泣くのは弱さじゃなくて、助けを呼ぶサイン
泣くのは弱さじゃなくて、助けを呼ぶサイン
せなは氷を押さえたまま、
なぎとの顔を覗き込んだ。
「……えっと……胸意外に痛いところは……?」
なぎとは少しだけ目をそらし、
ゆっくり息を吐いた。
「……頭……まだズキズキする……
動くと……ガンって響く……
あと……首の後ろも……重い……
目の奥も……チカチカする……
息吸うだけで……ズキッてくる……
なんか……全部……重い……」
せなは一瞬で表情を曇らせた。
「そんなに……痛いの……?」
「……あぁ……
正直……立ってるだけで……クラクラする……
喋ると……響くし……
頭の中……ずっと……ガンガンしてる……
……気持ち悪い……」
その声は、
強がりを捨てた“本当の痛み”だった。
せなは氷を押さえる手に、
そっと力を込めた。
「……大丈夫じゃないじゃん……」
「……大丈夫じゃねぇよ……
でも……お前が……こうしてくれてるから……
なんとか……なってる……」
その言葉に、
せなの胸がぎゅっと締めつけられた。
「……そっか……じゃあ……もっと冷やすね……」
せなは氷の位置を少しずらし、
なぎとのこめかみを優しく撫でるように押さえた。
「冷たい……?」
「うん……気持ちいい……」
「それならよかった……」
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そして、なぎとの呼吸が少し整ってきた頃、
せなはそっと口を開いた。
「……ねぇ、なぎと」
「……ん……?」
「……あの時……
なんで……あんなに怒っちゃったの……?」
なぎとは目を閉じたまま、
しばらく黙った。
せなは急かさない。
ただ、氷を押さえながら待った。
やがて――
なぎとはゆっくり口を開いた。
「……怒ったんじゃねぇよ……」
「え……?」
「怒ったんじゃなくて……
限界だった……
頭……痛すぎて……
誰の声も……入ってこなくて……
全部……うるさくて……
でも……みんな心配してんのも分かって……
どうしたらいいか……分かんなくて……
……逃げたかった……」
言葉が途切れた。
なぎとは眉を寄せ、
喉の奥で小さく息を震わせた。
「……情けねぇよな……
あんな……キレたみたいになって……
お前にも……心配かけて……
ほんと……俺……」
そこまで言った瞬間――
なぎとの肩が、
ほんの少し震えた。
せなは気づいた。
でも、何も言わなかった。
なぎとは唇を噛み、
目をぎゅっと閉じた。
「……俺……
一人で歩いて……
転んで……
起き上がれなくて……
誰もいなくて……
……怖かった……」
その言葉は、
かすれていて、
震えていて、
今にも消えそうだった。
「……っ……」
ぽたり。
涙がひとつ、
なぎとの頬を伝って落ちた。
続けて、もうひとつ。
涙は止まらないわけじゃない。
でも、止めようとしても止まらない、
そんな種類の涙だった。
なぎとは手の甲で拭おうとしたが、
腕が震えてうまく動かない。
「……悪い……
見んなよ……こんなの……
情けねぇ……」
せなは息を呑んだ。
「だ、大丈夫? ち、ちょっと待ってて!!」
せなは慌てて立ち上がり、
ティッシュ箱を抱えて戻ってきた。
「なぎと……動かなくていいから……!」
せなは膝をつき、
震える手でなぎとの涙をそっと拭った。
「……優しくするから……」
ティッシュが頬に触れるたび、
なぎとは目を閉じた。
その表情は、
痛みと悔しさと安心が混ざった、
複雑な顔だった。
「……悪い……」
「謝らなくていいよ……
泣きたくなる時くらい……あるよ……
痛かったんだもん……
怖かったんだもん……
泣いていいよ……」
せなの声は、
驚くほど柔らかかった。
なぎとは唇を噛み、
小さく震える声で呟いた。
「……お前が……来てくれて……
ほんと……助かった……
お前……来なかったら……
俺……どうなってたか……」
「……うん……」
せなは微笑み、
なぎとの頬をもう一度そっと拭った。
「これからは……一人で行かないでね……?」
「……あぁ……
もう……行かねぇよ……
絶対……」
その言葉は、
弱くて、
でも確かだった。




