泣き逃げしたせな、ひばりに保護される
泣き逃げしたせな、ひばりに保護される
せなは廊下の隅で、
膝を抱えてうずくまっていた。
胸が苦しくて、
息が浅くて、
頭がぐちゃぐちゃで。
(どうしよう……
なぎとにも……
しゅいにも……
あんなこと言って……
わたし……どうしたら……)
涙がにじむ。
その時――
コツ、コツ。
静かな足音が近づいてきた。
「……せなさん?」
その声は、
驚くほど優しくて、
落ち着いていて、
ひばりだった。
せなは顔を上げる。
「ひ、ひばり……?」
ひばりはしゃがみ込み、
せなの顔を覗き込んだ。
「……泣いてるんですか」
「な、泣いてない……!」
「泣いてますよ」
ひばりは淡々と言う。
でもその目は、
誰よりも心配そうだった。
「……ちょっと、こっち来てもらえますか」
「え……?」
ひばりは立ち上がり、
そっと手を差し出した。
「ここじゃ……落ち着かないでしょう」
せなは戸惑いながらも、
その手を取った。
ひばりの手は温かかった。
---
ひばりの部屋は静かで、
整っていて、
どこか落ち着く空気があった。
ひばりはドアを閉めると、
せなの前に立ったまま、
しばらく何も言わなかった。
その沈黙が、
逆に胸を締めつける。
「……せなさん」
ひばりはゆっくりと近づき、
せなの肩にそっと触れた。
「さっきから……
ずっと苦しそうでした」
「……っ」
「なぎとさんのことも、
しゅいさんのことも……
全部、背負いすぎです」
ひばりの声は静かで、
でもどこか震えていた。
「……そんな顔、
見たくないんです」
せなは息を呑む。
(ひばり……?)
ひばりは、
せなの頬に触れそうで触れない距離で止まった。
「……本当は……
ずっと言いたかったことがあります」
胸が跳ねる。
ひばりは深く息を吸った。
---
「……せなさん」
名前を呼ぶ声が、
いつもよりずっと弱くて、
でも真っ直ぐだった。
「……僕は……
せ、せなさんのことが……
好きです」
せなは目を見開く。
「ひ、ひばり……?」
ひばりは視線をそらさず、
続けた。
「なぎとさんや、しゅいさんみたいに……
強く言えないし……
奪うこともできないけど……」
喉が震えている。
「でも……
せなさんが泣いてるのを見るのは……
もう嫌なんです」
せなは胸がぎゅっとなる。
ひばりは、
せなの手をそっと握った。
「……せなさんが誰を選んでも……
僕は……
あなたの味方でいたい」
その言葉は、
静かで、
優しくて、
でも痛いほど真剣だった。
せなは震える声で言う。
「ひばり……
わ、わたし……
今……頭がぐちゃぐちゃで……
返事とか……できなくて……」
ひばりは微笑んだ。
「返事はいりません」
「え……?」
「ただ……
せなさんが苦しい時、
僕のところに来てくれたら……
それで十分です」
その優しさが、
せなの胸を締めつける。
(ひばり……
なんで……
そんな優しいの……)
せなは涙をこぼしながら、
小さく呟いた。
「……ありがとう……」
ひばりはそっと、
せなの頭に手を置いた。
「……泣かないでください」
その声は、
誰よりも優しかった。




