酔っているから言える事、全部行ったーーふたりの理性はどこへ
ごめん、無理
酔っているから言えること、全部言ったーー2人の理性はどこへ
パクっ。
その瞬間、口の中にふわりと広がったのは、
透き通るようなミントの清涼感と、ほろ苦いチョコレートの深み。
甘さと苦さが溶け合って、まるで――恋の味みたいだった。
「……おいし……」
せなが、ぽつりと呟く。
その声は、どこかとろけていて、頬がほんのり赤い。
一方、しゅいも一口食べて、思わず口元を手で覆った。
冷たさと甘さが舌に広がって、思考がふわっと浮かぶ。
(なにこれ……すご……)
こんな味、初めてだった。
でも、どこか懐かしくて、胸の奥がじんわり温かくなる。
ただ――ふたりは、メニューの隅に小さく書かれた注意書きを見落としていた。
*注意*
このパフェにはリキュールが使用されています。
お酒に弱い方はご注意ください。
そう、ふたりとも――お酒には、めっぽう弱かった。
「なんか……おかし……」
せなが、椅子の背にもたれかかる。
頬がほんのり赤く染まり、目元がとろんとしている。
「……ん……」
しゅいも、額に手を当てて目を閉じた。
頭がぽかぽかして、思考がふわふわと浮かんでいく。
(あれ……なんか……あったかい……)
店内は、午後の光が差し込んでいて、
窓際の席には、やわらかな陽だまりが落ちていた。
その中で、ふたりはゆっくりと、甘さとアルコールに包まれていく。
「ねぇ、しゅい〜。私のこと、好き?」
せなが、頬を赤く染めたまま、テーブルに肘をついて、
とろんとした目でしゅいを見つめる。
その目は、ミントゼリーみたいにふわふわ揺れていて、
しゅいの心臓をじわじわ溶かしていく。
「ん……? 好きだけど、なに?」
しゅいも、頬を赤らめながら、少しだけ首をかしげる。
声が、いつもより甘くて、ゆるい。
「え〜? 本当〜?」
「うん、本当だよ。……せなこそ、俺のこと好き?」
「だいすき〜〜♡」
「……ふふ、なんか……せなって、酔うとすっごい甘えんぼになるんだな……」
「えへへ〜、しゅいが好きすぎて〜♡」
「それ、酔ってるって言うんだよ……」
「じゃあ、しゅいは? 酔ってるの?」
「んー……たぶん、酔ってる。
だって、せなのこと、めっちゃ可愛いって思ってるし……
なんかもう、全部可愛いって思ってるし……
それ、たぶん……酔ってるからだよな……?」
「えっ……」
「……いや、酔ってなくても、可愛いとは思ってたけど……
今はなんか……可愛いが……すごい……」
「しゅい……」
「……てか、なんでそんな可愛いの……? ずるくない……?」
「え、ずるくないもん〜」
「ずるいよ……そんな顔で“だいすき〜”とか言われたら……
俺、もう……なんか……脳がバグる……」
「しゅい、酔ってる〜〜」
「うん、酔ってる。
でも、たぶん……酔ってなくても、
せなのこと、好きだったと思う……」
「……しゅい……」
「……てか、今の俺、何言ってんだろ……?
なんか、口が勝手に……」
「ふふ、いいよ〜。もっと言って〜」
「……ほんとに可愛いな、せなって……」
「えへへ〜」
「ねぇ〜、俺たち……そろそろ付き合わね?」
「えー? 別にいいけど〜?」
「ほんとに? “いいけど〜”って、そんな軽くていいの?」
「うん〜。だって、しゅいと一緒にいると、
なんか……ぽかぽかするし〜、
ドキドキするし〜、
あと……顔が好き〜〜♡」
「ありがと……俺も……せなの笑った顔、めっちゃ好き……」
「え〜、じゃあ、もっと笑わせて〜〜」
「……じゃあ、付き合ってくれたら、毎日笑わせる」
「えっ……それ、プロポーズじゃん〜〜♡」
「え、マジで!? やば……俺、今、何言った……?」
「ふふ、もう遅いよ〜〜。録音しとけばよかった〜〜」
「やめて〜〜」
しゅいは、顔を真っ赤にしながら言った。
自分でも何を言ってるのか分からない。
でも、せなの体温がまだ腕に残っていて、
それだけで、頭がぽかぽかしていた。
「じゃあさ、せっかく付き合ったんだし、カップルっぽいことしよ?」
「え? なにそれ〜」
「……たとえば、抱っことか?」
「えー、恥ずい〜」
そう言いながらも、せなは笑っていた。
ふたりとも、何を言ってるのか、どこまでが本気なのか、
もう自分でもよく分かっていなかった。
「じゃあ、行くよ……?」
「う……うん……」
ギュッ。
しゅいがそっと腕を回すと、せなも反射的にしゅいの服をぎゅっと掴んだ。
ふたりの体温が触れ合って、頬が一瞬で熱くなる。
「ね、ねぇ……そろそろ離して……」
「あ、ご、ごめん……!」
ふたりは、そっと距離を取った。
でも、目が合った瞬間、また沈黙が落ちる。
「……待って、これ……早すぎなかった?
付き合ってそんなに経ってないのに、抱っことか……」
「ん……いるよ、そういう人……たぶん……」
しゅいは、目を逸らしながら言った。
「眠……」
「私も眠い……」
「でも、起きてなきゃ……店の中だし……。って、せな……寝たらダメじゃん……」
「……zzz……」
「……あーあ、寝ちゃった……」
しゅいは、せなの寝顔を見つめながら、
そっとため息をついた。
「……でも、これだったら……何してもバレないよな……」
そう呟いて、しゅいはそっと身を乗り出す。
せなの顔に、そっと顔を近づけて――あと、1センチ。
そのとき。
「……? って、せな近っ!? な、なに!?」
しゅいは、はっと我に返って、慌てて唇を押さえた。
顔が一気に熱くなって、耳まで真っ赤になる。
「ってか……体、あっつ……。冬なのに、なんでこんな……」
しゅいは、自分の手を見つめる。
指先がほんのり赤くて、心臓の音がやけに大きく響いていた。
(……さっき……せなが……何かしたのか……?)
「……寝てるし……」
「……zzz……」
「……かわい……」
しゅいは、せなの寝顔から目が離せなかった。
長いまつげ、ほんのり赤い頬、ゆっくり上下する肩。
全部が、やけに愛おしくて、胸がぎゅっとなる。
「……ちょっとだけ……」
しゅいは、そっと手を伸ばして、せなの頬に触れた。
ふわふわで、あたたかくて、
触れた指先が、じんわりと熱を帯びていく。
「……起きないし……。もうちょっと……好き放題……しよっかな……」
しゅいは、そっとせなを椅子に寄りかからせて、
自分の手で、彼女の肩を支えながら、ゆっくりと動かす。
「よし……」
せなが寝てなかったら、絶対できない。
でも今だけは、許される気がした。
しゅいは、そっとせなの膝に頭を乗せた。
ふわりとしたスカートの感触と、せなの体温が、
じんわりと頬に伝わってくる。
「……あったか……」
目を閉じると、せなの香りがふわりと鼻をくすぐった。
ミントと、せなと、恋の匂いがした。
(……これ、夢だったらどうしよう……)
しゅいは、そっと目を閉じた。
そのまま、ふたりだけの甘い午後に、静かに沈んでいった。
無理




