Episode.10 絶体絶命
背後からドシャッ!という音がして3人は振り返ると、雪が倒れている。
雪は床に伏せたまま、自分の足元を見て目を見開いている。雪の足元は蒼の位置からでは靴箱の影になっていて見えない。
「ッッ!!……キ ャ ァ ァ ァ ァ !!」
雪は倒れたまま叫ぶ。周囲に響き渡る叫び声
「雪!?」
蒼が駆けると、雪はゾンビに足を掴まれていた。
そのゾンビには腰から下がなく、本来体の内側にあるべきものが抜け出ていた。
蒼は手にしたバットで雪を掴むゾンビの腕を殴る。
その後ろから素早く紅一が飛び出して来て、叫ぶ雪の口を塞いでゾンビから引き剥がす。
そのゾンビは既に腕を動かすことしかできなくなっていたが、ここまで地面を張ってきたのだろう。
2人が学校に突入した時は、靴箱の影にでも居て気ずかなかったのだろう。
紅一はブルブル震える雪の肩を担いで、蒼と猿谷を振り返る。
「お前ら!嫌な予感がする。走るぞ!」
その時、蒼の携帯がなった。電話に出ると相手は桃で、焦っている様子だった。
「アオ兄、大丈夫!?そっちなんかあったの? 今ドローンでグラウンド見てたんだけど、さっきの声でゾンビが校舎に向かってる!!逃げて!!」
遠くから地面が震える音がする。蒼は生唾を飲み込んだ。
「行くぞッッ!!」
蒼、猿谷、雪を背負った紅一は軽トラを目指し走り出す。
しかし遅かった。校門から侵入した4匹のゾンビが、軽トラと蒼一行の前に立ちふさがる。
振り返ると、グラウンドから昇降口までの道に大量のゾンビが向かって来ていた。
──ここで止まれば囲まれる。
「校舎に戻るぞ、紅一!」
「クッ……分かった!」
紅一は昇降口に引き返して走り出す。
蒼も走り出そうとした時、猿谷が震えて動けずにいるのに気づいた。
「猿谷さん!?」
「……」
猿谷は大量のゾンビに身動きが取れなくなっていた。
蒼は放心状態の猿谷の手を掴むと昇降口へ走り出した。
昇降口に入る瞬間、左側から猿谷にゾンビが襲いかかってきた。
蒼は片手でバットを振り、殴る。ゾンビをのけぞらせることはできたが、バットはゾンビに掴まれて失った。
振り返ると、ゾンビの集団が海のように蠢きながら近づいてくる。
「アオイ!確か2階の理科室の鍵が開いてた!そこに逃げ込むぞ!」
4人は息も絶え絶えに理科室へたどり着いた。そして鍵を閉めた後ドアの前に机を積む。
外からはけたたましくドアを叩く音がする。ドアはそう長く保ちそうにない。
紅一は桃に電話をかける。
「桃!すまん、もう一度アイツらを誘導できねぇか?」
「ごめん!さっきのでドローンの充電切れちゃってる」
猿谷と雪は呆然とした顔で扉を見ている。
紅一と蒼は目を合わせて頷き、窓を見る。
まだ奥の手は残してある。
「桃。今校舎がどうなってるか分かるか?」
「えつと…校舎の周りにいたゾンビが、1階と2階にパンパンに詰まってる」
「今軽トラの周りは安全か?」
少し間が空いた。桃は車の窓を覗き見たようだ
「大丈夫そ。ここら辺には遠くに2・3匹しかいない」
「よし、エンジン吹かせとけ」
そう言って紅一は電話を切ると、蒼の肩にかかっていたロープを受け取った。
蒼は窓から顔を出し下を確認している。
「お兄ちゃん達、何するつもり?」
雪はおずおずと聞く。
「こんなことになる気がしてね、準備してきた」
続いて、ロープを理科室の巨大な机の脚に結びつけながら紅一が言う
「ロープで降りるぞ、外に」




