Episode.11 終着地
「ロープで降りるぞ、外に」
紅一はそう言いながらポケットから軍手を3セット取り出して投げる。
「窓から……」
雪は窓から下をのぞいて唾を飲み込む。
「あの……私やりますよ」
ロープの端を結びつけるのに手こずっていた紅一に、猿谷が声をかける。
「私バレー部で、ネット張る時の要領でたぶん巻けると思います」
「あぁ。ありがとう」
紅一は葵にロープを渡す。
葵は扉を叩く音に震えながらも、素早く縄を机の脚に巻き付ける。
その時、理科室の扉を叩く音が増して、キィッ!という鍵が軋む音がした。
と同時に猿谷はロープを巻き終わる。
「できました!」
それを聞いた蒼はロープを窓から垂らす。
「よし、全員軍手はつけたな?まず俺が降りて安全確認する。そのあとすぐに降りてこい!落っこちても俺が受け止めてやる」
そう言うと紅一は素手でロープを掴んで窓から出た。校舎の壁を蹴りながら素早く下っていく。
ロープは地面から2メートルほどの高さで途切れていたので、紅一は飛び降りる。
「アオイ、竹刀!」
蒼は竹刀を2階から落とし、下で紅一が受け取った
「雪、次行ってくれ」
そう言う蒼に頷き、雪は窓に足をかける。その時
「おい!待て、来るな!」
紅一が叫ぶ。校舎内に入っていなかったゾンビ数匹が紅一に向かっていく。紅一は竹刀を構えている。
──助けに行かねぇと。
その時背後から、ゾンビが扉を叩くバンッ!!という音がした。どうする。降りて紅一を助けたい。でも行けば雪と葵さんが危ない。
その時、下からドカッ!という大きな音がした。
「紅一!?」
蒼が視線をドアから窓の外に移すと、軽トラがバックで紅一の目の前に居たゾンビを撥ね飛ばしていた。
運転席には……桃が座っていた。
「無茶すんな兄貴!」
「桃!助かった!お前運転できたのか!」
「私が車に興味無いわけなくない!?運転の仕方だけは知ってた!」
再び起き上がろうとするゾンビを紅一が竹刀で払って、ロープから遠ざけてゆく。
蒼は今しかないと思い、雪を下ろす。
雪は地面を見下ろし、なかなか踏み出せずにいる。
「雪ちゃん!大丈夫!?あっそうかスカートだったか!大丈夫、上見ないから!」
「違っ……」
雪は顔を赤らめると、スカートの裾をギュッと握った。
「ちゃんと上見て受け止めてくださいよ!」
雪は顔を赤くしたまま降り始めた。
雪を紅一が受け止めた後、蒼は猿谷にロープを渡す
ドアを叩く音は最高潮に達している。
「あの、お兄さんが先に」
「いいから!行け!!」
猿谷はロープを手に窓から滑り降りた。蒼がドアを振り返ると、バギッッ!と鍵のイカれる音がした。
「クソっ」
蒼はロープを掴んで窓を飛び出す。同時にゾンビが科学室に溢れ出す。
地面に着く直前に上を見上げると、ゾンビが窓から手を伸ばしていた、ロープが揺れる。
「アオイ!急げ!」
振り返ると校舎の壁からすぐ側に軽トラが停まっていて、雪と猿谷が助手席に詰めかけ、運転席には桃が、荷台には紅一が立っていた。
「危ねぇアオイ!」
蒼が上を見上げると、頭上から大口を上げたゾンビが降ってきていた。
蒼はロープにつかまったまま力強く壁を蹴り、ロープを放して軽トラの荷台に飛び込んだ。車体が大きく揺れる。
降ってきたゾンビはそのまま頭から地面に突き刺さる。
「アオ兄!……っしゃあ車出すよ、掴まって!」
桃が校門に向かってハンドルをきる。しかし道に転がっていた死体か何かにタイヤが乗り上げてしまった。
衝撃でハンドルが乱れ、校門の柱にフロントから突っ込む。
「うわっ!」
荷台の2人が大きくよろめいて倒れた。
後方からは、2階の窓から降ってきては立ちあがるゾンビの軍団が迫ってきている。
軽トラをバックさせて再発進させようにも、後ろにゾンビが居てスペースがない。
荷台で倒れていた紅一は黙って立ち上がる。そして竹刀を構えた。
「蒼、悪いが桃たちだけでも逃がすぞ」
紅一は覚悟を決めた男の目をしていた。
「……付き合うよ」
蒼も不敵な顔をしながら立ち上がった。
前方からは無数のゾンビが迫ってきていた。




