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サマー・レガート  作者: 雪村灯里
『透花さんのスケッチブック』 篠崎 七海

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8/10

番外 透花さんのスケッチブック 1/3

「透花さんのスケッチブック」――私立神木ヶ原学園・高等部三年・篠崎しのざき七海ななみ――


 明日からの夏休みを歓迎するように、空は青く蝉は賑やかに鳴く。しかし、私の心は真逆でずっしりと重い。

 なぜなら、私は今日で美術部を引退する。それに伴って、この高校の美術部は長い歴史に幕を降ろすから……。



 元々三年生3人だけで回していた部活だ。一・二年生の入部希望者がいなかった時点で、未来は分かっていた。


 生徒数の減少に、それに追い打ちをかける今流行りの生成AI。そっちに人が流れてしまった。しかも、私達のように生成AIを使わない者は『時代遅れの変人』と白い目で見られる。だから今後も入部希望者は望めない。はぁ……世知辛い。


 世の中に文句を言っても、廃部の事実は変わらない。


 私は終業式の後、私物を回収するために美術室に来ていた。美術室は一角をパーテーションで仕切られ、その奥に美術部員が使うロッカーが並んでいる。他の二名は名義のみの部員なので、持ち帰る荷物なんて無い。


 私はゆっくりとロッカーの扉を開ける。三年間の活動を思い出すように、荷物を持ってきたトートバックに詰めて行く。


(少ない部員だったけど、先輩や先生に恵まれて楽しかったな……。他の部とコラボしたり、いい経験したなぁ……)


 私の三年間は、あっという間に鞄に収まってしまった。「ありがとうございました」と軽く頭を下げてロッカーの扉を閉めると、今度は一番右端のロッカーの前にしゃがみこむ。


(透花さんの荷物はどうしよう……?)


 私は目の前のロッカーを開けると、一冊のスケッチブックを取り出した。


 グリーンの表紙には『2-5 夏瀬なつせ 透花とうか』と名前が書かれ、油性マジックで可愛く落書きされていた。

 このスケッチブックを先輩から託され日を、昨日の事のように思い出せる。スケッチブックを優しく撫でてぽつりと零した。


「私も後輩に、このスケッチブックを託したかったな……現れないかな? 後輩」


 ――コンコンコン!

 

 (ノック? 誰だろう?)


 私はスケッチブックを抱えたまま教室の方へと向かう。扉が視野に入ると同時に引き戸がガラリと音を立てた。


 引き戸を開けたのは、見慣れない男子生徒だった。珍しい、中等部の生徒だ。


 子供っぽさが残るものの、やや長い色素の薄いブラウン髪に、整った顔。彼の佇まいや纏う空気は優しい。日焼けしてないラインの細い体はきっと文化系の部活だ。そんな邪推をしていた私に、彼は申し訳なさそうに尋ねた。


「勝手に入ってすみません。大丈夫でしたか?」

「はい、片づけていただけだから大丈夫です。先生ですか? 先生は新棟の職員室に……」

「いえ、ここに用事が有って来ました。初めまして、僕は神木かみき 龍巳たつみといいます。神木ヶ原中の3年です」


 神木君はすっとお辞儀をした。艶やかな髪が、光を反射しながらサラサラと揺れる。美しいお辞儀に見とれてしまった私も、彼に倣い頭を下げた。


「どうも、私は篠崎しのざき 七海ななみです。高3で、美術部部長です。神木って……まさか」

「ええ、この学校の理事の孫です。祖父がいつもお世話になっております」


 お世話になってる方は私の方だ。しかし何と腰が低い。 彼は中二病を発症するのだろうか? 想像できない。


 そんな彼に敬意を込めて、私も丁寧に尋ねる。


「美術室に何か御用ですか?」

「はい、美術部の見学に。僕に絵を教えてくれた先輩もここの美術部だったので」


 彼は朗らかな笑顔を見せた。美術部の見学と聞いて嬉しくて胸が高鳴りそうだったが、現実を思い出すと高まった気持ちは萎れた。この悲しい現実を彼にも告げなければならない。それも先輩の仕事だ。


「残念だけど、美術部は今日で廃部なんです。私が最後の美術部員で人間は誰もいなくなっちゃいました」


 うっかり、『人間は誰もいない』なんて余計な事を言った口を塞いだ。彼もその言葉と私の態度が気になったのか聞き返してくる。


「人間は?」


 彼の目は優しいけど、質問の答えを蛇のように狙っていた。正直に答えないとこの柔和な空気が壊れそうで怖かった。


「……この美術室には、幽霊が出るんです。夏休みの幽霊・透花さん」

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