ!!」


「じゃあ、条件付きでどうですか?」



「は……?」


 

なぎとは、眉をひそめる。

嫌な予感しかしない。だが、消してもらわないと困るのも事実だ。



「チッ……やるよ……」


 


「ふふ〜っ。じゃあ、これからは私のお願い、ぜ〜んぶ聞いてもらいますからねっ! どんなお願いかって? うーん、それはそのときのお楽しみっ。 でも、“何でも言え”って言ってくれたの、なぎとさんですから〜? ちゃんと、責任とってくださいね〜♡」


「……は? ……お前、今なんつった……? 俺が……お前の命令に……? ……ふざけんなよ……そんなの、やるわけねぇだろ……っ、ぜ、絶対嫌だ……!」

 


「じゃあ、この録音、せなさんに聞かせちゃいますよ〜?」


「そ、それは……! みの、卑怯だぞ!」



「で、どうするんですか〜?」



「……マジで、お前卑怯だぞ……。……しょうがない……やるか……」



みのは、満面の笑みで手を叩いた。


「じゃあさっそく! なぎとさんは〜、せなさんのことが〜……好きですかっ?」


「はぁっ!? ……お前、なに言ってんだよ……! は? 誰がそんなこと……っ、言うわけねぇだろ!? てか、いきなり何その質問!? お前、マジで性格悪ぃな……!」

 


なぎとは、眉をひくつかせながら、思わず声を荒げた。

けれど、その声の端っこが、ほんの少しだけ震えている。


「……今それ聞くとか、頭おかしいだろ……」


「別に頭おかしくても大丈夫です!」


なぎとは、目を逸らしながら、ソファのクッションをぎゅっと握る。

足先が落ち着きなく揺れているのを、本人は気づいていない。



「……っ、マジで……お前、性格悪ぃ……」



みのはにこにこしながら、スマホを構えたまま首をかしげる。



「で、どうなんですか〜?」



「……うっせぇな……」

 


なぎとは、髪をぐしゃっとかきあげて、

深く息を吐いた。

それから、ほんの一瞬だけ、目を閉じる。



「……言わなきゃダメかよ……」



「うん」



「……チッ……」


 

小さく舌打ちして、なぎとは顔をそむけたまま、

まるで壁に向かって話すように、ぼそっと呟く。


 

「……好き……」



「え? 聞こえな〜い」


 


「……だからっ……! 好きだって言ってんだよ、俺は……せなのことが……っ! ……っ……もう……これ以上言わせんなよ……バカ……」


言い終えた瞬間、なぎとはクッションに顔を埋めた。

耳まで真っ赤に染まり、背中がじわじわと熱を帯びていく。


「おー! やっぱり〜! うんうん、なんかそんな気がしてたんですよね〜。だって、あのときの目線とか、声のトーンとか、全部バレバレだったし! ふふ、やっぱり私の勘、当たるな〜」


「だ、誰にも言うなよ!! マジで!! 絶対だかんな!! ……っ、頼むから……ほんと、頼むから……! これ以上、俺を恥ずかしくさせんなよ……!」

 

顔を隠したまま、声だけが怒鳴る。

でもその声は、どこか甘くて、

怒っているというより、“恥ずかしすぎて死にそう”な防衛反応にしか聞こえなかった。


「分かってますって〜。でも……明日から、楽しみですねぇ。どんなふうに使おうかな〜。あ……いいこと思いついた」



「お前、絶対今、悪だくみ思いついただろ……!」



「そんなことないですよ〜?」



みのは、にっこりと笑って、くるりと踵を返す。

その背中からは、明らかに“企み”のオーラがにじみ出ていた。


「俺の人生……これからどうなるんだ……?」



なぎとは、天を仰ぎながら、

絶望と照れと、ほんの少しの期待を胸に、

ゆっくりと自分の部屋へと歩いていった。


——その耳は、やっぱり真っ赤なままだった。

 

無理。

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