ミントゼリーに、二人の距離が映ってた
無理です
ミントゼリーに、二人の距離が映ってた
「ん……」
何分か経って、しゅいがゆっくりと顔を上げた。
頬に少しだけ跡がついていて、目元はまだぼんやりしている。
「目、覚めた?」
せなが、少しだけ心配そうに覗き込む。
その距離の近さに、しゅいは一瞬びくっと肩を揺らした。
「あ、うん……。なんか、ごめん」
「いいよ。全然大丈夫。でも、お腹空いたから早くなんか頼も!」
「うん……」
しゅいは照れ隠しのように、慌ててメニューを開いた。
視線を泳がせながら、ページをめくる手が少し震えている。
その中で目に入ったのは、「から過ぎ!?特製カラミアンパスタ」。
名前からして、尋常じゃない辛さを予感させる。
でも、しゅいは辛いものが好きだった。
「じ、じゃあ……俺は、この、カラミアンパスタで」
「じゃあ、私は……普通にチーズハンバーグで」
せなは、少しだけ間を置いてからそう言った。
その声が、ほんの少しだけ沈んでいたのを、しゅいは気づいていなかった。
注文が決まったので、ふたりは店員呼び出しボタンを押す。
「はーい! ご注文お伺いしますー」
「え、えっと……チーズハンバーグ一つ、カラミアンパスタ一つでお願いします」
「ご注文は以上ですか?」
「だよな、せな?」
「あ……うん」
せなは、ほんの一瞬だけ視線を落とした。
その瞳の奥に、わずかな迷いが揺れていた。
(……やっぱり、言えなかった)
本当は、ミントショコラパフェを食べたかった。
“恋が実る”なんて噂はさておき、あの透明なミントゼリーとチョコの層を、
スプーンですくってみたかった。ただ、それだけなのに。
すると、店員さんがふとせなの顔を覗き込んで、優しく声をかけてきた。
「お客さん。ミントショコラパフェはいいんですか?」
「あ……えっと……。食べたかったけど……その……しゅいと……付き合うなんて……考えられなくて……」
言葉を選びながら、せなは顔を真っ赤にしてうつむいた。
頭の中が熱でぐるぐるして、言葉がまとまらない。
「ってことは……あちらの方、嫌いなんですか?」
「いや、違います! 嫌いじゃなくてむしろ好……。いや、なんでもありません! そして、頼みません!」
「……俺は頼んでほしかったんだけどな……」
「え……?」
しゅいのぽつりとした呟きが、せなの耳に届いた。
その瞬間、せなの頭の中が真っ白になる。
(……え? 今、なんて……?)
しゅいは、自分の言葉に気づいて、顔を真っ赤にした。
「っ……! あ、あれは、ち、違うくて……! その……いや……あの……」
「……て、店員さん」
「はい、なんですか?」
「ミ、ミントショコラパフェ一つお願いします……」
「は、え、ちょっ……せな……!」
しゅいは、顔を覆うようにして机に伏せた。
耳まで真っ赤で、もう限界といった様子だった。
「はーい」
店員さんはにこにこと笑いながら、注文を受けて戻ろうとしたが、
ふと立ち止まり、せなの耳元にそっと囁いた。
「付き合えたらいいですね」
「え……え……!!」
せなは、心臓が跳ねる音が聞こえた気がした。
顔が一気に熱くなって、思わず手で頬を押さえる。
(な、なに今の……! 無理……! 顔、絶対真っ赤……!)
しばらくして、料理が運ばれてきた。
「はい、お待たせしました〜。チーズハンバーグとカラミアンパスタと、ミントショコラパフェです」
「い、いただきます……」
「……」
しゅいは、無言でカラミアンパスタを口に運んだ。
一口食べた瞬間、舌がビリビリするほどの辛さが襲ってくる。
(か、辛っ……! これ、やば……!)
でも、今はせなの顔を見られない。
話しかける勇気も出ない。
だから、黙って食べるしかなかった。
(……でも、せなと話したい……。黙ってるの、なんか……さみしい)
こうして、ご飯を食べ終えたふたり。
でも、まだ“あれ”が残っていた。
テーブルの中央に、そっと置かれたミントショコラパフェ。
ガラスの器の中で、ミントゼリーが光を受けてきらきらと揺れている。
「……あ、あのさ。悪いし、一緒に食べない?」
せなが、スプーンを手にしながら、そっと言った。
声は小さく、でもどこか嬉しそうだった。
「別にいいけど……」
しゅいは、パフェの存在を思い出した瞬間、
顔が一気に赤くなった。
「じ、じゃあ……いただきます」
せなは、少しドキドキしながらも、そっとスプーンを差し入れた。
ゼリーの表面に、静かに波紋が広がる。
「じゃあ、俺も……いただきます……」
しゅいも、そっとスプーンをすくい、口元へ運ぶ。
パクっ。
ふたりのスプーンが、同じ器の中で、そっと触れた。
無理です。




